第30話 戦闘準備

「これは流石にまずいかも!?」


 ドロドロから慌てて距離を取る二人。

 警戒しつつ見ていると、ドロドロが何かの形に変化していく。


「……あれは……プリン?」


 その形は、弱いモンスターの筆頭であるプリンだった。

 しかし、大きさはそれの何倍も大きく、見上げるほどの高さになっている。


「ひっ!」


 さらに、その目のようなものが現れて、思わず悲鳴を上げてしまった。

 ギョロッとした目が、二人の事を見下ろしている。

 それは、まるで捕食対象を見つけた魔物のようで……


「!? 避けて!」


 突如、そいつから何かが飛び出してきた。

 すんでのところで横に飛んでそれを避けた。


 先程までいたところを見ると、そこにはプリンから伸びた黒い触手が地面に突き刺さっていた。

 うねうねと動いている触手は見ているだけでも嫌悪感がある。


「あれに当たったらまずそう!」


 ドロドロの中に人骨があったため、もしかしたら自分たちも吸収されるかもしれない。

 それでなくても、触手に囚われるなどごめんだ。


「雫月ちゃん! どうする!?」


「ひとまずこのままでは分が悪いです! 逃げましょう!」


 鳥楽音から問われた雫月はすぐさまその判断をした。

 なにせ、雫月が今つけているのはホシイヌ。

 サブとして、クリアクリオネもつけているが、基本的な攻撃方法は直接での攻撃だ。


「了解! それじゃあ……バブルミスト!」


 鳥楽音が手からいくつもの泡を発生させて飛ばす。

 攻撃性能はないが、目眩ましにはなるはずだ。

 案の定、無数の泡によってプリンは動きを止めている。

 その隙に、二人は部屋から飛び出した。


「……あんなモンスター見たこと無いですね」


「確かに、あれは謎のモンスターなんだよ」


 扉から出たところで二人は立ち止まり、準備を始めた。

 すぐに、ホシイヌのウェアを解き、他のモンスターに変更しようと、ソウルストーンを取り出した。

 その間、鳥楽音はいた部屋の中を覗いていたのだが……


「雫月ちゃん!? 追ってきてるよ!」


「えっ!?」


 鳥楽音の声に驚いて振り返ると、プリンが追ってきている。

 巨大なドロドロがこちらに迫ってきているのはなかなかの恐怖だ。


「まさか追いかけてくるなんて……!」


 てっきり、あの部屋から動かないものだと勘違いしていた。


「ひとまず逃げるんだよ!」


「ええ!」


 鳥楽音の言葉に、雫月はすぐさま逃げ出そうとして。


「とりあえず! ウェアしないと!」


 ホシイヌのウェアは解いてしまった。

 少しだけ考えて、ロックプリンのソウルストーンをウェアした。

 そのまま、鳥楽音と一緒に逃げ出した。


「思っていたよりも速い!」


 ズルズルとこちらに迫ってくるプリンは、こちらと同じくらいの速度だ。

 長い一直線の廊下だから、他の部屋に逃げ込むこともできない。


「とりあえず、ロックウォール!」


 雫月は後ろを振り返り、廊下を遮るように岩壁を作った。

 隙間なく張られた岩壁でプリンの様子は見えなくなった。


「これで一息つけるといいんだけど……」


 ロックプリンを選んだのは、壁の能力そして、遠距離攻撃ができるからだ。

 少なくともこの長い廊下では壁が効果的に働くはず……だったのだが。


ガッ!


 岩壁から音がして、そちらの方を見ると、先程も見た黒い触手が岩壁を突き破っていた。

 そのまま見ていると、触手の先が膨れ上がっていく。


「そんな隙間で通れるの!?」


 雫月は驚いて叫んだ。

 岩壁に空いた穴は10センチにも満たない、しかし、プリンは自由に身体の形を変えられるため、通り抜けするのには十分だ。

 すぐさま逃げた二人。

 結局また追うもの追われるものの状態になってしまった。


 長い廊下を走り抜けて、やっと他の部屋が現れた。


「戦うのには狭すぎる!」


 しかし、廊下に沿うように並んだ部屋は全てが個室という感じで、とてもではないが戦える広さではない。


「とりあえず、ロビーに戻りましょう!」


「賛成なんだよ!」


 時折、岩壁を設置しながら、逃げていく。

 その結果、プリンとの距離を離すことに成功してロビーまで戻ってくることができた。


「……ロックウォール!」


 最後にロビーに繋がる扉を岩壁で封鎖して、二人は一息をついた。


「……追ってくるかな?」


「どうでしょう……でも、なんとなく追ってくる気がします」


 目が合った時の事を思い出すと、雫月はそう言った。

 完全にこちらのことを獲物として狙って執着しているような感じがした。

 となれば、戦うための準備をする必要がある。


「とりあえず、なるべく近づかないように、遠距離攻撃できるようにしておきましょう」


「うん、あ、でも僕はそのままなんだよ」


 鳥楽音の場合は、そもそも変更するウェアがない。

 スパークヒヨコのヒビキと最近封印したバブルカメの組み合わせが、最良の組み合わせだ。


「私は……」


 雫月は一旦ウェアを解き手持ちのソウルストーンを取り出す。

 ホシイヌのツキヨウは強いが、物理攻撃しかないので今回は除外。

 ダブルウェアをするという意味では、クリアクリオネはいて損はない。

 そのため、メインのシンクロするモンスターをどちらにするかということなのだが……


「……やっぱり、ミルキーでしょうか」


 結局雫月は、ロックプリンのミルキーを選んだ。

 理由としては、やはり相手からの攻撃を避けるのに、壁があったほうが良いということ。

 足の遅さはデメリットではあるが、クリアクリオネの速度でカバーできると思ったからだ。


 レーダーコンドルのソウルストーンをしまい、ロックプリンをウェアする。


「でも、どうやって戦う?」


「……そうですね……」


 鳥楽音の言葉に、雫月は考え込む。

 こんな時に陽花がいたら、何か案を考えてくれるのだが……今は自分が考えるしか無い。


 今の手持ちのモンスターの特徴、さらに相手のモンスターの特徴。

 それに加えて、自分たちの実力。

 それらをまとめて、最適な戦い方を考える。


「一つ作戦を思いつきました」


 やがて一つの作戦が浮かんだ。


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