第29話 危険なモンスター

「えっと……」


 落ち着いたところで辺りを見回す。


「あれ? 狐珀さんがいませんね」


 いつの間にか一緒に上がったはずの狐珀がいなくなっている。


「いったいどこに……」


「おーい、こっちじゃ!」


 狐珀の声が聞こえてくる。

 声のする方を見ると、ちょっとした丘になっているその上に狐珀がいた。

 ひとまず、狐珀のところに向かう。


「あれが件の研究所じゃ」


 狐珀が指さす先には、大きな建物があった。

 丘で隠れていて見えなかったが、明らかにダンジョンには不釣り合いの人工物だ。


「確かに研究所っぽいですね……廃墟になってますが」


 いつ頃から放置されているかわからないが、壁や天井はところどころ崩れ落ちていて中も見えている。

 さらに、窓ガラスも全部割れている。


「今にも崩れそうなんだよ」


 鳥楽音の感想通り、建物はいつ崩れてもおかしくない雰囲気だ。


「すぐに崩れるというわけではあるまい、まぁ、崩れても避ければいいのでな」


 狐珀はそう言うと、廃墟へ向かっていく。

 雫月と鳥楽音も後に続いた。


「近くで見ると結構な大きさですね」


 上から見たときも結構な広さだったけれど、近くから見てみるとさらに大きく感じる。


「いったいなんの研究をしてたんでしょう?」


「さぁの、儂も軽く中を見たが、よくわからんかった」


 ただ、こんな人目を隠すように建てられた研究所なんて、ろくでもないに違いない。


「さて、ここからはお主らに任せるとするかの」


「あ、はい」


 どうやら案内はここまでということだった。

 モンスターを見つけるまでついてきてもいい気がするが、万が一狐珀がモンスターに吸収されたらとんでもないことになる。

 そのため、狐珀はここで待機しているとのことだった。


「じゃあ、行ってきます」


 二人は狐珀に告げて、研究所の中へと入っていく。


「廃墟のどこに、例のモンスターがおるかわからぬから、油断せぬようにな」


 狐珀は腕を組んでそれを見送った。



「うわぁ、めちゃくちゃ荒れてるんだよ……」


「ですね、ガラス片が散乱してます」


 研究所に入ると、そこはロビーのような広い空間だった。

 しかし、その広い空間は外から見たとおり荒れていた。

 割れた窓ガラスの破片がちらばっており、さらに研究の残りとも思われる濡れた紙が地面に張り付いている。


「あ、雫月ちゃん、カレンダーが貼ってあるんだよ」


 鳥楽音が指さす先には、壁に貼られたカレンダーがあった。

 その最後の日付は……


「あれ? 1年前くらいですね」


 考えていたよりもこの研究所が使われていた時期は新しいようだ。


「一年でここまで劣化するんですね」


「きっと、モンスターが暴れたとかなんじゃないかな?」


「そうかもしれませんね」


 そもそも、この研究所はいったい誰が作ったものなのか。

 何を研究していたのか。

 そして、なぜ放置されてしまったのか。


「まぁ、とりあえず、狐珀さんに言われたモンスターを倒したら、研究所のことを調べましょうか」


「うん、そうしようか」


 まずやるべきことは安全の確保、ということで件のモンスターを探して歩く。

 廊下を進み、一つ一つの部屋を確認しながら進んでいく。

 しかし、研究所の中は広く、件のモンスターの姿は見えない。


 それどころか、他のモンスターの姿も一切見えない。


「……なんか、変ですね」


「狐珀さんが言ってたように、例のモンスターが吸収しちゃってるから、他のモンスターがいないのかな?」


「それっぽいですね……」


 ダンジョンの中なのにモンスターがいないのは、奇妙な感じがする。

 つまり、それだけ圧倒的な存在がいるということでもあるのだ。


 いっそうの警戒をして、二人は研究所の中を探索していく。


ズッ


「うん? 今何か……音がした?」


「ひょっとして何か引きずるような音? 僕も聞こえたんだよ」


 二人して聞こえたのは、何か重い何かが地面を引きずられるようなそんな音。

 ひょっとしてと思った二人は頷き合って、音がする方向へ向かう。

 扉がない長い廊下を進んでいくと、音はますます大きくなっていく。

 そして突き当りには一つの扉があった。


 頷きあって、二人は扉を開けた。

 その部屋は、他の部屋と比べても広く、ちょっとした体育館くらいの広さがあった。

 部屋の中は完全に荒れきっていて、天井が完全になくなっていて、青い空が見える。


 崩れ落ちた天井は、何故か部屋の中心に集まっていて、その上には何かドロドロのくらい何かがあった。


「あれはいったい……?」


「うわぁ、なんか凄い匂いがするんだよ」


 その何かからは腐敗臭に似た匂いがする。

 正直、この場にいるだけで逃げ出したくなるような酷い匂いだ。


 しかし、放置するわけにも行かず、鼻を押さえて雫月はドロドロに近寄っていく。


「何かが動いて……あれは? モンスター?」


 近づいてみると、黒いなにかに一部色がついているのがわかった。

 よく見ると、それはモンスターの顔だった。

 驚いた表情で目を見開き、口を開けて固まっている。

 完全に死相だった。


「これは……ひょっとして……」


 狐珀が言っていた、例のモンスターは他のモンスターを吸収すると。

 つまり……


「雫月ちゃん! あれ!」


 隣りにいた鳥楽音が指を差した。

 そちらを見ると、


「まさか! 骨!?」


 ドロドロの中に骨を見つけた。

 それは明らかに人の頭の骨だった。


「まさか、人間も!?」


 思わず驚きの声を上げてしまった。

 その瞬間。


ズズッ


 ドロドロが動き始めた。

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