第28話 海中行動

 配信を終了し、いつもであればここで帰るところなのだが……


「ふむ、終わったようじゃな」


「ええ、お待たせしました」


「無事に終わったんだよ」


 物陰から狐珀が出てきた。

 雫月と鳥楽音も驚くことなく狐珀を迎え入れる。


「ふむ、儂も隠れて見ておったが、なかなか盛り上がっておったな」


 狐珀は自分のスマートフォンを見せてくる。

 そこには、放送が終わったにも関わらず、まだコメントをして盛り上がっている人たちがいる。

 放送が大成功だった証とも言えるだろう。


「流石にダブルウェアは皆さん驚いてましたね」


「まぁの、そもそもシンクロ自体できぬ者が多いからな」


 ダブルウェアによってこれまでよりもできることが格段に増える。

 今回の放送はそれを証明したのだ。

 業界ごと騒然になるに違いない。


「ふふ、セイヨウのやつが頭を抱えそうじゃな」


 その反応を見て狐珀も笑う。

 まぁ、きっと陽花の両親は色々な問い合わせに追われることだろう。


「さて、それでは、その分を仕事をしてもらうとするかの」


「はい、頑張ります」


「ここからが本番なんだよ」


 本来であれば、陽花の両親に行くはずだった仕事。

 それを解決するために向かうことにした。



「この辺りじゃな」


 狐珀は少しルートを戻り、そこからルート外へと進んでいく。

 雫月と鳥楽音もウェアしてそれについていく。


 ルート外に出たことで見たことのないモンスターとも出くわすようになってきたが。


「邪魔じゃ!」


 狐珀がモンスターを蹴散らしていく。

 その中には、先程戦ったキャノンクジラのような巨大なモンスターもいるのだが、狐珀はただの雑魚モンスターのように粉砕する。


「狐珀さん……私と戦った時は全然全力じゃなかったんですね」


「まぁの、あの時の儂はお主を試すつもりだったしの、ああ、しかし、あの追跡する太陽は本気じゃったぞ」


「あの時は……本当に怖かったです……」


 思い出しても身震いする。

 あれが避けられなかったら、とんでもないことになっていたに違いない。


「戦った感じだと、あれくらいはなんとかすると思ったのでな」


 結果的になんとかなっているからいいものの……という感じではあるが。



「さて、この辺りから潜っていくのじゃ」


 狐珀は立ち止まり指を差す。

 そこからは、急に海が深くなっていた。

 ここからは海の中に潜っていくことになる。


「水の中で戦うのは大変なんですよね」


「僕の方はあんまり動かないからいいけど、雫月ちゃんは大変そうなんだよ」


 陽花の家の簡易ダンジョンで訓練はしたが、それでもまだ自信を持って戦えるとまでは言えない。


「そもそも、抵抗は少ないですが、会話も出来ませんからね」


「濡れないし、呼吸ができるだけ凄いと思うんだよ」


「それはそうですが」


 水の中に入っていきつつ、会話を続ける。

 水属性のモンスターをウェアしていることで、呼吸はできるようになっているが、会話はできないので、おしゃべりはここまでだ。


「さて、はぐれず儂についてくるのじゃぞ」


「「はい」」


 なんとなく息をめいいっぱい吸い込んで、海の中に入っていく狐珀を追いかける。



 水中には地上よりも多くのモンスターが漂っていた。

 そもそも、この水の大海はほとんどが水中ゾーンだ。

 ある意味では、ほとんど開拓されていない未知のエリアとも言えるだろう。


 雫月と鳥楽音も海の中に入るのは初めてだったが、思わず目を奪われてしまった。

 多くの魚系のモンスターが優雅に泳ぎ回り、辺りはものすごく穏やかだ。


 下を見ると、光が届かないはずなのにキラキラと輝いている。

 よく見るとそれは、植物の花のようだった。

 あれもモンスターなのかな? なんて雫月が思っていると、ちょいちょいと腕を引っ張られた。


 そちらを見ると、鳥楽音が上を指差している。

 上は海面しかない、そう思いながらも見上げて、またしても息を飲んだ。


 キラキラと煌く水面が太陽の光を反射して輝いている。

 さらに、自分たちの息が空気の泡となって上に上がっていく。

 耳を済ませると、パチパチと泡が弾ける音がしてなんとも神秘的だ。


 もしも、喋れたら感動で叫んでいたかもしれない。

 この感動を共有すべく、雫月は鳥楽音の方を向き、満面の笑みと共に手で丸を作った。

 鳥楽音も同じように応えて、お互い笑いあった。


 と、まぁ、感動の海の中を楽しみながら進んでいく。


 近寄ってくるモンスターのほとんどは琥珀に向かっていき、それを撃退しながら進んでいく。

 その理由は、狐珀が指から小さな光を放っているからだ。

 光に反応してモンスターがそちらに寄っていく。


 そのため、雫月と鳥楽音はモンスターに襲われることはない。

 水中での戦いが苦手なのでありがたくついていく。


 しばらく進んでいくと、狐珀が止まり、指を指す。

 そこには、大きな岸壁に3人が並んで通れるくらいの海中洞窟があった。


 その中を行くのだとすぐにわかり頷いて返す。

 狐珀はその洞窟の中に入っていき、二人もそれに続いた。


 洞窟の中は、他の光が一切入ってこないため本来であれば真っ暗だ。

 しかし、狐珀の出している光があるため、それが洞窟の中を照らしている。


 洞窟の中を進んでいくと、次第に角度が変わり、上がっていくことがわかった。

 水面が近づいてくる。


 まず狐珀が水面に顔を出し、二人もそれに続いた。


「ぷはっ!」


「はっ! はぁ……なんとなく息吸っちゃうよね」


 やはり少し緊張していたのだろう、喋れるようになった途端に安心して力が抜けたのがわかった。


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