第23話 謎のモンスター

「ダンジョンの中に研究所ですか!?」


 ダンジョンの中に建物を建てる。

 ダンジョンの広さを考えた時に、まず真っ先に提案された話ではあるのだが、未だに構想で終わっている。

 その理由は、当然……


「モンスターに壊されないんですか!?」


 ダンジョン内には、いつどこにモンスターが沸いてもおかしくない。

 気がついたら建物の中にモンスターがいた、なんてことがあってもおかしくないのだ。


 そんな状況で建物を建てるのは、かなりのリスクがあるし、そもそも建てたところで強いモンスターが来たらすぐに壊されてしまう。


「うむ……そこはどうしておったのかはわからんのじゃが……確かに、あれは人工物じゃった」


 しかし、狐珀は確信しているようだ。


「おそらく、何らかの外ではできぬ研究をしておったのじゃろうな」


「外ではできない研究……」


 きっと悪いことに違いない。

 わざわざ危険な場所に研究所を作ってまでして研究する内容は気になるところだが……


 それよりも、狐珀の口ぶりに雫月は違和感を覚えた。


「しておった……ですか?」


 過去形だった。


「ああ、そうじゃ、正確には研究所というよりは、研究所跡地という感じじゃの。今はもう、外見ばかりで人っ子一人おらんかった」


「なるほど……やっぱりモンスターによって壊されたんですかね?」


「ああ、そうじゃろう、その証拠に研究所の中には謎のモンスターがおった」


「謎のモンスター……ですか?」


 狐珀自体も、謎のモンスターではあるが、その狐珀からしても謎のモンスターらしい。


「ああ、見たこともないモンスターじゃった……お主らにはそのモンスターの討伐をお願いしたいのじゃ」


「なるほど? あれ、でも、狐珀さんはそのモンスターを見てきたんですよね? 自分で倒さなかったんですか?」


 雫月と狐珀では狐珀の方が強い。その狐珀がわざわざ、雫月に頼んでくる意味がわからない。


「うむ、本当は儂も見かけた時に倒そうと思ったのじゃがな……儂には無理じゃったのじゃ」


「狐珀さんで無理? それなら私たちでも……」


 狐珀は首を振った。


「いや、儂が無理だったのは儂がモンスターじゃからじゃ」


「狐珀さんがモンスターがだから無理? どういうことですか?」


「儂が見たあのモンスターは、近づいたモンスターを吸収しておった。儂も近くまで寄ると、少し力を吸収されるのを感じたのじゃ」


「モンスターがモンスターを吸収するんですか!?」


 そんなモンスター聞いたことがない。

 確かに、謎のモンスターだ。


「うむ、じゃから、儂はそのモンスターを倒すのを諦めて、倒せる人間を探したのじゃ」


「それで、私たちが目に止まったというわけですね?」


「ああ、本当は、セイヨウとコウレンに頼もうかと思ったのじゃが、どうやら二人は今は時期が悪いようでな」


 陽花の両親、二人は今シンクロの事業で手がいっぱいいっぱいらしい。

 そのきっかけは、雫月であるので、これはある意味では来るべきして来た依頼かもしれない。


「なるほど……そういうことだったんですね」


 やっと全容を把握できた雫月は納得して頷く。

 確かに自分たちでしか無理だし、水属性のモンスターが必要なのも納得ができる。


「それで、そのモンスターは強いんですか?」


 わからないのはその危険度。

 対象となるモンスターがどのくらい強いのかということだ。


「うむ、見たところでは、儂ほどではないにしろ、結構な強さじゃろう。今のお主らでは……ギリギリというところか」


「……それはかなり強いのでは?」


 流石に狐珀レベルではないことは安心したが、ギリギリと言われてしまっては安心もできない。


「まぁ、そのための修業じゃろう? 任せておけ、儂がお主らを100%勝てるようにしてやるのじゃ!」


 満面の笑み……に不安を感じるのは気の所為だろうか?


「まぁ、ひとまず、今日は疲れておるじゃろうし、長ったるい説明はこのくらいにしようかの」


「……確かに、結構いい時間ですね」


 スマホを取り出して時計を見てみると、帰ってきてから結構な時間が経っている。

 太陽が燦々と輝いているため、時間の感覚が全くわからなかった。


「お~い! 話しは終わった?」


「雫月ちゃん、ほらこっち! 本当に海なんだよ!」


 遠くから呼ぶ声が聞こえた。

 そちらを見てみると、水でぱちぱちゃと遊んでいる陽花と鳥楽音の姿がある。


 最初は話を聞いていた二人だが、いつの間にか飽きて水辺で遊び始めていたらしい。


「ぬぅ! 今行くぞ!」


 狐珀も立ち上がり、二人に向かって駆け出した。


「えっと……私は……」


 どうしたものかと、迷ったが……


「ご安心ください、濡れても乾燥はすぐにできますので。なんでしたら泊まっていってもらっても構いませんよ」


「千晴さん!?」


 今日の放送の反響も見たいし、流石に泊まっていくのは厳しいが……


「お嬢様たちがお待ちですよ?」


「お~い! 先輩! 早く!」


「雫月ちゃん! 水がしょっぱいよ!」


「遊ぶことも重要なのじゃ!」


 誘う声を無視することなんてできない。


「今行きますよ!」


 結局雫月も砂浜を駆け出したのだった。



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