第20話 水の大海

「どうも、ルナルナチャンネルです」


 今日も今日とて配信を開始した。


『おつルナ!』

『おっ? 今日も配信するの? 一昨日配信したばっかりだよね?』

『一昨日、火の火山の攻略が終わったばっかりだよね?』

『そういや、あの狐耳のお姉さんどうなったん?』

『フラワ~ちゃんへの追求はしたのかな?』


 雫月の配信としては、早いスパンの放送のため、視聴者からもそれについて触れるコメントが多い。

 さらに、先日の放送のラストで出てきた狐珀に触れるコメントも多数ある。


「あー、あの女性についてはですね、フラワ~さんにきっちり追求しました。それについてはまた後日ということで……」


 狐珀に関しては、現段階ではあまり触れないことにした。

 やはり、意思を持って話すモンスターという時点で影響力が多すぎるためだ。

 チャンネルとしてはチャンスかもしれないが、余計な混乱になる可能性の方が大きすぎる。


「まぁ、あの女性のことはさておき、今日は水の大海に来ています」


 カメラに景色を見せる。

 そこには、キラキラと輝く砂浜と、青く広がる海が映っている。

 ついでに、水際でぱちゃぱちゃと遊んでいる鳥楽音も映っている。


『海だぁあああああああ!!』

『海ってだけでテンション上がる!』

『まじでここいいなぁ。南国リゾートみたい』

『モンスターさえ出てこなきゃな……』


 Bランクエリアの海の大海は、その名の通り、エリアの大半が海となっている。

 見た目は完全に南国リゾート。ただし、Bランクエリアということもあり、出てくるモンスターの強さはそれなりだ。

 まぁ、入口付近のモンスターはそれほど強くないので、リゾート感覚で遊びにくる冒険者も多いが。


「今日はですね、攻略が目的ではなく、別の目的でここに来ています」


『攻略じゃないのか、それじゃあ、遊びに来たとか?』

『ひょっとして水着回か!?』

『期待していいのか?』


「水着!? いや、そういうのではないですが……!」


 急なコメントに焦る雫月。

 流石に水着を着て配信する勇気はない。

 そもそも雫月の体型では需要が……


「ともかく、今日はですね! モンスターを封印しに来たんですよ!」


 やっと、本題に入ることができた。


『封印? 新しくソウルストーン増やすの?』

『あ、あー、確かに、水の大海の攻略にはするなら、水属性のモンスターはいたほうがいいよね』

『うん? どういうこと? ひょっとしてこの海を泳がないと攻略できないとか?』

『いや、そういうことではないんだけど……』


「一応言っておきますと、ここ水の大海は単にエリアボスを倒すだけであれば、水中の中に潜る必要はありません」


「入り口からエリアボスの間は、浅瀬続きだから足がつくんだよ!」


 遊びから戻ってきた鳥楽音も補足する。


「普通のモンスターでは水に足を取られるんですが、水属性のモンスターですとそれが軽減されるわけです」


 要するに、水の大海を歩きやすくなるわけだ。

 火の火山の時に、鳥楽音が火属性のモンスターで耐性が生まれていたのと同じ用にここも水属性のモンスターだと攻略が容易になるのだ。


「一応、その対策になる装備やドリンクはありますが、私達はちょっと事情もあって、水属性のモンスターを捕まえることにしたんですよ」


『事情? どういうこと?』

『そもそも、ルナちゃんだったら飛んでいけばいいから簡単そう』

『いや、でもルナちゃんだけなら簡単だけど、トラネちゃんは厳しそうかも』


「そうなんだよ! 僕は火属性の子がメインだから、ここは厳しいんだよ!」


 鳥楽音のメインもソウルストーンはもちろん、スパークヒヨコのヒビキだ。

 他のモンスターもいないではないが、ヒビキほど育っているわけではないし、水属性のモンスターは持っていない。


「まぁ、事情についてはまた後日……というわけで、今日は攻略じゃないというのはご理解ください」


『OK! 了解した』

『まぁ、偶にはそんな回があってもいいよね』

『モンスターを封印する配信か、攻略のついでじゃなくてメインってのも新鮮でいいかもね』

『今まで攻略攻略って感じだったもんね』


 視聴者からは、それなりに理解が得られたようだ。


 そんなわけで改めて砂浜を歩く二人。


「とりあえず、歩いてみて、水属性のモンスターが出てきたら捕まえるって感じでいいのかな?」


「ええそれで……」


フラワ~『できればレアモンスターがいいな!』


「フラワ~さん!?」


『鬼畜花wwww』

『姫様はレアモンスターをご所望ですwww』

『これはイレギュラーモンスター耐久かなwww』


 突然、陽花からのレアモンスター要求が入ってしまった。

 視聴者もそれに乗って耐久を煽り始める。

 ちなみに、この流れは別に事前に決めた流れではなく、完全に陽花のアドリブだ。


「ええっと、フラワ~さん? なるべくご期待に添えるようには頑張りますが……期待はしすぎないようにしてくださいね」


 完全にやる流れになってしまったので、雫月は顔がひきつりながらもそんなコメントをするしかない。


フラワ~『期待してるよ! あ、二人共レアモンスターだったら最高だよね!』


「僕も!?」


「トラネさん、一蓮托生ですよ……」


 こうして、二人はレアモンスターを見つけるまで帰れない耐久配信を始めるのだった。


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