第19話 新しい技術
「まず、戦ってわかったが、お主らの実力は一般的な冒険者としては相当なものじゃろう」
翌日、雫月と鳥楽音は狐珀と話をしていた。
「狐珀さんには負けてしまいましたが……」
明確に勝負が付いたというわけではなかったが、あれは実質負けだと雫月は考えていた。
「僕に至っては戦ってすらいないんだよ?」
しかし、狐珀はそうは思っていなかった。
「儂に勝てる者などそうはおらぬじゃろう、経験が違いすぎるわ」
狐珀はそう言って笑った。
「そもそも、シンクロをあそこまで使いこなす者は、世界でも一握りじゃろうしな」
「それは……まぁ……」
他にどのくらいの人がシンクロを使えるかは知らないけれど、少なくとも、自分と同じ用にモンスターの姿にまでなれたというのは聞いたことがない。
あのコウレンでさえも、そこまでは至っていないらしい。
「じゃが、儂はお主らにはもっと強くなってもらいたいと思っておる」
「……それは狐珀さんにも勝てるくらいということですか?」
「いやいや、そこまでは望まんよ。ただ、お主らとモンスターの絆さえあれば、もっと別の技術を使えるようになるじゃろうと儂は思っておる」
「別の技術ですか?」
雫月は狐珀の言葉に興味を持った。
シンクロでさえも、かなりの高等技術だと思うのだが、それとはまた別の技術とはどういうものなのだろうか。
「お主らはソウルストーンを通じて力を借りる際も、モンスターの意識が存在することは知っておるな?」
「ええ、モンスターとの絆によって、シンクロが起きるんですよね?」
「うむ、それはすなわち、モンスターがお主らに力を貸しても大丈夫と安心しているから起きるのじゃ」
モンスターと人とが絆を深めることで能力が上がるというのはそれが理由だ。
しかし、ここで雫月は気がついた。
「……逆に言うと、全く信頼がなければ力を貸してくれないこともあるんですか?」
「うむ、いいところに気がついたぞ」
狐珀は雫月の言葉に満足そうに頷き続けた。
「しかし、実際はほとんどそんなことは起こらない。それは、ソウルストーンという物にモンスターの力を吸収するという機能があるからじゃ」
「……吸収ですか?」
なんとなく不穏な感じがする。
「吸収というのはちょっと大げさかもしれぬの。しかし、ソウルストーンには封印されているモンスターに対して、力をよこせという命令が伝わっているのじゃ」
「そんな機能があったなんて知らなかったです」
「まぁ、モンスターに聞きでもしない限り知らんじゃろうな。しかし、それがあるからこそ、多くの者はソウルストーンを通じて借りることができておるのじゃ」
「なるほど……」
「そして、シンクロをするためには、ソウルストーンの機能だけではなく、モンスター側にお主らに力を貸すという意思が必要になるのじゃ」
「……絆によって、モンスターが力を貸してくれるということですね」
「そういうことじゃ」
シンクロをすることで、いつもよりも強い力を使えるという理由がこれだ。
絆が力を高めてくれることは間違いないが、原理はソウルストーンを通じてモンスター側から力を分け与えてくれるということだ。
「さて、ここで問題じゃ」
原理がわかってスッキリしていたところで、狐珀が指を立てた。
「お主らは基本的に同時に1つのソウルストーンからしか力を借りない。それは何故じゃ?」
急な質問に、雫月は面食らってしまった。
「え、えっと……確か複数のソウルストーンをウェアしても力を発揮されないと……習った気がします」
落ち着いて学校で習ったことを思い出す。
「うむ、それは正しい。じゃが、なぜ力を借りれないかは知っておるか?」
「えっ? ええと……」
考えてみたけれど、ぱっと答えが出てこない。
「先程の話がヒントになるぞ」
ヒント……つまり、モンスターの意思とソウルストーンの機能について……?
雫月は、先程の会話を振り返りながら考えをまとめてみた。
「……ソウルストーンは、モンスターに力を貸せという命令を伝えている……同時に複数の命令をした時には……その効力は半分になる?」
通常は、モンスターは命令によって力を貸している。
しかし、一つの命令を複数に与えることで、一つ一つのソウルストーンの命令の効力は減少するのだ。
「うむ、正解じゃ。なかなか賢いぞ」
狐珀は雫月の答えを褒めて頷いた。
「さて、ここで最終問題じゃ。通常モンスターはソウルストーンの命令によって力を貸してくれている。じゃが、シンクロができるくらい絆があるのに、強い命令が必要と思うかの?」
「あっ……」
「答えは簡単じゃ、強い命令など必要ない。ちょっとしたお願いさえできればモンスターは力を貸してくれるじゃろう」
「……ということはまさか!?」
ここで雫月は、狐珀が言いたかった技術に気がついた。
「うむ、そうじゃ。お主らは、シンクロをすることができる。それも、時に完全に身体を貸してもらえるくらいの絆がある」
「同時に2つのソウルストーンから力を借りられるかもしれないということですか!?」
狐珀は雫月の答えに満足気に頷いたのだった。
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