第15話 乱入者
人間にはありえない獣耳……
「ひょっとしてシンクロ?」
しかし、よく考えた雫月自身も人間にはありえない翼が生えているし、なんだったら、耳も尻尾も生えていることがある。
『あー、なるほど? シンクロしている他の冒険者さんか』
『一瞬めっちゃびっくりしたけど、それなら納得だわ』
『人型のモンスターが現れたのかと……』
聞いたことがないだけで、自力でシンクロにたどり着いた人たちがいる可能性だってあるのだ。
視聴者も雫月を見て、落ち着きを取り戻す。
「あ、あの……」
雫月も改めて、その女性の前に降り立ち声をかける。
「お主が、し……ルナという者かの?」
「えっ?」
女性の声は凛としていて、しかし、どこか古風の喋り方をしていたため、思わず面食らってしまった。
「名を聞いておるのじゃ、お主が配信者のルナというので間違いないかの?」
「あ、はい。私が配信者のルナですけど……」
どうやら、こちらの名前は知っているようだ。
雫月自身、配信者としての名前はそれなりに売れている。
自分の知らない人間が自分の名前を知っているのは、まだ不思議な感覚ではあるが、不思議なことではない。
「うむ、ならば良し」
女性はなぜか、満足気に頷いている。
「あ、あの?」
よくわからない、雫月は戸惑うしかない。
「よし、では改めて、戦うかの?」
「は?」
雫月は、女性の言葉に、またしても面食らってしまう。
今この女性は戦うと言ったのか?
「なんじゃ? お主は、戦うのが嫌かの?」
「嫌というか……意味がわからないですし」
そもそも、ダンジョン内で冒険者同士が戦うのはご法度だ。
雫月は配信もしているし、戦いを見られるのはデメリットしかない。
そもそも、戦う理由がない。
「お主は、モンスターと戦うのに理由を求めるのかの?」
「えっ? いえ、そういうことではなくて……そもそも、あなたはモンスターではないですよね?」
誰かは知らないけれど、人ではあってモンスターではない……はず。
「いや、儂はモンスターじゃが?」
「は?」
「冒険者はモンスターと戦うのが仕事じゃろ? だとしたら儂と戦う理由はあると思うがの?」
「えっ? あなたがモンスター? シンクロしている冒険者ですよね?」
喋る人型のモンスターなんて聞いたこともない。
それに、こちらと会話ができるなんて、モンスターではないはずだ。
「まぁ、信じるか信じないかは自由じゃがの……しかし……」
「えっ?」
雫月の視界から急に女性の姿が消えた。
「モンスター相手に、油断していると痛い目に合うかもしれぬぞ」
「なっ!?」
声が後ろから聞こえたと同時に振り返ろうとすると、急に身体浮いた。
吹き飛ばされたと気がついたのは、壁に叩きつけられた時だった。
「ぐっ!?」
『おいおい、ルナちゃん! 大丈夫か!?』
『なんだこれ!? ガチの事件!?』
『だ、誰か通報!』
雫月の配信には、慌てた視聴者のコメントが殺到している。
モンスターを名乗る女性に急に攻撃されたのだ、それも仕方ない。
しかし……
フラワ~『ストップ! この子は私の知り合いだよ!』
それに陽花が静止する。
「ひ、フラワ~さんの知り合い……?」
雫月もすぐにそれに気がついた。
ギリギリのところで受け身を取ったため、雫月には大したダメージはない。
「ぬ? あやつも見ておるのか?」
女性も雫月に近寄りつつ、カメラに向かって手を振る。
「久しぶりじゃの! お主のお気に入りのやつの力を確かめにきたのじゃ!」
のんきに振る舞う女性に、一気に空気が変わった。
『フラワ~ちゃんの知り合いかぁ……それじゃあしょうがない……』
『うん? つまりどういうことだってばよ?』
『察するに、フラワ~ちゃんの知り合いだけど、ルナちゃんは知らなくて、フラワ~ちゃんが褒めてたから実力を確かめに来た、みたいな?』
『なんつうはた迷惑な……』
フラワ~、陽花の知り合いだということで納得できる陽花への信頼感が厚い。
ともかく、雫月も空気を察することができた。
「えっと、私の力を確かめに来た?」
「うむ、その通りじゃ!」
それなら先に言ってほしかったと思わずため息を付いた。
「ぬ、しかし、本気でかかってくる方がいいぞ? 出ないと、思わずプチっとしてしまうかもしれぬからの」
「……!?」
思わず身震いするほどの殺気を感じて、雫月は思わず身構える。
「ふむ、なかなかの反応じゃ! では、行くぞ!」
女性が高速で雫月に迫る。
それを避けようと、飛んで避ける雫月。
「そっちがやる気なら!」
雫月も気合を入れ直して、戦う覚悟を決めた。
「ヘイルレイン!」
細かい雹を作り出して、それを女性に降らせる。
雨のように細かい大量の雹、とてもではないけど、避けられないだろう。
しかし……
「なかなかの攻撃じゃが、威力不足じゃの」
女性は、手を構えると、薄い膜のようなもので自分を覆う。
それに当たった雹はジュッと音を立てて消えていく。
さらに、
「空に浮かぶというのはある意味では的みたいなものじゃな?」
女性は、掌を上に向けると雫月に向かって炎の球を放った。
「きゃっ!」
炎の球は雫月の翼を貫く。
穴が空いた翼では高度を維持できない。
高度が下がっていく中、なんとか雫月は地上に降り立った。
「ふむ、それがお主の本気かの?」
緩やかに降り立った雫月を女性は、ただ見ているだけだった。
そこにはいつでも倒せるという自信が伺える。
それに、悔しさを覚えた雫月は、一度ウェアを解く。
「私の本気……見せます!」
そして、別のソウルストーンを取り出して、ウェアをする。
ウェアをすると、雫月の姿は変わっていく。
「ウォオオオン!」
それは、いつぞやと同じく、ホシイヌと一体化した姿だった。
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