第5話 ゲーム開始

 配信でもダンジョン探索で活躍している二人が同じチームということで視聴者はもう勝ち確定の雰囲気だ。


『これはもう勝ったろ!』

『いくらモンスターに詳しかったり、ゲーム仕様に詳しくても、冒険者二人の二人のコンビには勝てないでしょ』

『はよ終わらせて次にいこうぜ』


 しかし、そんな声を聞いても雫月としては苦笑いしか出ない。

 風凛は未知数ではあるが、それ以前に……


「フラワ~さんが敵とか勝てる気がしないんですが?」


 そもそも、彼女はソウルウェアなしでもモンスターと戦えるくらいの強さだ。

 シンクロしている状態でも勝てる気がしないのに、レベルが同じではもうお手上げた。


「でも、トラネさんと同じチームなのはまだ……」


 流石の陽花も二人同時に戦いを挑めばまだ……勝ち目がある……かも?


『なんかえらい警戒してるけど、フラワ~ちゃんってそんなにやばいの?』

『いうて、ソウルウェアですらないなら、そんなに強くないんじゃない?』

『ルナちゃんが怯えてる……?』


 視聴者もそんな雫月の様子を見て、なにやら異常事態を感じているようだ。


「と、とりあえず! 早くモンスターを選んでトラネさんと合流しましょう!」


 モンスターは事前に決めていた通り、ホシイヌを選んだ。

 レベルは10程度なので、シンクロができる前の感覚に近い感じだ。

 ウェアをして、すぐに行動を開始した。



「トラネさんはどこに……」


 警戒しながら草原を動き回る。

 シンクロに慣れているせいで、かなり速度が遅く感じる。


『こうして見ると、所々に岩とかがあって隠れられるようになってるんだね』

『マップとかないのかな?』

『全体のマップはあったとしても、流石に人の位置は表示されてないんじゃない?』


 視聴者のコメントで、マップの存在の思い至った雫月。

 すぐに、メニューからマップを開く。


「あった! トラネさんの位置もわかる!」


 流石に敵の位置は表示されていないが、味方の位置はわかるようだ。


「うん? トラネさんが凄い速度で移動してる?」


 マップに表示されている、トラネを示す点がかなりの速度で移動している。

 幸い、そこまで距離が離れているわけではないので、その地点に向かっていく。


「……このあたり」


 大分ポイントまで近づいたところで、周りを見回すと。


「……ぁ」


「うん? 何か聞こえました?」


 人の声が聞こえた気がした。

 トラネが近くにいるのかと声の聞こえた方に寄っていくと。


「うわぁあ! 勘弁してなんだよ!」


「トラネ先輩! 残念だけど、これもゲームだからね!」


 鳥楽音が陽花に追い詰められている姿を発見してしまった。


「くぅ、こっちだって!」


 逃げられないと悟った鳥楽音が反撃に出る。

 鳥楽音の掌からいくつもの炎の球が飛び出して、陽花を攻撃するが……


「そんなんじゃ、流石に当たってあげられないかな?」


 あっさりと、当然のように全ての攻撃を避けて、そのまま肉薄する。


「それじゃあ、またね!」


 陽花が持っているナイフがそのまま鳥楽音の首筋に突き刺さると、鳥楽音はそのまま倒れてしまった。

 鳥楽音が光になって消えていった。

 リスポーンしたのだろう。


 それを目の当たりにした雫月はすぐさま岩の裏へと隠れた。


『なんだよ、フラワ~ちゃん……』

『あの攻撃避けるの!?』

『しかも、ナイフで躊躇なく首にいったな……』

『怖っ!』


 視聴者も驚きのコメントを隠せていない。


「ふむ、さすがといったところだね」


 隠れて覗いていると、風凛が物陰から現れた。


「あ、ふーちゃん、いつの間に!?」


「ふふっ、フラワ~嬢がトラネ嬢を追い詰めた当たりで私も追いついたよ」


「そうなんだ~」


 実は二人は、鳥楽音を見つける前には既に合流していて、逃げた鳥楽音を陽花が先に追いかけたのだ。


「さて、残るはルナ嬢だけだが……私の計算によると、すぐそばまで来ていてもおかしくないかな」


「っ!」


 雫月はその言葉に思わず息を飲んだ。


「あ、そうだね。多分あそこかな?」


 陽花が指差したのはまさに雫月が隠れている岩。

 ぶわっと冷や汗が吹き出したのを感じた雫月はすぐさま、逃げ出した。


『なんでわかるの!?』

『隠れるところ見られてた!? あの戦闘中に!?』

『フラワ~ちゃんやべぇええええ』


 流石の視聴者もフラワ~こと陽花に対する考えを改めたようだ。



 ホシイヌの素早さを活かして、最高速で逃げる雫月を陽花は見送った。


「あ~、逃げられちゃったねぇ」


「まぁまぁ、そうすることも予想通りだね」


 雫月が逃げたのを見送った二人は、話し合いを始める。


「さて、次はどうする~?」


「うむ、そうだなぁ……とりあえず、向こうは合流してこちらを狙ってくるだろう」


「そうだね、それじゃあ、それを阻止するために相手を探す?」


「だな、私のモンスターが索敵をできるから、こちらが見つかるよりも先に見つけられるだろう」


 風凛の連れているモンスターは、センサーネズミというネズミのようなモンスターだ。

 センサーネズミは、戦闘能力こそ低いものの、索敵能力が非常に高くこういった役割には最適だ。

 運動能力に自身がなかった風凛は初めからペアになった相手のサポートをするつもりでこのモンスターを選んだのだ。


「さすがふーちゃんだね!」


 そして、今回ペアとなったのは単体では最強の陽花。

 このペアに対して、雫月がどう対処するのか見物だ。

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