第6話 無理ゲー

 ホシイヌの足の速さのおかげもあって、なんとか陽花から逃げ切った雫月。


「フラワ~さんが敵って考えると正直絶望しかないです」


 勝てるイメージが全く浮かばない。


『フラワ~ちゃんやばない? どうなってるの?』

『なんか、事前にゲームやっててレベル上げてたとか?』

『それはちょっとずるくない?』


「あ、いえ、あれはフラワ~さんの素の力ですね。フラワ~さんは生身でモンスターと戦えるくらいの能力の持ち主ですし」


 雫月の言葉に視聴者も驚く。


『ウェアなしでモンスターと戦える!?』

『えっ? 流石に冗談では?』

『いくらモンスターに詳しくても流石にそれは……』


「いえ、本当ですよ。うちの子達とも戦って翻弄してるところを何度も見てます」


 陽花の強さの秘密は、観察眼にある。

 数多のモンスターと遊びとして戦ってきたため、モンスターの特徴や動きを見抜く力がずば抜けているのだ。

 もっとも、それがわかった上で反応できる身体能力も凄いのだが。


「今回は、一応、身体能力的にはウェアするモンスター以外の違いはないはずですので」


 その点はまだいい。

 ただし、それでも陽花の強さは変わらない。


「フラワ~さんに攻撃が当てられる気がしないのが問題ですね」


『うーん、たしかにトラネちゃんの攻撃を全部避けてたところを見ると、真正面から挑んでも全部避けられそう』

『そうなると不意打ちみたいな?』

『それしかなさそうだなぁ』


「そうですよね」


 雫月も視聴者に同意する。

 真正面から戦っても勝てないなら奇策を取るしかない。


「ひとまずはトラネさんを探すとしましょうか」


 周りを警戒しつつ、鳥楽音を探すのであった。



「ようやく合流できました!」


「ルナちゃん! よかったんだよ!」


 今度は運がいいことに、雫月は鳥楽音と合流することができた。

 改めてお互いの状況を把握していく。


「私は、ホシイヌにしましたが、トラネさんは何にしたんですか?」


 元々のトラネのモンスターであるスパークヒヨコは特殊するぎので実装されていない。


「僕はカエンチョウにしたんだよ」

 

「火属性の蝶でしたっけ?」


「そうだよ。スパークヒヨコに近いかな? って思ったんだけど、そうでもなかったんだよ」


 カエンチョウは火の火山に出てくる蝶のモンスターだ。

 小さい見ながら、火の球を飛ばして攻撃してくる。

 ただ、スパークヒヨコとは違って当然回復などはできない。


「魔法には結構な耐性があるはずなんだけど、フラワ~ちゃんとは相性が悪かったんだよ」


 カエンチョウは魔法には強いが物理攻撃には弱い。

 先程、陽花にナイフ一撃で倒されていたのはそのためだ。

 まぁ、ナイフで首を刺されたら誰だって致命傷だが。


「ちなみに、戦っていてフラワ~さんが何をウェアしているかとかわかりました?」


「うーん、わからなかったんだよ。僕は逃げるだけで精一杯だったんだよ」


「そうですか……」


 今のところ、フラワ~の情報はなし。

 結構なピンチだ。


「それでも、負けるわけにはいかないですよね」


「うん! 僕だってこのまま負けるわけにはいかないんだよ!」


 二人にだってプライドはある。

 それに、このままストレート負けをしてしまっては、配信上もあまり良くない。


「せめて、フラワ~さんに一矢報いたい!」


『ルナちゃん、トラネちゃん、頑張って!』

『フラワ~ちゃんの強さはわかったから無理はしないでね』

『まぁ、一応ゲームだからね……』

『ゲームは本気で楽しむものだろ!』


 視聴者からの応援もあって、二人は気合を入れ直す。


「そういえば、風凛さんはどうしてるんですかね?」


 敵は陽花だけではなく、風凛も一緒なのだ。

 陽花の方の情報は手に入らなかったが、せめて風凛の情報だけでもほしいところ。


「あ、そういえば、僕は風凛さんに見つかったんだよ」


「フラワ~さんにではなくですか?」


「うん、僕は二人がいるところ見かけてね、すぐに隠れたんだけど、風凛さんが何かをフラワ~ちゃんに言ったら、真っ先にフラワ~ちゃんが僕が隠れているところに寄ってきたんだよ」


「姿は見られなかったんですよね?」


「うん。僕の方が二人の後ろにいたから、二人には見られていないはずだよ」


 これは貴重な情報だった。


「もしかすると、風凛さんは索敵ができるモンスターをウェアしているのかもしれませんね」


 というか、十中八九間違っていないだろうと思った。


「そういえば、私が見ていた時も風凛さんは近くにいたのをわかっていたような……」


 計算だなんだ言っていたけれど、モンスターの能力であるならば、わかるのも当然だ。

 もっとも、陽花には素で見られていた可能性も高いが。


「そうなると、フラワ~さんのサポートとして、索敵の風凛さんがいるわけですか……」


 少し情報をまとめただけでも、相手が厄介なことがわかった。


『強力なアタッカーにサポートの索敵かぁ……』

『理想のチームだなぁ……あとは回復役がいれば最高だが』

『回復役いたらそれこそ勝ち目がないね』

『フラワ~ちゃんのモンスターがわかっていないのがやっぱり怖いね』

『流石に回復系のモンスターではないと思いたい……』


 陽花ならありえないというのが怖いところだが……

 流石に可能性は低いと考えた。


「不意打ちを打つしかないなぁって思ってたんですが、それも厳しそうですか」


 少し残念だが、早く気がつけてよかった。

 しかし、そうなると作戦は考え直す必要がありそうだ。



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