第4話 ゲーム配信

 バーチャルのダンジョンに入ると宣言をした後、4人はそれぞれ機材の準備を始める。


『バーチャルのダンジョンか! そんなこともできるのか!』

『ちょっとしたゲームみたいな感じ?』

『ソウルウェアじゃなくてもダンジョン体験をできるってこと!?』


「おっ! いいところをつくね! そう! ソウルウェアじゃなくてもダンジョンを体験することができるんだ」


 準備をしている風凛が嬉しそうにコメントを拾う。


「ゲーム内では最初に一匹のモンスターを選び、それをウェアすることができる。そしてダンジョンを攻略することができるんだ。当然、モンスターの封印もプログラムされている」


『まじでダンジョンみたいだ!』

『そんなゲームあったの? VRゲームは割りとやってる方だけど、聞いたこと無いんだけど』

『俺もやってみたい!』


「このゲームはアカデミーの研究部門で開発しているものでね……まだ開発中なんだよ」


「それを今日ここで体験させてもらうというわけです」


『アカデミーでの開発! そんなこともやってるの!』

『研究の一貫……なのか?』

『ほら、擬似的にダンジョンを再現できればシュミレートとかできるし』

『確かに、どのくらいのレベルなら戦えるかとか、そういうのがわかるかもしれないのはいいかもね』


「まぁ、さっきはダンジョンを攻略なんて言ったけど、今できるのは入った人同士で戦うことだけだけどね」


 ダンジョンを攻略できるようにする、というのはあくまでも開発の目標であって、今はまだその初期段階ということだ。

 それでも、モンスターをウェアした時の感覚などはかなりリアルに再現されているゲームだ。


『なるほど、それはそれで面白そう』

『なんか対戦ゲームっぽい感じでやってみたい!』

『リアルじゃ、ソウルウェア同士の戦いなんて訓練以外は普通はしないからね』

『普通にご法度だからなぁ……』

『ソウルウェア同士の本気バトルが楽しめるってこと!?』


 リアルでは命をかけたソウルウェア同士の戦いは完全にNGだ。

 それが見れるということもあって、視聴者は盛り上がる。


『あれ? つまり、この4人で戦うってこと?』


「はい、そういうことです」


 現在ここにいるのは4人。


『流石に、現役の冒険者相手は不利なのでは?』

『ルナちゃんか、トラネちゃんが圧勝しそうな感じだが……』

『いや、でもフラワ~ちゃんは解説もしてるし、なんか強そうな気がする』

『そうなると、風凛さんが一番弱いのかな?』


「あ、ちなみに、フラワ~はソウルウェアじゃないからね。ただの一般人だよ」


『え? そうなの?』

『それで大丈夫なの!?』

『いや、でもソウルストーンは同じやつ使うわけじゃないんでしょ?』

『でも、戦い方とかは流石に、現役の人間のが得意じゃない?』


 陽花のことを全く知らない視聴者がそんな反応になるのは当然だろう。

 日々ダンジョンで戦いをしている人間と、そうではない人間、その差は歴然……のはずだ。


「現在はまだソウルストーンの読み込みには対応していないから、全員同じレベルのソウルストーンをウェアすることになるね」


 つまり、雫月で言うと、ツキヨウは連れていけない。

 そのため、シンクロも当然できない。まぁ、そもそも、シンクロはシステム的に実装されていないが。


「ちなみに、選べるモンスターにホシイヌはいるから、雫月嬢はそれを使うといいよ」


「えっ? いいんですか?」


「ああ、もちろん、全力で戦うといい」


 雫月がかなり有利な感じがするが……


「ひとまず、こんな感じかな……あ、忘れてた。4人での乱戦もできるが、最初はチーム戦をするよ」


「チーム戦?」


「ああ、バラバラで戦場に放り出されるが、それぞれチーム同士で協力して戦う感じだ」


『バトロワ……ではないのか?』

『どっちかって言うと、相手を何回倒したかを競う感じ?』

『早く味方と合流した方が有利みたいな感じ?』


「そういうことだね、倒されたらまたどこかからスタートして、再び戦場に戻ってくる。それを繰り返して、相手を倒した回数が多い方が勝ちだ。ちなみに、チーム分けは入るまでわからない」


『なるほど、それは面白そう』

『ルナちゃんとトラネちゃんが同じチームだったら、強いなぁ』

『というか、普通に勝てないのでは?』


「まぁ、その辺りはやればわかるよ、さぁ、準備はいいかな?」


「はい!」


「うん!」


「準備はできてるよ」


 全員の準備ができたので、風凛がボタンを押してゲームを起動させる。


「では、始めるよ! あ、そうだ、忘れてたけど、配信での視点はルナ嬢のものになるからね」


「あ、つまりいつも通りということです! きゃっ!」


 肝心なところを言い忘れていたので、補足した後、すぐにゲーム内に入る。

 雫月は視界が真っ白になって、浮いたような感覚がして、思わず悲鳴を上げてしまった。


 しばらくして、地面に足がついた感覚と共に目を開くと、そこには広大な草原が広がっていた。


「うわぁ……」


 先程までは部屋の中にいたはずなのに、広がる広大な光景に思わず感激をしてしまう。


「あ、そうだ。皆さん見えていますか!」


 すぐに放送のことを思い出し、視聴者に向けて声をかける。


『見えてるよ!』

『すげぇ! めっちゃリアルだ!』

『なんか風の高原っぽいね』


「あ、言われてみたらそんな感じですね」


 風の高原に比べると、少し風が弱い感じがするけれど、雰囲気はそっくりだ。


「えっと……これから……あ、モンスターを選ぶんでしたっけ?」


 その辺りは事前に風凛から説明を受けていたので、言われたとおりにメニューを開く。


「あ、チームが出てる……」


 モンスターを選ぶ直前、メニューにはチーム分けが表示されていた。

 そこに表示されていたのは……


「トラネさんが味方、フラワ~さんと風凛さんが敵ですか……」


 そのチームは、事前に視聴者からは勝ち確とされたメンバーだったが、雫月は思わず天を見上げてしまった。


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本年はどうもありがとうございました。

来年、明日からもよろしくお願いいたします。


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