第52話 絶望

「な、こいつはなんですか!?」


 あまりにも異様なモンスターの登場に雫月は驚きの声をあげた。


「ギギャギャギャ!!」


 モンスターは異質な鳴き声をあげる。

 いや、それは鳴き声というよりも……


「……機械音?」


 雫月はそれをまるで錆びついた機械が軋むような音だと感じた。

 普通の場所で同じ音を聞いてもそう感じなかっただろう。

 しかし、そのモンスターの見た目から雫月はそう思ってしまった。


 そのモンスターは見た目は、細い身体に6本の足が生えていた。

 しかしその前足は鎌状になっている。

 見た目だけで言えばカマキリと言えるだろう。


 しかし、その色は緑色ではなく、銀色……金属のように光沢を持っていた。

 さらに、その目も赤く点滅をしている。

 全体的に角ばった見た目からしても、なにかの機械のような見た目だった。


 当然、雫月はこんなモンスターを見たことはなかった。


フラワ~『こんなモンスター見たことないよ!』


 配信を通じて見ている陽花でさえも見たことがない、そんなモンスターだ。


 そのモンスターはしばらく雫月の事を睨んでいたが……


「ギギャギャギャ!!」


 再び鳴き声をあげ、そのお腹を開いた。


「なっ!?」


 対面していた雫月はモンスターのまさかの行動に驚き、さらに……


「キキキ」


「キキキ」


「キキキ」


 モンスターのお腹の中から小型になったカマキリのモンスターが出てきた。

 その数は軽く見積もっても10体……いや、20体はいるように見える。

 大きさは雫月の半分くらいではあるが、ともかく数が多い。

 まるで大きなモンスターの子供のように、整列をしている。

 それはまるで軍隊のようで、母親の号令を待っている。


「皆さん気をつけて!」


 雫月が後ろにそう叫ぶのと当時だった。


「ギギャギャギャ!!」


 大きな母親ロボカマキリが自身のお腹を閉じて、号令を上げると同時に、子供カマキリが動き出した。


 集団で襲い掛かって来た子カマキリに対して、すぐに戦える者たちが前に出て応戦をするが。


「なっ! 押される!」


 その小さな身体からは想像できない程の力に、男性教諭は押されてしまう。

 さらに両手の鎌を振り回しながら襲ってくるのは非常にやっかいで、動きに慣れず苦戦してしまっている。


「ストーンバレット!」


 そんなモンスターに向かって雫月は石を飛ばす。

 雫月の放った石は、子カマキリの頭部を貫き、行動不能にした。


「大丈夫ですか!」


「あ、ああ」


 雫月は戦線より一歩下がった位置から全体を見つつストーンバレットを撃ち、多くの子カマキリを戦闘不能にさせていく。

 戦闘不能になった子カマキリは故障したかのうように頭から煙をあげている。


「本当に機械みたいですね」


 ストーンバレットを放ちつつそんな愚痴を言う。


「ギギャギャギャ!!」


 そんな中、再び親カマキリが鳴き声を上げると……


「キキキ」


「キキキ」


「キキキ」


 またしても、お腹の中から子カマキリが生み出されて戦場に投入された。


フラワ~『これは親の方を倒した方が良さそう!』


 陽花のその判断に雫月も同意して、なんとか親の方に攻撃をしかけるチャンスを探るが。


「くそっ! 数が多い!」


「なんとしても生徒たちを守るんだ!」


「ダメージを受けた人は回復するんだよ!」


 教師たちが奮闘をするが、多くの生徒達を守りながらに苦戦状態だ。

 それをフォローするために、雫月もストーンバレットを戦場に放り込んでいく。

 レーダーコンドルの範囲攻撃では味方を巻き込んでしまう可能性があるから使えないため、一体一体地道に倒していくことになる。


 それでも、次第に教員たちも子カマキリのいなし方になれて倒す速度が上がる。

 これならば親に攻撃する隙も……


「ギギャギャギャ!!」


 そんな時に、再び絶望の鳴き声が響いた。


「キキキ」


「キキキ」


「キキキ」


 またしても戦場に投入された子カマキリ。

 しかし、先程の子カマキリとは違っていた。

 大きさこそは先程の子カマキリの半分ほどではあるが、その数が膨大だ。

 しかも、親カマキリは子供を次から次へととどまることなく生み出し続けている。


「嘘ですよね……」


 ぞろぞろとやってくる子カマキリの光景に思わず絶望する雫月。

 戦線にいる教員たちに絡みついていく。


「くそっ! 数が多い!」


「小さいやつは脆いぞ!」


「脆いっつっても数がやばいんだよ!」


 どうやら小さくなった分、弱くはなっているらしいがその数が尋常でないため、次第に戦線が押されていく。

 雫月もストーンバレットを飛ばして応戦するが、的が小さくなったということもあり、外れることが増えている。


「これはまずい!」


 これが続けば戦線は崩壊する。

 やがて一人の教師が押され、戦線に穴が空いた。

 そこからなだれ込むように子カマキリが入ってくる。

 子カマキリは生徒たちへと襲いかかっていく。


「きゃーっ!」


「くそ! 舐めるなよ! 俺たちだってソウルウェアだ!」


 生徒たちがいる場所は瞬く間に阿鼻叫喚になった。


「戦うのよ!」


 なんとか生徒たちも奮戦しているが、元々の力が不足している生徒たち。

 このままでは死人が出るのも時間の問題だと思われた。


「手が……手が足りない!」


 雫月も生徒たちを襲う子カマキリを倒しながら嘆く。

 もっと自分に力があれば……


 そんな事を思って時だった。


「……んっ?」


 懐から何か暖かさを感じた。

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