第53話 仲間

 雫月は戦闘中でもあるのに関わらず、その暖かさに思わず手が止まってしまった。

 その暖かさに向けて手を伸ばす。

 そこにあったのは……


「ソウルストーン?」


 雫月が掴んで取り出したのは2つのソウルストーンだった。

 現在、ロックプリンはウェアしているため、その他の2体のものだ。


「どうして……?」


 ソウルストーンからこんな暖かさを感じたのは初めてのことで雫月は戸惑ってしまう。


フラワ~『先輩。モンスターの声を聞いてあげて』


 その様子を見ていた陽花がそんなコメントをする。

 ソウルストーンに封印されているモンスターたちが雫月に何かを伝えたいのだと、そう思ったのだ。

 そんな普通の人だったら一笑に付すような世迷い言ではあるが、雫月はそれを信じた。


「あなた達……ひょっとして手伝ってくれるの?」


 雫月の言葉に共鳴するかのようにソウルストーンは光る。


「……ありがとう。それじゃあ、一緒に戦いましょう!」


 判断は早かった。

 雫月はウェアしていたロックプリンを解除する。


「先輩! 何をしているんですか!」


「雫月! 何を!?」


 そんな雫月の行動に周りの人間は戸惑うばかりだ。

 雫月の手元には3つのソウルストーン。

 その中の2つを、雫月は想いを込めて放り投げた。


 雫月から放たれたソウルストーンは地面に着地すると同時に光る。


フラワ~『さぁ、出ておいで! あなた達の力を貸して!』


 光は形を持ち、やがて実態になる。

 そこには2体のモンスターの姿があった。


「~~~」


「グェエエエエ!」


 それはソウルストーンに封印されていた、ロックプリンとレーダーコンドルだ。


「先輩!?」


「新手!?」


「くそっ! こんな時に!」


 突如現れたモンスターに全員が戸惑う。

 しかし、そんなことは意に返さず、雫月は2匹のモンスターに近寄る。


「ロックプリンは防壁を作って皆を守って! レーダーコンドルはロックプリンを守りつつ、子カマキリの討伐をお願い!」


「~~~」


「グェエエエエ!」


 雫月のお願いを聞いた2匹はすぐに動き出す。

 ロックプリンは言われた通りに、地面に手を付き子カマキリに襲われそうになっている生徒たちの前に岩壁を立てていく。

 そんなロックプリンにも子カマキリは襲いかかってくるが、


「グェエエエエ!」


 それを守るようにレーダーコンドルが氷塊を飛ばし子カマキリを倒していく。


「な……何が起こっている……」


「仲間割れ?」


 守られた生徒たちは何故か自分たちを守るように動くモンスターたちを呆然と見ている。


「いや、違うよ! あれは雫月ちゃんのモンスターだよ!」


 そう叫んだのは鳥楽音だった。

 鳥楽音は雫月の行動をすぐさま理解したのだった。


「皆! 雫月ちゃんのモンスターが攻撃から守ってくれるんだよ! 私も回復するからもうひと頑張りするんだよ!」


 戸惑うことなく生徒たちを促した。


「お、おう! よくわからねぇが、強い味方ってことだよな!」


「わからないけど! でも頑張るわ!」


 生徒たちはそんな雰囲気に飲まれ士気を上げる。

 ともかく、強い味方が現れた、今はそれだけを理解していれば十分だった。


 そんな中、雫月は最後に手に残ったソウルストーンを握りしめていた。


「思えば、あなたから全てが始まったんですよね」


 手に残ったのは、ホシイヌのツキヨウ。

 この子は学園に入学してすぐの頃、教師の引率の元入ったダンジョンで初めて雫月が封印して以降ずっと一緒にやってきた仲間だ。


「お願い! 力を貸して!」


 そんな想いを込めて雫月はウェアをする。


「わぅん」


 そんな声が聞こえた気がした。

 ウェアをすると共に、雫月の身体が光を変えていく。

 今までならば人の姿に耳や尻尾が生えるだけだったのだが……


フラワ~『先輩が! 新たな境地に!』


 その姿はもはや人ですらなかった。

 ウェアした雫月の姿はどこにもなく、青色と白のしましまをしたホシイヌがそこにいた。


「ありがとう、あなたの身体借りるわ」


 しかし、そのホシイヌは人の言葉を話す。

 そう、身体はホシイヌそのものだが、その意識は雫月のものになっているのだ。

 これこそが、シンクロの真髄。

 モンスターと人とが完全に一体となった姿だった。



 今までにない力を感じる。

 今ならば……


「わうん!!」


 雫月はその力に身を任せ身体を動かす。

 初めて動かす身体だが、自在に動かせる。


 大きくジャンプをして、子カマキリそれと戦う教師たちを飛び越えた。


「がっ!!」


 すぐさま反転して、子カマキリに突撃する。


「何だ!?」


 子カマキリと戦っていた教師は、風が起こると同時に目の前で急に子カマキリが消えたことに驚く。

 さらに、次から次へと、風が吹く度に子カマキリが消えていく。

 あれだけ多かった子カマキリが全て消えるのにはさほど時間がかからなかった。


「……何が」


 教師たちは呆然とするしか無い。

 子カマキリが全滅した後にはホシイヌの姿をした雫月だけが立っていた。


「ふぅ……あとは親だけ!」


 一呼吸を置いた雫月は再び飛び上がり、未だに子カマキリを生成しようとしている親カマキリの上で反転して頭から突っ込んだ。


「りゃああああああ!!」


 自分の全体重、全身体を使った体当たり攻撃。

 それはまるで大きな弾丸のように、親カマキリを撃ちつけた。


「ギガガ!!?」


 親カマキリの身体はまるで鉄のように固い。

 しかし、それ以上に雫月の意思の方が勝っていた。


「倒れろっおおおお!!」


 雫月が吠える。

 同時に、親カマキリの鉄の身体にヒビが入り……


ドガンッ!! ガシャアアアアアン!!


 全身が砕け散った。


 勢いで舞い上がった親カマキリの身体の破片がキラキラと地面に向かって降り注ぐ。

 そんな中を渾身の体当たりを放った雫月が立ち上がった。


「……」


 無言のまま周りを確認し……敵がいなくなったことを確認。


「わぉおおおおおおおおん!!!」


 大きな歓喜の雄叫びをあげたのだった。

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