第50話 到着
スタンピードが発生したことに気がついた合宿参加者は引率教員の案内に従ってすぐさま入り口まで避難をした。
しかし、なぜか入り口は開かず、その場で立ち往生することになった。
幸いにも、入り口がある部屋への通路は広くなく、モンスターが一度に押し寄せてくるのはせいぜい5体ほど。
由香里や教師たちが交代交代でモンスターの相手をしている。
由香里が雫月の放送に対してヘルプを求めたのも、休憩をしている間のことだ。
「島村、雫月との連絡はついたか?」
「学園長、はい。向こうでも出口が開かなかったらしいです」
「そうか……」
由香里に話しかけてきたのは、学園長でもあるリオナだ。
リオナは今回の件の責任者として自身も合宿に参加をしていたのだ。
もっとも、リオナ自身はソウルウェアとしての力は持つものの、戦う力自体はさほど強くない。
「もしも、出口から出れるのならば強行突破も視野にいれたが……」
今もこうして、なんとか避難の手を考えるしかできることがなかった。
しかし、いまのところ時間がすぎるのを待つしかなかった。
「一体何が起きているんでしょう。エリアが封鎖されるなんて聞いたことがありません」
「わからない。スタンピードはほとんどの場合、強いモンスターが現れそこから避難する際に起こると言われている」
「でも、出口の方では起こっていないみたいです」
「ああ、だから、出口とは別方向のいわゆるルート外で何かが発生したのだろう」
入り口と出口を結ぶ通路は比較的安全が確保されているため、危険はそれほどない。
しかし、言ってしまえば危険がないのはそのルートを中心とした一部だけで、ソレ以外のエリアはほとんど未開と言えるのだ。
そしてそれはつまり……
「今来ているモンスターは見たことあるモンスターばかりですが……ひょっとしてルート外からモンスターが来るなんてことも……」
「……ありえるだろう」
今はまだ見たことのある弱いモンスターだから戦うことができているが、ルート外から強力なモンスターがやってきた時、戦えるかどうかはわからない。
「うわっ! なんだこいつ!」
そして、それはやってきてしまった。
教師の一人の声が聞こえすぐにそちらを向くと、見たことのない熊のようなモンスターを男性教員が相手にしていた。
その教師は、剣を握りモンスターと相対していたが、予想外の速さでモンスターが動いた。
「危ないっ!」
思わず叫んでしまった。
教師はモンスターからの一撃をもろに受けてしまい、崩れ落ちる。
そこにさらに追撃をしようとしたところを、なんとか由香里が滑り込み防いだ。
「大丈夫ですか! 早く治療を!」
「うぅ……」
幸いにも致命傷は避けられたようだが、傷は深そうだ。
教師が強制的にウェア状態から解除されたしまっている。
すぐさま回復をできる能力を持った教員が駆け寄ってきて治療を開始する。
「まさか、先生がやられるなんて……」
男性教員は教員の中でも実力者の一人だった。
その一人が欠けたことによる穴は大きかった。
「くっ……」
由香里はなんとかその穴を埋めようと奮闘したものの、数が足らない。
そもそも、由香里が愛用しているソウルストーンはモクゾウという樹木の象のモンスターで基本的にはタンクを担当する役割なのだ。
攻撃を防御することは得意だが、攻撃力自体はそこまで高くない。
そして、一番の問題は素早さが低いこと。
「しまったっ!」
由香里をすり抜けて一匹のモンスターが回復中の教員に襲いかかる。
「えっ!?」
回復中の女性教員は不意打ちを避けることが出来ずにもろに攻撃を受けた。
「くそっ!」
すり抜けた一体は他の教員や生徒たちによって討伐されたが、その代償は大きかった。
「回復役が倒れました!」
回復役は貴重だ、今回の合宿に参加している回復役も女性教員一人だけだったのだ。
戦いにおけるエースの負傷とさらに回復役も欠けた状態では戦線は長くは保たない。
「これはまずいかもっ!」
さらに男性教員を襲った熊のようなモンスターがこちらに走ってくるのが見えた。
これは耐えきれない……
そんな絶望の瞬間、由香里はせめて皆を守ろうと前に出て……
熊のモンスターのちょうど上に飛んでいる人影を見つけた。
「伏せてください!」
由香里の反応は素早かった。
指示された通りに、伏せて頭をガードする。
「ヘイルレイン!」
頭上から声が聞こえた。
その瞬間、
コツ
という小さな音が一つ、さらに一つ、音は絶え間なく降り注ぐ。
まるで無数の小さな石粒が滝のように空から降り注いでいるようだ。
それは伏せていた由香里の前まで転がってきた。
「……雹?」
それは石ではなく、雹だった。
頭を少し上げると、眼の前には無数の雹がまるで滝のようにモンスターに降り注いでいる。
一粒一粒はそれほどの大きさはなかったが、その膨大な数の雹での攻撃に押し寄せてきたモンスターたちは次々と消えていった。
それを確認すると、雹は突然止んだ。
「……ふぅ、大丈夫ですか?」
頭上から先程と同じ声が聞こえて顔を上げると、
「雫月先輩……」
そこには待ちに待った先輩が宙に浮かんでこちらを見ていた。
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