第49話 選択
「次で16回目でしたっけ?」
「次で17回目なんだよ」
周回を始めてかれこれ2時間近くが経っている。
一度倒したボスがリスポーンするまでには少し時間がかかるため、倒すのはすぐでも結構な時間が経ってしまっている。
「次はトラネ先輩の番です」
「うん、じゃあいってきまーす」
まるで学校に向かうかのような調子でボスへと向かう鳥楽音。
『さて、今回は……はずれかぁ……』
『やっぱりイレギュラー耐久は大変だよなぁ』
『そもそもボス周回とか聞いたこと無いし』
『まぁ、俺等としては、雑談で色々と聞けるから助かってる』
視聴者もだれきっている……というわけではなく、むしろそんな配信だからこその楽しみを見出していた。
「えっと、それじゃあ質問を募集しましょうか」
こうやって一人がボスエリアに入っている間に、もう一人が質問を募集する。
すぐにコメントに質問が打たれる。
「あ、これにしましょうか? 今ルナちゃんは何個のソウルストーンを持っているんですか?」
雫月はその中から答える質問を選び答えていく。
ちょっとした質問コーナーということで盛り上がっていた。
「今は、主に使っているのは、2個ですね。あ、でも今持ってきているのは3個です」
『ホシイヌとロックプリンと残りはなんだ?』
『どっちも強いよね!』
『犬耳ルナちゃんと、ゴーレムルナちゃんか……迷うな』
「もうひとつはですね……」
「ただいまー」
「あ、お帰りなさい」
質問に答えようとしたところで鳥楽音が帰っていた。
その間は一分もないだろう。
『相変わらず早いwww』
『段々と速度上がっていく』
『というか、トラネちゃんってサポート職じゃ?』
『サポート職がそんなに強いわけないだろ!?』
15回目になるけれど、毎回早いのコメントが着く。これもお決まりの流れになってきている。
「何の質問に答えてたの?」
「あ、今はですね。今持っているソウルストーンの数ですね」
「あー、私は一つだけど、ルナちゃんは……」
「そうそう、それを答えようとしていて……最後の一つはですね」
雫月が質問に答えようとしたその時、雫月の目にとあるコメントが飛び込んできた。
『先輩! 助けてください!』
「うん? 何?」
「いや、なんかコメントが」
場違いな不穏なコメントに思わず目がいってしまった。
『うん? 何?』
『助けてって……いたずらじゃね?』
『荒らしか?』
普通に考えればいたずらか何かだろう。
しかし、胸がざわついている。
何よりも先輩という単語、強化合宿をしているはずの同じ学校の生徒が頭をよぎる。
何か情報がないか、コメントを見ていると。
『現在、無属性の迷宮の入口付近にてスタンピードが起きています。アカデミーの生徒は私も含めて入り口がある部屋に避難しています』
「スタンピード!?」
スタンピードとは何かしらの原因でパニック状態になり大勢の動物が同じ方向に走り出すという現象だ。
ダンジョンにおいては、この動物というのがモンスターに変わる。
もちろん、そんな簡単に起こる現象ではない。
事実、雫月自身も単語だけを教科書で見たことがあるくらいだ。
「このエリアでスタンピードが起きている!?」
そんなことでも起これば、同じダンジョン内にいる雫月もすぐにわかりそうなものであるが。
生憎と、ボスエリアの周囲はセーフゾーンになっているため、他のモンスターは近寄れないのだ。
「先輩! ちょっとエリアの外に!」
「うん!」
事実確認をするために、雫月はセーフゾーンから出る。
「地震!」
「いや、これは地鳴りなんだよ!」
セーフゾーンを出るとすぐに異変に気がついた。
足から来る揺れは、何かが走っているようなそんな地鳴りだ。
『えっ!? まじで!?』
『イレギュラー!?』
『さっきの助けてってのもマジなやつ!?』
『救援は!?』
『いや、それよりも早くエリアから避難を!』
モンスターは扉を越えての移動はできない。
そのため、外に出てしまえば安全なのだが……
『扉は駄目でした。入り口から出ようとしても開けられません』
「そんな!?」
「入り口から出れないなんて聞いたこと無いんだよ!」
これには雫月も鳥楽音も驚きの声をあげる。
「し、ルナちゃん! 私たちも確認を!」
「あ、はい!」
幸いにも雫月たちは出口のすぐそばにいる、これが通れればそこから避難はできるのだが……
「なんで!? 開かない!」
「うんともすんともいわないんだよ!」
扉は固くしまっており、開けようとしても全く動かない。
『避難できないってこと!?』
『そんなことある!?』
『そうだポータルは!?』
入り口から出口までの間には時折、セーフゾーンと脱出するためのポータルが設置されている。
無属性の迷宮では入り口から出口までに一つのセーフゾーンが設置されている。
そこまでの距離はどれだけ急いでも1時間はかかるだろう
『今は、なんとか私と教員さんが交代交代で粘っていますが、入り口付近へと押し寄せてくるモンスターは止む気配がありません』
この時、既にこのコメントを打っているのが誰か雫月は気がついていた。
さらに、通常スタンピードは段々と敵が強くなっていくというのが通例になる。
『無属性の迷宮に入れないって話が出てるぞ!』
『まじで!?』
『これ本気で危ないのでは!?』
さらに視聴者から絶望的な情報が入ってくる。
出口から出れない上に、入ってくることもできない。
つまり、救援は期待できないということだ。
「ルナちゃん……どうする?」
雫月は選択を迫られていた。
正直、今まで気が付かなかったことでわかる通り、ここにいれば安全だろう。
事が終わるまでじっとしていることだってできる。
しかし、そうなると避難をしているアカデミーの学生たちは……
「助けに行きましょう!」
そして、雫月は迷うことなく助けに行くという選択肢を取ったのだった。
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