第48話 異変

「さぁ、今日も配信をやっていきます!」


 数日後、雫月は鳥楽音と共に配信を開始した。


『待ってた!』

『今日はBランクエリアじゃないんですよね?』

『Cランクでレアボスが出るまで耐久って、ま?』

『一体何時間かかるのか……』


 視聴者も言っている通り、今日の配信はBランクエリアの火の火山ではなく、Cランクエリアの無属性の迷宮だ。

 雫月はボスゾーンの手前で放送を開始した。


フラワ~『いざ! マッスルゴブリンゲット!』


 今更Cランクを潜っている意味はレアボスを捕まえることにある。


「とは言っても、ルナちゃんは前に倒してるんだよね?」


「そうそう、そもそも私がシンクロできるようになって初めて倒したボスです」


 雫月にとっては懐かしいボスになる。


『一撃でイレギュラーのマッスルゴブリン倒したやつな!』

『リアルタイムで見てた身としてはめっちゃ懐かしい!』

『切り抜きで見た民だけど、あれをリアルタイムで見れるの楽しみ!』


 雫月の今の放送としては原点にもなる出来事、視聴者も当然知っていた。


「私は普通のマッスルゴブリンは倒したけど、イレギュラーのやつは初めてだなぁ」


 鳥楽音も一度はここのエリアを攻略しているので、当然マッスルゴブリンは倒しているが、その時は通常個体だった。


「今回は、交代交代でどっちがレアマッスルゴブリンを封印できるかの勝負をしましょうか」


 鳥楽音も雫月も今更苦戦することなどない。


「まぁ、雑談ガチャ配信みたいなものなんだよ」


 つまり、そういうことである。


『Cランクのボスでガチャ配信すると聞いてwww』

『まぁ、圧倒的な力あればそんなことができるんよなwww』

『この人たちは特殊な訓練を積んでいます、絶対に真似しないようにしましょう』


 ということで、視聴者の理解も得られたと雫月はほっとする。

 実は、今日はリオナ主導の元、学園の教師と生徒たちによる強化合宿が行われているのだ。

 雫月は、迷ったものの万が一の事態のために同じエリアにいることにしたのだ。


 放送していろと言われたが、同じエリアにいては駄目とは言われていない。

 放送で視聴者の関心を集めつつ、同じエリアにいれる案として今回の雑談ガチャ配信を思いついたのだ。


「というわけで、早速一回目! 入っていきますよ!」


 そんな裏事情は放送に出すことなく、雫月はボスエリアの中へと入っていった。




 雫月がそんな配信をしている中、同じ無属性の迷宮エリアのとある場所に男女4人のパーティが歩いていた。


「なぁ、本当にこっちで合ってるのかよ」


「うっさいわね! さっきからそればっかりじゃない!」


 その様子は、仲が良く……なんてことはなく、1組の男女で言い争いをしたり。


「あー、帰りたい」


 一人はやる気をなくして帰りたがっていたり。


「地図によるとこっちだが……」


 リーダー風の男はそんなパーティメンバーのことは意にも介さず後ろから指示を出すだけ。

 そんな彼らは、元アカデミーの最強パーティであり、鳥楽音が元々所属していたパーティだ。

 アカデミーを辞めた彼らは、現在は国内でも有数のギルド、ネクスト・オリジンの候補生となっている。


 ……そう、あくまでも彼らの立ち位置は候補生なのだ。


「あの時無理やりでもあの女を引っ張ってこれれば……」


「ほんとよね! 怪しいからやめたほうがいいなんて!」


 そもそもその原因はパーティメンバー全員で所属できなかったこと。

 鳥楽音がやめたことによる戦力不足で彼らはその評価を落としていたのだ。


 学校を辞めて、ギルドに入り華々しい未来が待っていると思っていたのに、やってきたのは候補生としての雑用の日々。

 鳥楽音からすると追い出されたため、そんなことは知ったことではないのだが、彼らからすると自分たちの今の状態を作り上げた鳥楽音を恨んですらいた。


 彼らの仲はアカデミーにいた時に比べて急激に悪くなっていた。


「それにしても、一体なんの任務なのかしらね」


「迷宮のとある場所でアイテムを使えってやつだろ? 聞いてなかったのかよ」


「うっさいわね! 私が言っているのはその理由よ!」


 彼らは、ギルドからの指示によって今日このエリアに入っている。

 ギルドから渡された地図とアイテムを持って迷宮に入り、それを使用するというものだが。

 彼らにはその意図はまったく聞かされていない。


「……いずれにせよ、この任務を終えれば無事にギルド員になれる」


 女性に視線を向けられたリーダーはそう答える。

 そう、今回の任務を無事に終えることに成功すれば無事にギルド員になることを約束されている。

 そうなればこのやかましいパーティからも脱退して、他のギルド員と活動することだってできるだろう。

 今回の任務さえ切り抜ければ……自分はまだ成功者への道へ戻れる。

 そんな気持ちは全員が抱いていた。


「……ここだ」


 そして、彼らはようやくギルドから指示された部屋にたどり着く。


「何もないわねぇ」


 その部屋には何もなかった。


「ここで、このアイテムを使えばいいんだろう?」


 言いながら取り出したのはオカリナ風のアイテムだ。

 これをこの部屋で吹けというのが指令だった。


「さっさっとやって、さっさと帰りましょう」


 その言葉通り、一人がそのオカリナを吹く。


「ああ、これでやっとお前らともおさらばできるぜ」


「ふん、こっちこそ。せいせいするわ!」


「やっと帰れる」


 最期まで仲の悪いパーティだ。

 そう、最期。これ以降、彼らを見たものは誰もいない。



 そして場面は代わり、島村由香里は他の教師や理事長と共に合宿に参加した生徒たちの面倒を見ていた。


「はぁ、そろそろ休憩しましょうか」


「ですね、そろそろモンスターも途切れて……」


 交代交代で戦いレベル上げをしていくことが目的だ。

 彼らはモンスターを探しつつ、正常なルートからも少し離れて活動をしていた。

 それが命取りになってしまった。


「うん?」


 気がついたのは由香里だった。

 足元が揺れている気がする。


「何? 地震?」


 同じように他の人達も気が付き始める。

 もはや揺れは地震かと思うほどに揺れている。

 しかし、ここはダンジョンの中。地震が起きるということは聞いたことがない。


「これは! モンスターの足音!」


 その原因に誰かが気が付き、叫ぶ。


「スタンピードだ!」


 その叫びと共に、彼らの視界にこちらに押し寄せようとするモンスターたちが見えた。

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