第46話 雫月の焦り
「その合宿っていつからですか? 私も参加しようと思うのですが?」
雫月はトップの実力者だ。
そんな雫月が参加すれば学生たちの刺激にも……
「いや、お前は大丈夫だ」
しかし、リオナはそれを断った。
「なんでですか? 私だって力になれます」
断られた雫月は不満気だ。
「わかっている。むしろ、お前はこの件に関して既に功績があるんだ」
「えっ?」
「お前がやっている配信、その効果が確認できてるんだよ」
「私の放送がですか?」
「ああ、今回理事会の中でもお前の事を知っているやつがいてな。そのおかげで猶予ができたところまであるんだ」
むしろ、雫月がいなかったらその場で改革が決定されてもおかしくなかった。
雫月のチャンネルが評価され、それがすなわち学校の評価にも繋がったというわけだ。
「そうですか……やっててよかったです」
「ああ、始めは放送で学校の宣伝なんてどうかと思ったが、おかげで助かった」
雫月の目的の一つでもある、学校の生徒の優秀者を示すことは成功に繋がったと言えるだろう。
「そして、そんな放送で成功しているお前を学校の行事なんかで縛ったら、そりゃ不満あるだろう?」
成功している配信者を台無しにする行為。
そのために、雫月は強化合宿に参加せずに放送していたほうが良いというのがリオナの判断だ。
「と、まぁ、そういう理由でお前は参加できない」
「そうですか……」
渋々と納得する雫月。
「そうだ、そういう意味でなら鳥楽音さんはどうですか?」
パーティメンバーの鳥楽音。
鳥楽音も合宿に参加すれば刺激になることは間違いないが。
「迷ったが……同じ理由で却下だな。二人でBランクエリアの攻略に行ってくれた方が助かる」
「なるほど……」
これがCランクエリアだったらまた別の話だが、Bランクエリアは一人では攻略できない。
雫月一人だけで攻略に行けない以上、鳥楽音がいなくなると攻略が止まる。
「代わりに、島村由香里を旗印にどうかと思っている」
「由香里さんですか?」
「ああ、奴は1年では圧倒的に強く、Cランクエリアも1つ攻略をしているからな。教師陣からの受けもいいし、生徒同士の繋がりも広い」
「確かに……うってつけかもしれませんね」
むしろ、自分が参加するよりもよほど良さそうと雫月は思った。
「と、そんなところだろうか……どうだ? 今の時点で何か気になる点とかあるか?」
「うーん……ちなみにこの話を知っている人はどのくらいいるんですか?」
「今考えながらお前に話したから、お前だけだ」
「あ、そうですか……」
あまりにもの言い方に少し笑ってしまった。
「考えましたけど、特に気になる点はないです」
全体のレベル上げをしつつ、研究面でも冒険面でも優秀な学生は縛らずその成果を待つ。
どれか一つでも成功すれば、学校の評価は上がるだろう。
「あまり時間がないのでな、すぐにでも参加者を募ろうかと思っている」
「なるほど、じゃあ、私の方も色々な人に声をかけてみますね」
「ああ、頼む。私はこれから、企画の詳細を詰める」
そんなわけで、ひとまずの方針が決まった。
これがどうなるかはまだわからない。
しかし、なんとか切り抜けようと立てた計画は色々な意味で期待を裏切ることになるのだった。
リオナが言っていた通り、告知はその日のうちに行われ、多くの学生の注目を集めることになった。
「へぇ、強化合宿かぁ」
「いいんじゃない? 参加してみようよ」
「あ、そっちも参加するの? それじゃあ私も参加しようかな?」
雫月が聞いた限りだと好意的に受け止められている。
そして、旗印として任命された由香里はというと。
「なるほど、そういう事情だったんですね」
雫月からの裏事情などを聞いて納得をする。
「そういうことであれば引き受けさせて頂きます」
ということで、無事に旗印も決まった。
雫月はこの件を宣伝しつつ、しかし、言われた通りにBランクエリア攻略放送への準備を進める。
「少しでも早く……」
自分がBランクエリアを攻略できればそれだけでも功績になるのだ。
そんな気持ちが少し焦りを生んでいた。
「ねぇ、先輩? なんか調子悪そう?」
それを陽花に見破られてしまった。
流石というべきか、それとも雫月がわかりやすいのか……おそらく後者である。
今回の件に関しては、陽花はほとんど関係がない、そのため伝えることを躊躇していたのだが……
「ひょっとして、何か心配事でもあるの?」
純粋に雫月を心配する陽花に黙っていることなど出来なかった。
「なるほどね……でも、理事長さんだって先輩がすぐに攻略を終えるなんて思ってないんじゃない?」
「はい……リオナさん……理事長も無理だろうって言ってました」
Bランクエリアの攻略ともなると一気に難易度が上がる。
「私も正直、今のままだと大変かなって思うよ」
陽花にまでそんなことを言われてしまう。
「でも……」
それでも、雫月は落ち着かない。
何か……何かしないとという焦燥感が雫月にはあった。
「先輩は放送していればいいって言われたんでしょ? それなら普通に放送するだけでいいんじゃない?」
普通に配信する、それだけで今の雫月は学校に貢献できる。
それだけ今の雫月のチャンネルの勢いは凄いものだ。
ただし、それは……
「私の力ではないんですよ……」
雫月の心の中にはそんな想いがずっとあったのだ。
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