第45話 ピンチを切り抜けるため

「二人を待つためにも、今回を切り抜ける必要がある」


 決意の表情でそう告げたリオナ。


「ええ! ……しかし、どうするんですか?」


 それに対して、雫月は首をかしげた。

 切り抜けるにも何をするのかが問題なのだ。


「一番手っ取り早いのは、アカデミーの生徒が何かしらの功績を残すことだな」


「功績……何か未知の発見とかですか?」


「まぁ、それは特殊な例だが、例えばBランクエリアの攻略とかだな」


 アカデミーの生徒の卒業の条件はCランクエリアの2つ攻略が条件になっている。

 Bランクエリアの攻略はそもそも、一般の冒険者でも難しく、攻略できればエリートとされる。

 そんなエリアを学生が攻略できたらそれは一つの功績となるだろう。


「今は学校の3年生のパーティがBランクエリアに入ったところでしたっけ?」


「そいつらなら一人を残して全員辞めたぞ」


 雫月が確認すると、リオナは苦苦しい顔をする。


「そういえば……鳥楽音先輩の元パーティでしたっけ」


 今は自分のパーティメンバーの先輩を思い出す。


「そうだ! 奴らネクスト・オリジンのギルドに入るから学校にはもう来ないだとよ!」


 ネクスト・オリジンは冒険者ギルドの一つで、業界内でも一位二位の実力を持つ強力なギルドだ。

 当然その規模も大きく、ギルドに入ることは冒険者としては成功と言えるだろう。

 しかし、有望な生徒を引き抜かれた学園としては愚痴の一つも言いたくなるというところ。


「そもそも、Bランクに入れるくらいまで成長したから勧誘したのに、辞めたのは学園の指導力不足ってどういうことだ! そこまでいけるように育てたのは学園だぞ!」


 リオナはどうやらネクスト・オリジンに対してかなり不満を持っている様子。

 実際、鳥楽音も言っていたが、ネクスト・オリジンは規模は大きく、業界でもトップクラスだが、きな臭い噂の尽きないギルドでもある。

 強引な引き抜きなどもしばしば話題に上がったりする、そんなギルドだ。


「まぁ、いなくなった人を気にしても仕方ありませんよ」


 雫月は鳥楽音の事を考えたら一緒に怒りたい気持ちはあったが、今はなんとかリオナを落ち着かせる。


「はぁ……そんなわけで雫月、今の学校のトップはお前たちになる」


「あ、そっか……そうなるんですね」


 雫月の現在はBランクに突入した、やめていった生徒達と同等の進捗だ。


「そんなお前たちがすぐにでもBランクの攻略をできるのならそれが一番手っ取り早いんだが」


「……正直、厳しいと思います」


 前回潜ってみてわかったけど、Bランクの最大の敵はその環境にある。

 時間をかけてゆっくりやっていけば攻略はできるだろうが、すぐにということであれば不可能だ。


「ふん、まぁ、そうだろうな」


 リオナも当然その状況を察している。

 ちなみに、リオナは雫月が配信をやっていることを知っている。

 当然、前回の放送も見ていた。


「研究科の方で開発しているアイテムもまだしばらくかかりそうだしな」


「そんなのがあるんですか?」


「ああ、火の熱さを耐熱ドリンクよりも和らげる断熱ドリンクや水の中でも長時間行動できるようになるガムとかな」


「それができたらそれだけでも功績になりそうですが……」


「ただ、いいところまでは行っているという話だが、完成にはまだしばらくかかるらしい」


「そうですか……あったら便利そうなんですが……」


 研究成果を功績にする方法も駄目。

 そうなると、残りの手段は……


「学校全体のレベルアップを図ろうと思う」


「レベルアップですか?」


「ああ、そもそも、やめっていった奴らやお前のようなトップは元々めちゃくちゃ優秀なんだよ」


 Cランクエリア2つの攻略という条件すらも普通の学生にとっては厳しいのだ。

 2年生でBランクエリアを攻略している雫月など優秀な学生はとことん優秀だ。


「それでも、多くの学生は未だに1つ目のCランクエリアでつまずいている」


「それは……そうですね」


 元々、雫月も同じ2年生とパーティを組んでいてやっと攻略をしたのだ。

 今でこそ、Cランクエリアはソロで攻略できるほどにはなっているが、元々雫月は2年生でもトップクラスの実力者だった。


「原因は色々とあるが、その理由の多くの場合が実力不足だ」


「それでレベルアップということですか?」


「そうだ、強化合宿と称して生徒たちを教師が引率してダンジョンへ行く、そこで集中的にレベル上げをするんだ」


「なるほど……」


「そこで参加した生徒がCランクエリアを攻略できれば最高だが、総じてその合宿を通してレベルが上がることにはなるだろう。そんな生徒たちを筆頭として他の学生たちにもレベル上げを促すんだ」


「合宿に参加した学生が参加していない学生と組むことでまたレベルが上っていく……というわけですか」


 なるほど。

 確かに、いきなりBランクエリアを攻略というよりはよほど現実的な案だろう。

 教師と学生、学生同士のつながりという面から学校というものであるからこそできる話だ。


「でも、それで理事会のメンバーは納得するんですか?」


 やっていることは、普段の内容を少し規模を大きくしただけだ。


「わからない……しかし、その成果を待つという名目で審議を先延ばしにすることはできるだろう」


 それはそうだ。

 何もしないまま時間が過ぎていくよりも考えつく手を打つ方が良い。

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