第44話 突然のピンチ

「さて、今回の反省ですが……」


 いつの間にか恒例になっていた放送後の陽花の家での反省会。

 本日の参加者は、陽花と雫月、新しく参加した鳥楽音と視聴者枠の由香里だ。

 ちなみに、鳥楽音と由香里は顔見知りだ。


「今回は鳥楽音先輩が大活躍していましたね!」


 早速、由香里が視聴者視点の意見を出す。

 動画に付けられたコメントも、初登場の鳥楽音について触れているものが多い。


「これは……すっかり先輩が主役ですね」


「いやいや、元々雫月ちゃんが頑張ってたからだよ!」


 雫月が拗ねたように言うけれど、その表情は明るい。

 雫月はむしろ、鳥楽音が注目されたことを嬉しく思っていたのだ。


「冗談はほどほどにして、先輩はどうでしたか? 初めての放送だったわけですが」


「うーん……思っていたよりは緊張しなかったかな?」


 聞かれた鳥楽音は悩みつつ答える。


「あ、でも、配信っていうこと変に意識しすぎちゃってたかな?」


「あー、そうですね」


 言われて雫月も思い出す。

 マグマにヘビを投げたり、おおよそ普段の鳥楽音ではやらないことをやっていた。


「私なりに盛り上がるかな? って思うことをやってたんだけど」


 もちろん、鳥楽音なりに考えての行動だ。

 しかも、今回はかなり盛り上がって成功だった。


「でも、あんまり意識しすぎないで大丈夫ですよ」


 これは雫月の経験上のものだ。

 むしろ、雫月は当初は鳥楽音よりも撮れ高を意識しすぎたせいで空回りをしていた。


「それに意識しすぎると疲れちゃいますからね」


「なるほどね」


 配信の先輩である雫月の言葉を鳥楽音は素直に受け止めた。

 もう若干凄いキャラがついているのだが、一旦それは置いておくことにする。


「他には何か気になることとかあったかしら?」


「あ、は~い。レアモンスターが出なかった!」


 今回の放送ではレアモンスターと遭遇することは一度もなかった。

 今までは最低でも一体は捕まえていたのだが、今回は何も捕まえずに終わったのだ。


「それは……流石に運の問題だから」


 言われた雫月は思わず苦笑い。


「まぁまぁ、初めてのBランクってこともあったし進行もゆっくりだったから、次はきっと見つかるよ」


 今回の放送ではかなり慎重に動いていた。

 そのおかげで、そもそも接敵する回数そのものが減っていたというのもあるのだ。


「それに、陽花はこの間捕まえた子とも遊んでいるんでしょ?」


「あ、うん! レーダーコンドルの子! いやぁ、やっぱり飛んでいる子と遊ぶのは楽しいね」


 先日雫月が封印したレーダーコンドルも無事に陽花の手に渡っている。

 元々がボスだっただけでかなりの強さなのだが。


「あれと遊ぶって凄いことなんじゃないかな?」


「いや、凄いなんてものじゃないと思いますけどね」


 陽花がいつもと変わらず、楽しそうにしていたのを見ていた。


「もっと仲良くなったら背中に乗せてもらうんだ!」


 陽花はそんな夢を見ていた。

 それはきっと遠くない日に実現できるだろう。


「と、まぁこんなところですかね。次回からも同じく炎の火山を攻略していくっていうことにしましょう」


 そう言って、反省会は終了した。


 現在雫月のチャネルの登録者数は10万人を超えて、15万人に迫ろうとしているところだ。

 Bランクに突入したということで、一気に登録者数も伸びている。

 配信活動はかつてなく順風満帆だった。

 せっかくだから10万人記念として企画か何かを立てようとしていた。

 しかし……そんな日々は長くは続かなかったのである。



「えっ!? 嘘ですよね!?」


 配信から数日後、雫月はソウルウェアアカデミーの理事長室で驚きの声を上げていた。


「もちろん、そんなことをさせるつもりはないが……」


 対して、困ったような硬い表情をしているのは、アカデミーの理事長にして、雫月の叔母でもある月桜リオナだ。

 リオナはイギリス人と日本人のハーフであり、年齢は46歳の短めのブロンドヘアー。

 雫月の父親から理事長を受け継いだという経歴で着任しており、理事長としては若めとなる。

 それ故の苦労というのもしているらしく、いつも姪のである雫月に愚痴を言っている。

 しかし、今回のそれはいつもとはまた違うらしく……


「廃校だなんて……そんなこと……!」


 そう、それこそが雫月に告げられた状況。


「まぁ、まだ決まったわけじゃない。ただ、理事会のメンバーでも学校の意義について疑問視する声が上がっていてな」


 一人や二人が言っているのであれば、流せばいい。

 しかし、今回は……


「いつも私に味方をしてくれる人たちも、何かしらの成果をあげることを望んでいる」


 そして、それが何も示されなければ……


「最悪、廃校になるかもしれないってことですよね?」


「流石にそこまではいかないとは思うが……間違いなく私は解任されるだろうな」


 成果が出せなければ、学校の改革をしなければならないというのが理事会で決まったことである。


「そんなことになったら、兄さん達に顔向けできない……」


「リオナさん……」


 闇社会との繋がりがあるとされ、逃亡したとされている元理事長はリオナの兄であり、雫月の父親でもある。

 二人は、彼の事をそんな事をする人間ではないと、今でもその帰りを待っているのだ。

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