第41話 過酷なエリア

 鳥楽音の背中には炎の翼が生えている。


「先輩自身は熱くないと言っていますけど、私が触れたら火傷します」


 不思議なことに本人だけは熱さを感じないらしい。

 これもモンスターとシンクロしたのが原因なのだろう。


『その翼で飛べたりするんですか!?』

『飛べるとかまじで夢見たいじゃん!』

『これは世界初では!?』


 当然翼と聞くと皆期待する飛行能力。

 だが、しかし……


「残念ながら飛行能力はないんだよね……」


 いくら翼を動かしたところで鳥楽音の身体は浮かばない。

 ただし、


「滑空みたいなことはできるかな。それとジャンプ力も上がってる感じもするんだよ」


 試しに鳥楽音がジャンプをすると、2メートルほど飛び上がり、ゆっくりと落ちてくる。

 その姿を見て、またしてもコメントはざわつく。


『それだけでも十分凄い!』

『風に乗ったら浮きそう!』

『ビルから飛び降りても無傷ってこと!?』


「あ、ビルからは試してませんが、家から飛び降りても大丈夫だったかな」


 ちなみに、今のところ滞空時間に限りはないらしい。

 飛んでいる間は緩やかにできる。


「ちなみに先輩の本業はアタッカーではなくヒーラーになります」


「攻撃もできるけど、あんまり強くないんだよね。特にこのダンジョンだと多分攻撃通らないかな」


 鳥楽音はその翼から出る火を操り、人を回復したりモンスターを攻撃したりすることができる。


『火属性の回復系のモンスターなんていたっけ?』

『いや、聞いたこと無いなぁ』

『なんてモンスターなの?』


 回復というと、本来は光属性だったり水属性が多いのだが、火属性の回復はとても珍しい。

 視聴者もそれが気になるようだが……


「僕のモンスターはスパークヒヨコっていうんだよ。とても珍しいモンスターらしいんだよ」


『ヒヨコ?』

『一応鳥系のモンスター……ではあるのか?』

『全然聞いたことないや』


 陽花でさえ知らなかったモンスターなのだ、当然知っている人などいない。


フラワ~『スパークヒヨコ。火花を纏ったヒヨコのモンスター。その火は回復や攻撃と自由に操ることができる。ちなみに、発見報告例は今のところない』


『フラワ~ちゃんだ!』

『解説ありがたい……って凄いこと言ってない?』

『発見報告例はない……って……えっ?』


 フラワ~の登場と解説に何度目かのざわめきが生まれる。


「僕自身、子供の頃にソウルストーンを間違ってウェアしちゃったから使えただけでどこのモンスターなのかわからないんだよね。ソウルストーンの持ち主も今はもういないんだよ」


『あー、極稀に適合しちゃった例なのか……』

『いないんだよ……ってところで色々と察したわ』

『火属性ってことは炎の火山の可能性も高い?』


「あ、そうですね。その可能性もあると思います」


 当然、ダンジョン島以外の可能性もあるわけだが、他のダンジョンに比べたらかなり可能性は高い。



「さて、そろそろダンジョンを探索していきましょうか」


 一通り鳥楽音の紹介も済んだところで、改めてダンジョンの中へ入っていくこととした。

 入り口をくぐってエリアの中へ入った……瞬間。


「熱い!」


 思わず、雫月がそう叫んだ。


「話には聞いてたけど、本当に火山って感じかな……」


 同じく炎の火山に入るのが初めての鳥楽音も興味深けに周りを見回している。


『ひえぇ。溶岩めっちゃ熱そう』

『いや、熱いどころの騒ぎじゃないねん』

『生身で触ったら普通に燃えるよね』

『燃えるっていうか溶ける?』

『うわぁ、溶岩の川だ……』


 炎の火山に入った瞬間に感じるのは、まず猛烈な熱さ。暑いではなくもはや熱いレベルだ。

 その原因となるのは、高い天井から滴りおちる赤くドロドロとした液体。

 滴り落ちたそれは、水たまりならぬ溶岩だまりになっている。

 さらに、高低がある場所では真っ赤な川が流れている。


 ボコボコとしているマグマは触ったら当然火傷ではすまない。

 ここ炎の火山はダンジョンの難易度は敵の強さ以上に、環境の過酷さでも有名なダンジョンなのだ。


「もしも、ダンジョンの過酷さでランクが決められていたらBランクじゃ済まないですよね」


「そうだね。準備してなかったら普通の人は無理なんじゃないかな」


 雫月は、懐から液体を取り出す。

 当然、雫月もこのダンジョンのことは知っていたので準備をしてきている。


「耐熱ドリンクを飲んでいきます」


『まぁ、耐熱ドリンク必須だよなぁ』

『それなりにお高いけど、ダンジョン挑むなら買わざるを得ない』

『まぁ、Bランクダンジョン潜れるくらいなら稼いでるだろ? ってことよね』


 ちなみに、耐熱ドリンクは一般的に知られている。

 その名の通り、熱さを和らげてくれるもので、ダンジョン探索者向けのショップで買えるものだ。

 ちなみに、Bランクエリアに挑めるだけの能力がないと売ってくれない。


「あー……少し楽になりました」


 ドリンクを飲んだ雫月はすぐさまその効果を実感する。

 熱いが暑いになったくらいには効果がある。


『見てるだけでも汗が出なくなったのがわかる』

『それでも、手で扇いでるあたり暑そうだけど』

『あれ? トラネちゃんは飲まないの?』


 雫月は耐熱ドリンクを飲んだが鳥楽音は飲んでいない。

 しかも、雫月と違って汗一つかいていない。


「私、熱さ感じないみたいなんだよね」


 これは当然シンクロの効果だ。

 火属性になった鳥楽音にとってこの程度の熱さはなんでもないのだ。


「心底羨ましいです……」


 そんな鳥楽音を雫月はうらめしげに見るのだった。

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