第42話 配信の適正

 溶岩に気をつけながらエリアを進んでいく。

 慎重に慎重を重ねているため非常に鈍足だ。


「敵が出ないんだよ」


「出ないほうがいいですけどね」


 足元はところかしこに溶岩だまりがある。

 耐熱の効果で多少は触っても問題がなくなっているが、それでも精神的に触れたいものではない。


「と、言っていると敵なんだよ」


「えっ? あ、ホントですね」


 噂をすればなんとやらということで、敵が出てきた。

 一瞬、雫月は気が付かなかったが、鳥楽音の視線を追って気がつくことができた。


「溶岩の中にいるヘビ……」


 その敵は溶岩の中から、細い身体を伸ばしている。

 ヘビがチロチロと舌を出すように、火を出している。


フラワ~『マグマヘビ。溶岩の中を自由に動くヘビのモンスター。火を吹いて攻撃してくるがあまり強くない……が、溶岩の中を動き回るので倒すのは非常に大変』


『炎の火山では敵としては最弱だけど、倒しづらいんだよなぁ』

『溶岩から引きずり出せば動かなくなるんだけど、それが辛いっていう……』

『水か氷が弱点だが……』


 鳥楽音は当然火属性、そして雫月は無属性だ。

 敵にするのは困難な相手……


「スルー……ですかね」


 攻撃をするためには、雫月が溶岩の中へ入っていく必要がある。

 そのため、雫月は戦わない選択肢を取ろうとした。

 マグマヘビは溶岩の中からは出てこない、逃げることは簡単だ。


「うーん、せっかくの配信だからなんとかしたいんだよ」


 そう言って、鳥楽音はマグマヘビに近づいていく。


「あ、ちょっと」


 雫月が止めようとするが、構わず溶岩の中へ入る。


『うわっ! 熱そう!』

『いやいや、熱いどころじゃないって!』

『足は!? 燃えてない!?』


 マグマに足を付けている鳥楽音だが、何事もなかったかのようにマグマの中を行く。


「先輩……大丈夫なんですか?」


「うーん、なんかお風呂の中みたいかな?」


 心配する雫月に対してそんなゆるい返しをしている。

 視聴者も雫月も困惑だ。


 そして、一番困惑をしているのは、徐々に近寄られているマグマヘビだったりする。

 唖然とした様子で鳥楽音の事を見ている。


「シューッ!」


 そして、我に返ったのか、鳥楽音に向かって炎を吐き出す。

 足場の悪い溶岩の中、鳥楽音はまともに避けることもできずに、火に巻かれた。


「先輩!?」


「熱……くないね」


 思わず、声をあげてしまった鳥楽音だったが、すぐに熱くないことに気がついた。


「なんか、ドライヤーの風が当たってるみたい?」


「先輩の耐熱どれだけなんですか!?」


『凄い通り越して笑えてくるんだがwww』

『何? 火属性のモンスターをウェアするとこんなことできるのwww』

『いやいや、普通できんてwww』


 そう、当然、火属性のモンスターをウェアしただけではここまでにはならない。

 鳥楽音がここまでの耐性を身に付けているのはシンクロしているおかげだ。


「よいしょっと」


 鳥楽音は手を伸ばして、むんずとヘビの頭を掴む。


「シャー!?」


 マグマから引張り出されたヘビは身体を捩って抵抗するが、鳥楽音の手からは逃れることができない。


「捕まえたんだよー」


 頭を掴んだまま、雫月の前に持っていく。


「うわぁ……」


 ヘビはそこまで得意ではない雫月だったが、その姿には思わず同情してしまう。


「どうする? ルナちゃんが倒すかな?」


「あー、いやー……」


「僕が倒してもいいけど、ルナちゃんの方が配信映えするんじゃないかな?」


 鳥楽音が倒すとなると、長い時間をかけて炎で攻撃をしていくことになる。

 確かに、それは配信映えはしないだろう。

 しかし、


「今更そういう問題ではないですよ」


『撮れ高意識◎』

『だけど、もはや倒し方以上の物見せられてるんだよなぁwww』

『どんな倒し方しても、これ以上の撮れ高はないだろうて』


 何事もなかったかのように、溶岩の中へ入っていく鳥楽音。

 火に巻かれても、ほとんど無反応な鳥楽音。

 撮れ高はそれだけで十分だった。


 が、それはさておき。


「とりあえず、可哀想なので離しちゃっていいですよ」


「えっ? いいの?」


「ええ、むしろそれも撮れ高になりますので」


「そう、ならそうするんだよ」


 言われた鳥楽音は大人しく、マグマヘビを離し……


「あ、そっか、地上だと動けないんだったかな」


 マグマがないところに離されたマグマヘビは身体をくねらせるだけでほとんど動かない。

 再び、鳥楽音はマグマヘビを掴み。


「えりゃっ!」


 溶岩に向かって投げた。


「シューッ!?」


 投げられたマグマヘビが悲鳴をあげているような気がしたがきっと気の所為である。

 ボチャン と着水ならぬ着溶岩した。


「よし。それじゃあ、行こうかな」


「……はい」


 そしてまたしても何事もなかったかのようにダンジョン探索に戻る。


『これが、ルナちゃんのパーティかぁ……』

『見た目とか能力だけじゃなくて、性格も配信向けの人材だなぁww』

『さっきのシーン切り抜き班がすでに動いているw』

『ルナちゃんの反応込みで撮れ高良すぎるんだよなぁ』


 一連のシーンは放送を見ていた切り抜き師によってすでに動画化がされていたりする。

 それは瞬く間に拡散されていき、あのルナにやばいパートナーが現れたと知られることになったのだった。

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