第39話 新たなパーティ

「というわけで、被害は特になかったです」


「そう……良かったんだよ」


 スパークヒヨコも再びソウルストーンに戻り、しばらくして鳥楽音が目を覚ました。

 そんな鳥楽音に起こったことを伝える。


「それにしても、この子がそんなことを考えていたなんて……」


 鳥楽音はソウルストーンを撫でる。


「あの……先輩……パーティの話っていうのは……」


「ええ……まぁ、正直あんまりいい扱いではなかったかな」


 雫月が聞きづらそうに真相を尋ねるが、それにあっさりと鳥楽音は答えた。


「元々はそんなことなかったんだけどね、学校で一番なんて呼ばれ始めてから変になっちゃったんだよ」


 鳥楽音の話によると、元々は同じクラスで組んだ仲良しのパーティだったらしい。

 それが、3年になり、学校で一番になると傍若無人になった。


 なんでも、学校を卒業したら国内でも有数のギルドに誘われているとかなんとか。

 ちなみに、鳥楽音にも話自体は来たが、そのギルドが怪しかったため断った。


 それ以来、鳥楽音が目の敵にされた、というのが真相だった。


「まぁ、僕も色々と甘やかしすぎたところがあったんだよね……」


 元々パーティ内での雑用なども鳥楽音が受け持っていたり、鳥楽音は面倒見がいいところがあった。

 しかし、親切心でやっていたそれを当たり前のように受けるようになり、雑に扱われたりもしたらしい。


「……多分、そのパーティは終わりだね」


「ですね。というか、終わらせましょう」


 話を聞いた雫月が怒るが……


「まぁ、彼らはもう学校やめちゃったから」


「えっ、そうなんですか?」


「ええ、数日前にね。学校をやめてギルド入るんだって」


「そんな……」


 学校の一番のパーティが辞めたなんて話は初めて聞いた。

 つまり、終わらせようとしても本人たちはもう学校にはいないのだ。



「暗い話はさておき、ちゃんと説明したから、以降は大丈夫だと思うよ」


「うん、ありがとう。本当に助かったんだよ」


 今後、鳥楽音がウェアを拒否されることはなくなる。

 それはつまり、再びダンジョンで活動できるようになったということだ。


「そうそう、その子からメッセージも預かってるよ」


「えっ?」


 陽花が自分のスマートフォンを鳥楽音に渡す。


「動画でメッセージを残したんですよ」


 どうせ伝えるなら、伝言よりもより直接に近いほうがいい。

 文明の利器の活用だ。


「本当に僕が動いているんだよ!」


 動画を再生し始めた、鳥楽音が自分の姿を見て驚く。

 そりゃ、自分の身体が全く記憶にない行動をしているのだ。

 ちなみに、動画の中の鳥楽音はクッキーをぱくつきながら話し始めた。


『ママ! 大好きだよ! これからも一緒に頑張ろうね!』


 それだけで動画は終わった。

 数秒のメッセージ、しかし、これだけで十分だったのだ。


「ふふっ、ママなんて思われていたんだね」


 自分の姿をしているが、喋り方も仕草も違う。

 まるで本当の娘のように思えた。

 そんな娘からの言葉。


「そうね……頑張ろう……一緒に」


 鳥楽音は改めて決意を固めた。

 雫月に向き直り。


「雫月ちゃん、まだ僕の事をパーティに誘ってくれるつもりあるかな?」


 そう尋ねた。

 それに対する雫月の言葉はもちろん……


「ええ、むしろ、一緒にパーティになりたい気持ちが増してます」


 モンスターからあれだけ好かれる人柄。

 誘わない理由なんてなかった。


「そう、それじゃあお願いできるかな?」


「はい! こちらこそよろしくお願いします」


 お互いの手を取り合う雫月と鳥楽音。

 ここにパーティが結成された。



 さて、というわけで今後の話……の前に。

 再び、封印を解除して、スパークヒヨコを撫でている鳥楽音に対して雫月が話しかけた


「そういえば、先輩。スパークヒヨコくんに名前付けないですか?」


「えっ?」


「私はホシイヌの子にツキヨウって名付けましたし。仲良くなるなら呼び方もあった方がいいかなって思います」


「なるほどね……確かに、その方が特別感あるかな」


 雫月の言葉に頭を悩ませた鳥楽音だったが、その言葉に納得をして名前を考え始めた。


「そうねぇ……ぴーちゃんとかどうかな?」


 自信満々の鳥楽音だったが……


「悪くはないですが……」


「ぴー……」


「……安直」


「酷い!?」


 雫月どころか、肝心のスパークヒヨコも不満そうにして、さらに陽花がばっさり切り捨てた。

 鳥楽音には名前付けのセンスがなかった……

 それ以降もいくつか提案するが、ことごとく不満そうな顔をされる。


「そんなこと言うなら雫月ちゃんが考えてほしいんだよ!」


「ええっ! 私ですか!」


 なぜだか、雫月が考えることになった。


「うーん、多分喋り方的には男の子でしたよね……」


 頭を悩ませて雫月は一つの名前を思いついた。


「……ヒビキくんとかどうですか? 鳥楽音先輩の名前の一部からちょっとひねった感じです」


 華鳥鳥楽音の音の字から連想した名前だ。


「うん、呼びやすくて良さそう! 可愛さとかっこよさが相まっていいね」


「ぴー!」


「……悔しいけど、センスあるんだよ」


 満場一致でその名前が採用された。

 というわけで、スパークヒヨコ改めて、


「よし! これからあなたはヒビキくんだよ!」


「ぴー!」


 鳥楽音とヒビキというパートナーが出来上がったのだった。



 そして更に……


「ひょっとして先輩もシンクロできるようになっているんじゃないですか?」


 雫月がそんな事を言い始めた。

 ヒビキにあれだけ好かれているのだ、むしろできない方がおかしい。


「陽花さんとも交流してますし、いけるのでは?」


 人間に対する恐れもほとんどなくなっているだろう。


「それじゃあ、ウェアしてみようか、いい?」


「ぴー!」


 鳥楽音がヒビキをウェアする。

 当然シンクロは成功した。


 その姿は全員を驚かせるのには十分だった。


「これは、放送で出したらかなりの騒ぎになりそうですね……」


 困ったような、でも嬉しいような、そんな複雑な表情をする雫月だった。

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