第38話 ヒヨコの目的
「これ、おいしー」
ぱくぱくとクッキーを食べる鳥楽音……ではなく。
「えっと、鳥楽音先輩ではなく、スパークヒヨコなんですよね?」
「うん、多分」
要するに鳥楽音の身体をスパークヒヨコが操っている状態だ。
つまり、ある意味で暴走状態ではあるのだが……
「暴走という感じではないような?」
本人、鳥楽音の意識がないのに動いているという意味では暴走しているのは間違いないが、暴れるという意味では暴走ではない。
次々とクッキーを食べていく姿は、完全に子供のそれである。
「なくなっちゃった……」
ついにはクッキーを食べきって悲しそうにしている。
「あー……もっと食べる?」
「食べる!」
陽花が声をかけると、即座に反応した。
その目はキラキラで、一切の陰はない。
「いいよ、その代わり、食べたらちゃんとお話聞かせてね」
「うん!」
とりあえず、危険はないようなので、落ち着くまで待つことにした。
「それで、今、君は鳥楽音先輩の身体を操っているってわけ」
「なるほどー?」
クッキーを食べて落ち着いたところで、陽花は現状の説明をした。
まぁ、スパークヒヨコが理解したかどうかは怪しいところだが。
「それじゃあ、早速なんだけど……君は鳥楽音先輩の事嫌いじゃないよね?」
「うん? 僕はママのことが大好きだよ!」
「ママ……」
どうやらスパークヒヨコは鳥楽音の事を母親のように思っているらしい。
やったね鳥楽音ちゃん! 子供が出来たよ!
「お姉ちゃんたちはママのおともだち?」
「えっ? ああ、うん。そんな感じ?」
陽花としては今日が初対面だけど、もう友達のつもりだ。
「そうなんだー、なんか他のひととちがうねー」
「うん? どういうこと?」
鳥楽音の他の人というのは誰のことだろうか?
「いっつもいっしょにいる人たちはママにいじわるするんだよ!」
ママに意地悪……?
陽花と雫月はその言葉を聞いて顔を見合わせた。
これはひょっとして……というのが二人の頭をよぎっていた。
「ねえ、いじわるって例えばどんなこと?」
「ママの悪口を言ったり、ママにだけ荷物を持たせたり! 回復が遅い! って怒鳴ったりするんだよ!」
プンプンという感じで起こるスパークヒヨコ。
「回復……ひょっとしてダンジョンでの話でしょうか?」
「そう! あいつらやなやつなんだよ!」
間違いない、これは鳥楽音のパーティでの活動の話だ。
「ひょっとして、君は鳥楽音先輩をダンジョンに行かせないためにウェアしないようにしていた? ってこと?」
「うん!」
陽花の質問にあっさりと頷いた。
「……いきなり理由がわかっちゃいましたね」
「だね……」
最初はどうやって尋ねようかと思ってたんだけど、もう答えがわかってしまった。
「つまり、話をまとめると……」
「鳥楽音先輩はパーティで不遇な扱い? をされていた?」
「それに怒ったスパークヒヨコがそのパーティから引き離すために、ウェアしないようにしたいた……ってこと?」
「くっきーおいしー」
再びクッキーを食べに戻ってしまったスパークヒヨコだが、もう間違いないだろう。
「この子は鳥楽音先輩を守るためにあえてそうしていたんですね……」
原因は不仲などではなく、むしろその逆。
好きだからこその問題だったのだ。
「そういえば、先輩、追い出されたって言ってたね」
「そうですね、私も聞いた時はアレ? って思いました。普通パーティだったら一緒に状態を解決しようとしますよね」
ウェアできなくなったメンバーの解決に協力もせずに放り出すパーティ。
今考えれば、違和感がある。
「つまり、結果的にこの子の目的は成功していたってことですか……」
パーティから引き離すために、というスパークヒヨコの作戦は成功している。
しかし、そこには問題があった。
「ウェアしていない以上、先輩からの感情は伝わらないから、離れたかどうかもわからない……」
作戦が成功したということがスパークヒヨコにはわかっていなかった。
話し方などからして、このスパークヒヨコは子供なのだろう、きっとそこまで頭が回っていなかったのだ。
これには二人も頭を抱えるしかない。
「とりあえず、そのパーティメンバーへの追求は後にするとして、とりあえず、今の鳥楽音先輩の状況を話さなきゃかな?」
「ですね。私の方から理事長にも話をしておきます」
大切な友人を無下に扱った人間を雫月は許さない。
陽花はスパークヒヨコに自身の作戦が成功して、パーティから離れたことを懇切丁寧に説明する。
「というわけで、もうウェアしても大丈夫だよ」
「今後近寄らせないようにします」
「やった! だいしょうり! だよ!」
二人からの説明を受けて、スパークヒヨコは嬉しそうにしている。
これにて一旦は解決……なのだが……
「ねえ、スパークヒヨコくん、もし鳥楽音……ママが私とパーティを組むってことになったら反対する?」
もしも、パーティというものが嫌になっていたりしたら、また同じことになるかもしれない。
そう思った雫月が確認をする。
こうして確認をとるのも雫月らしい。
「お姉ちゃんはママにいじわるするの?」
「いえ、絶対にしないです!」
「だったらいいよ」
無事に許可をいただいた。
それを喜ぶ雫月。
「あ、そうそう。君、何か鳥楽音先輩へ伝えたいこととかある?」
「うーん?」
「お姉ちゃんたちが伝えてあげる」
そう言って、陽花は自分のスマートフォンを構えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます