第36話 小さくてふわふわ

「モンスターの想い……シンクロ……?」


 話を聞いた鳥楽音はしばらく呆然とした様子だったが……


「でも雫月ちゃんが嘘をつくわけないんだよね」


 そう言って納得をした。


「それに、陽花ちゃんがモンスターの封印を解いているし、最近の雫月ちゃんの活躍を考えるとむしろ納得なんだよ」


 配信のことを思い返して、うんうんと頷いている。


「そうですね。私が今ここまで来てるのは間違いなく陽花さんのおかげです」


「そんなそんな~」


 褒められて照れる陽花だったが。


「それで、どうする~?」


「どうするって何をですか?」


「その子の封印解けばもうちょっと何かわかるかもしれないよ?」


「「あー……うーん」」


 陽花の言葉に、思わず二人して唸ってしまった。

 確かに、陽花に任せれば何かわかるかもしれない。

 モンスターと交流することによって、なぜ鳥楽音が拒否されているのか分かる可能性は高い。

 しかし……


「危険じゃないですか?」


「今更かもしれないけど……危ない気がするんだよ」


 二人は心配をしていた。

 なにせ今までとは少し状況が違うのだ。

 相手は人間を拒否しているというモンスターだ。


「大丈夫大丈夫」


 しかし、よほど自信があるのか、陽花は笑うだけだった。



「私はウェアしておきますね」


「ごめんね、僕のために……」


 結局大丈夫と言い張る陽花を止めることはできず、もしもの時のためにと雫月がウェアしておくという状態で封印を解くことにした。


「それじゃあ行くよ~」


 陽花は宣言と共に、ソウルストーンを投げる。

 地面に落ちたソウルストーンは光り、その後には一匹のモンスターがいた。


「これがスパークヒヨコ……?」


 そこにいたのは今まで見た中でも一番……


「……小さい」


「かわいい……」


 警戒していた二人でさえも思わずそう言ってしまうくらいの見た目をしていた。


 見た目は端的に言って、赤い色をしたヒヨコである。

 ただし、時折、火花が散っていて触るとちょっと危なさそうだ。

 明らかに強くなさそうな見た目、しかし、陽花の反応は違った。


「ふふっ、強そうだね……」


 先程までの余裕な様子は一変、警戒したように構えている。

 対して、封印を解かれたスパークヒヨコはわけがわからないといった様子で周りを見回す。

 自分に相対する陽花を見て、その後に、鳥楽音のことを見て。


「ピー!」


 鳴き声をあげて、鳥楽音の方に行こうとしたところを……


「はい、ストップ!」


 陽花に捕まえられた。



「ピーッ!!」


 陽花の手の中で暴れるスパークヒヨコは激しく火花を散らしている。


「陽花さん……熱くないんですか?」


 まるで火の球みたいになっているスパークヒヨコを掴んでいる陽花は熱そうだが。


「一応耐火手袋してるから大丈夫だよ」


 陽花はもう片方の手をひらひらさせて応える。

 陽花はモンスターと戦う時は必ず、手袋をしている。

 実はその手袋はダンジョンで両親が入手したもので、あらゆる耐性がある優れものだったりする。

 さらに陽花の服装もダンジョン産で高い耐性を持っていたりする。


「本当に大丈夫ですか? 離れてても結構熱いんですけど」


「ピー!」


 離れている雫月のところにも熱が伝わるくらい、スパークヒヨコは熱を放射している。


「だよね、だからこそ離すわけにはいかないんだよね」


 離したら先程のように、鳥楽音に寄っていこうとするだろう。

 そうすると、鳥楽音が危ないのだ。

 しかし、いつまでもこうして捕まえているわけにもいかない。


「ねぇ君?」


 陽花は捕まえたままのスパークヒヨコに話しかける。


「君が鳥楽音先輩のことが好きなのはわかったから少し熱を弱めて貰えないかな?」


「えっ?」


 陽花の言葉を聞いた鳥楽音は疑問の声を発する。


「陽花さん? その子、先輩に攻撃をしようとしているわけじゃなくてですか?」


 近寄ろうとしていたのも、攻撃しようとしていたからだと考えていた雫月も驚く。


「うん、逆に好きすぎて感情が溢れちゃってるって感じかな?」


 掴んでいる方とは逆の手で、頭を撫でながらそういう陽花。


「熱を弱めてもらえないと、鳥楽音先輩にあなたを近づけないよ?」


 そんな陽花の言葉が通じたのか、スパークヒヨコは暴れるのをやめ、炎も徐々に収まっていった。


「うん、よしよし」


 完全に収まったのを確認して、陽花はヒヨコを掴んだまま鳥楽音に近寄り。


「どうぞ」


 差し出した。


「えっ? でも‥…」


「大丈夫ですよ。もう熱は出しませんから」


 確かに陽花の言う通り、近寄っても熱さはないが……


「……っ」


 黙っていた鳥楽音だったが、意を決してヒヨコに手を伸ばし。そっとその頭を撫でた。


「……ぴー」


 鳥楽音に撫でられたヒヨコは鳴き声をあげる。

 しかし、先程までの敵意のある鳴き声ではなく、親に撫でられた子供のような嬉しさの鳴き声だった。


「わぁ、ふわふわ」


 それが鳥楽音もわかったのか、安心してその頭を撫でる。


「……流石陽花さんですね」


 それを見て思わず雫月はそう呟いていた。

 先程、陽花が言ったとおり、スパークヒヨコが鳥楽音のことを好いているということが事実だとわかった。

 しかし……


「それならなんでウェアできなくなったんですかね?」


 結局その理由についてはまだわからないままなのだった。

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