第35話 モンスターの信頼度

「どうしてそんなことになったんですか?」


 雫月は自虐的な笑みを浮かべる鳥楽音に対して質問を投げかける。

 しかし、鳥楽音は首を振る。


「理由はわからないんだよ。Cランクエリアの攻略が終わってBランクに潜ろうとしたら急に……」


 原因は不明らしい。


「ウェアできなくなるって、そういうことってよくあるの?」


 質問したのはウェアの事情がわからない陽花。


「調べて僕も初めて知ったけど、極稀にそういうことも起こるらしいよ。でも、原因はわからないんだよ」


「そうなんだ……」


「一応、強いモンスターが封印されているソウルストーンをウェアしようとすると起こること多いらしいよ」


「あ、そういえば聞いたことがあります。ダンジョンに潜り始めた人が、他の人から借りて強いモンスターをウェアしようとしても失敗するって」


 他人のソウルストーンをウェアすることが推奨されていない理由がこれにある。

 他の人からソウルストーンを借りて、それをウェアしようとすると高確率で失敗し、それでも無理矢理にウェアしようとすると暴走するとまで言われている。

 過去にそれによって事件起きて今はソウルストーンを貸してのウェアはマナー違反とされている。

 ただし、例外はもちろんある。


「先輩は全部のソウルストーンでウェアできなくなったんですか?」


「いえ、できないのはいつも使っていたやつだけなんだよ」


 鳥楽音も複数のソウルストーンを持っているが、ウェアできなくなったのは一つだけで他のソウルストーンは問題なかった。

 しかし、その一つというのが問題で。


「そのモンスターって何ですか?」


「僕のモンスターは……スパークヒヨコなんだよ」


 鳥楽音のモンスターは少々特殊なモンスターになっている。


「……聞いたことない」


 陽花でさえも初めて聞くモンスターだった。


「どこで封印したモンスターだとか聞いても良いですか?」


 当然湧いた雫月の疑問、しかし鳥楽音は再び首を振った。


「わからないの。実は僕のソウルストーンはお母様からもらったものなんだよ」


「もらったんですか!?」


 雫月の驚きは当然のものだ。

 先程も言った通り、他人のソウルストーンをウェアすることはマナー違反とされている。


「僕の場合は、子供の頃にお母様が持っていたものをたまたまウェアしたらできちゃったんだよ」


 何も知らないまま、ウェアをしたらそのままできてしまったというパターンになる。

 そして、ウェアできるものをわざわざ禁止にする必要もない。

 原因はわからないが、こうやって稀に相性が良くウェアできることもあるのだ。


 鳥楽音の場合は、そうやって母親からソウルストーンを受け継いだ。

 しかし、それなら封印した親に聞けばいいという話になるのだが……


「あ、鳥楽音さんのお母様は……」


「ええ、亡くなっているんだよ」


 鳥楽音の母親は、鳥楽音が物心ついた頃に事故でなくなっている。


「すみません」


「いえ、もうかなり前のことだから大丈夫なんだよ」


 気にするなという鳥楽音。

 しかし、そういう意味では鳥楽音のソウルストーンはある意味で遺品のようになっているのだ。

 当然愛着だってある。


「ウェアできなくなったのはきっと僕の実力不足なんだよ」


 強いモンスターをウェアしようとすると失敗する。

 つまり、鳥楽音は自分自身の能力が不足しているせいでウェアできなくなったのだと考えていた。


「う~ん?」


 しかし、それに対して陽花は首をひねる。


「陽花さん何か?」


 何かわかることがあるのかと雫月が尋ねる。


「一度ウェアできなくなったのができなくなるってのは不思議だなぁって」


「……どういうことですか?」


「単純にモンスターのレベルに僕がついていけてないからだよね?」


 陽花の疑問に、雫月は聞き返し、鳥楽音は自虐的な笑みを浮かべたが。


「いや、そういう問題じゃなくて……」


 陽花は自分の考えをまとめながら話す。


「そもそも陽花は他の人のモンスターをウェアできないのって信頼度が0だからだと思うんだよね」


「……なるほど」


「信頼度?」


 雫月と鳥楽音で違う反応をした。

 それは、ソウルストーンに入っているモンスターの気持ちを考えるという思考があるとないの差だ。


「ほら誰だって、本当のパートナーから離されて、今日から別の人がパートナーだって言われたら嫌じゃない?」


「……確かにそれは嫌かも」


「ソウルストーンのモンスターの話だよね?」


「うん、モンスターだってそりゃ好き嫌いはあるでしょ?」


 例えば雫月のモンスターであるツキヨウが雫月以外にウェアされたいかというと当然嫌がるだろう。

 ちなみに、陽花は例外であるが……


「そうやって、モンスターの気持ちを考えると、きっと何かしらウェアされたくない原因みたいなのがあるんじゃないかなぁって」


 今回の場合は、少なくとも一度はウェアを許しているということもある。

 しかし、何かしらの原因でウェアされたくなくなったのではないかということが陽花の言いたいことだ。


「つまり、陽花さんとしてはその理由さえ解決できればまたウェアできるようになるかもしれないってことですか?」


「うん、そういうこと」


「えっと……?」


 陽花の言いたいことを理解した雫月はそこに希望を見出す。

 そして、相変わらず話についていけていない鳥楽音。

 モンスターとの信頼度ということが伝わっていないのでそうなるのも無理はない。

 それを見て雫月は苦笑いをしつつ、


「ちょっと信じられないかもしれませんが……」


 雫月は鳥楽音に自身のシンクロという状態について話すのだった。

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