第30話 モンスターは無視をする

 次の日、雫月は中ボス後のセーフゾーンからの配信を始めた。

 しかし、前日と違う点が一つ。


『今日は犬耳ルナちゃんだ!』

『昨日みたいに岩肌じゃないの?』

『岩肌は意味違ってこない? 違う?』

『まぁ、言わんとする事はわかる』


 視聴者のコメントの通り、雫月はホシイヌのツキヨウをウェアしているのだ。

 その理由について雫月は話す。


「昨日の放送で思ったんですよ。やっぱりロックプリンの遅さは配信にとって致命的だなと……」


『あー、結局昨日は中ボスまでしかたどり着かなかったからね』

『いやいや、それでも十分速いのよ?』

『道中の見どころがあればそれでいいけど、そうじゃない時は辛いかも?』

『作業用にしてたから特にあんまり感じなかったけど』


「雑談放送としてはそれでいいのかもしれませんが、一応攻略ですので……やっぱりボスとの戦闘はお見せしたいなぁと」


 今日も再びスタートし、エリアボスの攻略を目指すことになる。

 当然、入り口から離れるほどにモンスターの強さも上がっていく。

 そうなると、昨日の調子では今日でエリアボスまでたどり着けるかは微妙なところなのだ。


「だから、ホシイヌの子ですよ」


『なるほど、移動としてはそれでいいかも?』

『でも、それで戦闘大丈夫なの?』

『ホシイヌの子は遠距離攻撃がないから、わざわざ変えたんじゃなかった?』


「ですね、ホシイヌは遠距離攻撃がないので、道中のモンスターに対して攻撃ができないです」


 でも……


「だったら、無視すればいいですよね?」


 攻撃できないならスルーして通りすぎればいいだけだ。


「無理に戦おうとしなければホシイヌで走り抜けてボスまで行けばいいんですよ」


 我が物顔で説明する雫月だったが、実はこれ陽花の入れ知恵が入っている。


「道中はホシイヌで駆け抜けて、ボスとは戦わなきゃいけないので、ロックプリンに変える。これです」


『あー、確かに一体じゃないといけないってこともないもんな』

『ダンジョン内で切り替え……あんまりやってる人いないけど、できないわけじゃないか』

『一応、敵が来たら危険だから推奨はされていないけど、ボス限定にするならボス前で換装すればいいだけだし』


 この切り替えの発想を聞いた時、雫月自身もその発想はなかったと、思わず天を仰いでしまった。


「というわけで、目標は昨日の半分くらい1時間でエリアボス踏破です!」


 そんな目標を立てて雫月は走り始めた。


『相変わらず速いww』

『あっ、敵……追いつけてませんねwww』

『飛んでる敵だから速いはずなんだけど、全然追いつけてないね』

『あ、諦めた。流石に距離離れると諦めるんだなw』


 風の高原を雫月は走る。

 空からのモンスターを完全に無視、近くを通るモンスターをジャンプで飛び越えて、先へ先へと進んでいく。


 その結果。


『本当に1時間以内で着くとは思わなんだ』

『大体55分くらいかな?』

『これまた記録なのでは?』

『いっそボスもそのまま行っちゃえば?』


 宣言どおり、ボスエリア手間のセーフゾーンまでたどり着いた雫月はそこで息をつく。


「流石に、ホシイヌではここのボスは厳しいんじゃないかと」


 もちろん、ホシイヌで行ければそれはそれで楽ではあるが、ボスを考えたら厳しいと言わざるを得ない。


「ここのボスは純粋な鳥系のモンスター、レーダーコンドルですからね」


フラワ~『レーダーコンドル。レーダーのような機械を眼帯として付けている鳥系モンスター。風や雨などを操って攻撃してくる。コンドルともついている通り、非常に速い。その嘴は鉄をも貫く、絶対に当たらないように』


「鉄をも貫くって……」


 攻撃を受けたらひとたまりもなさそうだ。


『エアロシャークよりも強いのかな?』

『そりゃ、中ボスよりも強いに決まってる』

『風もそうだし、雨操ってくるのが辛いんよな』


「……ロックプリンのガードは貫きますかね?」


 エアロシャークの牙は防いだけど、レーダーコンドルはどうだろう?


フラワ~『試すのはやめておいたほうがいいと思うよ。極力攻撃を受けないほうがいいね』


 陽花にまでそう言われると流石に試す気にはならない。


『避けるならやっぱりホシイヌのがいいのでは?』

『ロックプリンの回避力だと避けれなそう』

『いや、でも結局遠距離攻撃ないから撃ち落とせないのでは?』


「一応、考えていることはあるので、ロックプリンでも大丈夫……なはずです」


 これまでロックプリンでは技をほとんど見せていない。

 当然、できることはストーンバレットだけではないのだ。


「それじゃあ、チェンジしますね」


 雫月は、ツキヨウのウェアを解き、次にロックプリンのソウルストーンを取り出してウェアする。

 そういえば、ロックプリンの子の名前考えてないなぁなんて今更思った。


「よし……」


 身体が岩で覆われる。

 ホシイヌと比べると、かなり動きづらい。


「それじゃあ行きます!」


 扉を開き中に突入する。


「……うわぁ」


 入った途端思わずげんなりしてしまった。


『嵐じゃんwww』

『えっ? これまじで?』

『この現象って普通じゃないの?』

『いや、俺戦ったことあるけど、普通に晴れてたよ?』

『一応、レーダーコンドルが雨を呼んだりするけど、ここまでの嵐にはならないはず……』


 視聴者も初めて見る行動に困惑している。

 通常ではない……つまり。


「これは、レーダーコンドルのイレギュラーじゃないですか!?」


 上を見上げると、嵐の中を飛び回る巨大な鳥の陰が見えた。

 それは確かに、事前に聞いていた色とは違っていた。

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