第29話 中ボスとの戦闘

 無事にレアモンスターも捕まえた雫月はウキウキと先に進んでいく。


「とりあえず、そろそろ中ボスですかね」


 バルンネコを捕まえた時以来特に見どころがないような気がして、撮れ高を求めていたところなのでちょうどいいタイミングだ。


 ダンジョンのエリアの中にはその道中にもセーフゾーンが存在する。

 セーフゾーンからはワープして帰ることができ、またそのエリアに入った時にそこから再開することができるのだ。

 これまでのエリアでは使うことがなかったが、今回のように進みが遅い場合は必須になる。


「中ボス倒したら今日の配信は終わりにしましょうか」


 通常はエリア内のどこかに存在するセーフゾーンだが、おおよそ道中の半分くらいの地点には必ずセーフゾーンが存在する。

 しかし、その前には必ずボスがいて、中ボスと呼ばれている。

 もちろん、エリアボスほど強くはないが、当然他の敵と比べると強くはある。


『なんだかんだ3時間くらいか』

『撃ち落としの効果音配信みたいになってたね』

『作業用としては凄い良かった』


「ボスを倒したらそこのセーフゾーンで一旦帰ります」


 ちなみに、遅れているようだが、おおよその予想通りの進行速度だ。


『ここのボスってなんだっけ?』

『中ボスはサメじゃなかった?』

『エアロシャークだな。飛んでるサメ』

『トルネードシャークじゃないんだね』

『それはどっかの映画の……』


 どこぞのB級サメ映画は置いておくとして、中ボスは風を纏っているサメモンスターが出てくる。


「レアでも出ればいいんですが……」


 正直、雫月としては負ける気はしていないので重要なのはレアであるかどうかだ。


『エアロシャークは食いつかれると致命傷なので気をつけて』

『ほんそれ、食いつかれた上、空中にでブンブンされるの恐怖なんよ』

『なにそれ怖い』


フラワ~『エアロシャーク。高速で飛行するサメモンスター。突然の急降下で敵に襲いかかり、強力な噛みつき攻撃をしてくる。一度食いつくとなかなか離れないため攻撃は避けるのが良い』


「噛みつきですか……」


 雫月はそれを聞いて何やら考え始めた。


『どしたん?』

『そこ入ったらボスよ?』

『緊張でもしてるん?』


「あ、いえ、今の私の状態なら噛みつきを耐えられないかなぁって思いまして」


 今の雫月の身体は岩のようなもので覆われている。

 その耐久力がどのくらいあるのか雫月は気になっていたのだ。


『えっ? まさかわざと噛みつかれるつもり?』

『いやいや、普通に危険でしょ』

『サメの噛む力って相当じゃなかった?』

『ワニほどじゃないけど、サメもかなりのはず』


「だからこそ試してみる価値があると思うんですよ」


 どのくらい耐えられるか、それによって今後の対応も変わってくる。


フラワ~『多分余裕で耐えると思うよ』


 視聴者には心配されてしまったが、陽花のその言葉を聞いて雫月は決めた。


「とりあえず、一撃だけ受けてみることにしましょう。やばそうなら次からは回避で」



 エアロシャークがいるボスゾーンに入り、上を見上げると、何もないのに悠々と泳ぐエアロシャークがいた。

 残念ながら色は通常のものだ。

 雫月が入ってきたことに気がつくと、大きく口を空けて威嚇してくる。


 エアロシャークは風を操り、自身を弾丸のように発射する。

 向かう先は当然雫月だ。


「来るっ!」


 雫月はそれを見て、手を前にしてガードを固める。

 普通だったらそんな弱いガードなど関係なく、噛みつかれておしまいなのだが……


ガキンッ!!


 エアロシャークが雫月の腕に噛み付いた途端凄い音が響き渡った。


『うげぇええ噛み付いてる! ルナちゃん大丈夫なの?』

『ガキン……?』

『人間に噛みつく音にしてはかなりおかしいけど』

『よく見ろ、食いちぎってないぞ! 岩で歯が止まってる!』

『まじかwwwww』


 エアロシャークの鋭い歯でも雫月の腕を覆っている岩を貫通することはなかった。


「ガード……できちゃいましたね」


 陽花が言うので大丈夫だと信じていたが、実際に受けてみると自分でも少し驚いてしまった。

 しかし、そんな雫月よりも噛み付いたエアロシャークのほうがよほど驚いていた。


「シャークッ!」


 ガッ! ガッ! っと何度も雫月の腕に噛みつく。

 しかし、何度噛みつこうを雫月の腕には傷一つつかない。


「痛くはないですが……なんか重いものをぶら下げている感覚ですね……」


 冷静に感想を言う雫月。


『猫にじゃれつかれるんじゃないんだからさぁww』

『なんだお前の力はその程度か? みたいなww』

『エアロシャークさん顔真っ赤やんけwww』


 初めは心配していた視聴者たちだったが、余裕な様子の雫月を見てエアロシャークを煽る。

 当然、エアロシャークに顔色なんてものはない。

 そして、そのコメントを受けたわけでもないが、エアロシャークが雫月から離れて再び浮き上がる。


「おー、回ってますね」


 エアロシャークは空中で円を描くように回り始めた。


フラワ~『あの行動は力を溜めてる時の行動』


 流石の陽花の解説が入る。


「なるほど、それをガードすれば私の勝ちですね」


 もはや勝負の基準が変わっているが……

 視聴者もそれを息を呑むように見守る。


「シャシャークッ!」


 力を溜めきったエアロシャークがその勢いのまま、大きく口を空けて雫月に突撃する。


「やっ!!」


 対して雫月はガード……ではなく両手を突き出した。

 衝突して、雫月の身体が後ろに少し押される。

 しかし、雫月の両手は、エアロシャークの口が閉じないように歯を固定している。


「ぐぐっ! 硬い……けど!」


 必死に口を閉じようとするエアロシャークに対して、雫月はその口を開き続ける。

 力と力のぶつかり合い。

 それは雫月の勝ちで終わった。


「せいやっ!」


 思いっきり力を込めて、エアロシャークの口を開く。

 それは、通常開いてはいけないラインを超えて、なお開き。


 ガクッっと顎が完全に外れた。


 エアロシャークの完全に開ききった口、なんだかエアロシャークは悲しそうな目をしていた。


「うん、楽しかったです」


 そして雫月はその口に向かって、ストーンバレットを打ち込む。

 口から入った石はその身体を貫通し、エアロシャークは悲鳴も挙げられずに光となって消えていった。


『ひええぇええええ』

『倒したけどwwww』

『ルナちゃんやべぇ』

『サメの咬合力に勝った』

『切り抜き確定だ!』


 その言葉通り、この一戦は多くの切り抜き氏に動画化されてまたも雫月のチャンネルは伸びるのだった。


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昨日は投稿予定ミスってました、今日こそ10時20時投稿の予定です。

それから1万PV到達! ありがとうございます!

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