第28話 特別ソウルストーンのお披露目
雫月は前回とは違ってゆっくり風の丘を進んでいく。
「この遅さはやっぱり弱点ではありますね……」
ロックプリンをウェアしていることの難点がこの移動の遅さだ。
張り付いている岩自体に重さを感じるわけではないが、それでもなんだか身体が重い気がしていた。
『まぁ、それでも普通くらいじゃない?』
『ホシイヌ纏ってた時が早すぎただけなんよ』
『敵を一撃で沈めてるから戦う時間が短くてすんでるからその分含めると絶対早いのよ』
『まぁ、早くボス戦見たいところではある』
「そうですよね」
配信としては、風の高原の景色の良さに助けられているところはかなりある。
もしも、これが変わり映えしない洞窟の中だったら配信映えが気になるところだ。
「あ、ウチワスズメですね」
肝心の戦闘も弱すぎて相手になっていない。
「せめて、レアモンスターが出てくれればいいんですけど……」
『撮れ高を狙うためにイレギュラーを望む配信者よww』
『あるあるだけど、本来は危険なんよ』
『まぁ、でも気持ちはわかる、さっきから普通のウチワスズメばっかり出てくるし』
『あいつら数多すぎなんよなぁ』
出てくる敵としては、ウチワスズメが一番多く、時点でバルンネコという猫が風船を持ったモンスター。
数は少ないが、ハネノポニーという翼の生えた小さな馬のモンスターが出てきている。
そのどれも、ストーンバレットだけで光となって消えている。
「今回は捕まえるための秘策も用意しているので、フラワ~さんのためにも出てきてほしいんですが……」
『おっ? 捕まえる秘策? そんなのあるの?』
『普通に捕まえるだけじゃ駄目なの?』
『秘策気になる』
場繋ぎの雑談として出した話題に、視聴者もくいつく。
「ほら、見てわかる通り、私の攻撃って強すぎるのですぐに倒しちゃうじゃないですか、それだと捕まえにくいんですよ」
雫月はこの間、陽花とも相談した内容を視聴者にも聞かせる。
『あー、なるほどな。贅沢な悩みではあるが』
『相手のHPを削ってからソウルストーンに封印するっていうのが一般だもんな』
『削る前に倒しちゃうのは確かに問題かも』
『俺やったことあるからすげぇ気持ちわかるわ』
『相手のHPとかもわからないから、調整とかホント難しいのよね』
視聴者の中にも、捕まえようとして間違って倒してしまったという人がいる。
もちろん、雫月と同じように強すぎてというのは少ないが、少しでも捕まえる確立を上げようとして失敗するというのは一つのあるあるなのだ。
「できれば見せたいから、出てきて欲しい……あっ!」
なんというタイミングか、モンスターが現れた。
「あれ色違いません? 違いますよね!」
出てきたのは、バルンネコだ。
通常バルンネコは黄色い身体に、赤い風船を持っているのだが、その個体は紫色の個体に緑色の風船を持っていた。
フラワ~『来た! 間違いなくレア個体!』
『紫! 紫だぞ!』
『タイミング良すぎるんだがwwww』
『ルナちゃん、やっぱり運良すぎなのではwwww』
『運がいいのか悪いのかw』
ようやく出てきたレアモンスターに視聴者も盛り上がる。
「しかも、バルンネコですか! 捕まえやすい部類で助かります」
バルンネコは他のモンスターと違う点が一つだけある。
「それじゃあ、ストーンバレット!」
雫月はいつも通り、いつもと違う狙いを付けて石を射出する。
狙いはバルンネコの身体ではなく、持っている風船の方だ。
バンッ!
投石が風船を破壊した。
「にゃにゃっ!?」
バルンネコはそのまま落下し……見事に着地をした。
これが他のモンスターであれば、地面への激突のダメージで倒してしまっているところであるのだが。
流石はネコ系モンスター、高いところから落ちたにも関わらずダメージは0だ。
『こうなったらもうただのネコなんよなぁ』
『ただのネコは二足歩行しないのよ?』
『ケットシー?』
『ちなみに、バルンネコは隙を見てまた風船を膨らませようとしてくる』
『どこからともなく、風船取り出して膨らませるんだよね』
なのでまた飛ばせる前に近づいて攻撃する必要がある。
まぁ、今回は雫月は攻撃するのではなく、捕まえるために近寄るのだが。
「ふかーっ!」
「よいしょっと!」
近づいてくる雫月を警戒して唸りをあげるが、雫月はためらうことなく近づき、ソウルストーンを押し付けた。
「封印!」
雫月の言葉と共に、バルンネコは光となってソウルストーンに吸収されていく。
そして、何事もなく吸収されきった。
「……捕まえました!」
ソウルストーンをカメラに向かって見せつけ、そう宣言をする。
『おめっ!』
『ナイス封印!』
『実にあっさりとした封印だ!』
『あれ? ノーダメージ封印?』
『普通もっとダメージ与えないと無理じゃない?』
『ひょっとしてさっき言ってた秘策ってやつ?』
「そうです、このソウルストーンはアカデミーの研究所からお借りした特別なもので通常よりもモンスターを捕まえやすいものなんです」
『な、なんだってー!?』
『おいおい! それがあればモンスター封印し放題じゃないの!』
『そんなものこの場で披露しちゃっていいの!?』
「いいらしいですよ? むしろ制作者本人に放送で出していいって言われたので」
『すべてのモンスターを捕まえられるわけではないがね』
制作者本人の風凛が打ったようなコメントに雫月が気がついた。
「あ、もしかして見ててもらえましたか? 無事に成功しました!」
『ああ、見せてもらったよ。いい記録になった』
このコメント、語りではなく間違いなく本人である。
『制作者!?』
『まじか! 俺もこれ入手できるんです!?』
『どうやって作ったんですか!?』
『買いたいんですけどいくらですか!?』
雫月も認めた本人の登場に視聴者も色めき立つ。
しかし、
『さてね、これはあくまでも研究の一環だからね。何かあればアカデミーにでも連絡をとっておくれ』
制作者である風凛はのらりくらりと視聴者からの質問を躱すのであった。
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