第27話 やっかいなモンスター

 紹介を終えた雫月は早速風の高原の中へと入った。


「うわぁ、初めて来ましたけど、凄いところですね……」


 風の高原は、今までの洞窟や迷宮とは違って完全に屋外の空間だ。

 エリアに入った雫月がまず目にしたのは、一面に広がる緑、それに遠くに見えるは青い空と高い山だ。

 風のと名前につくだけあって、時たま心地よい風が緑を刺激し、さわさわと音を立てている。


「ここでピクニックでもしたら気持ちよさそう」


 ダンジョン内であるにも関わらず、そんな感想を抱いてしまうのは雫月だけではない。


『すげぇ景色!』

『気持ちええ空間や!』

『海外の高原とかこういうイメージだわ!』

『いいなぁ、行ってみたくなる』


 もちろん、何も知らない視聴者も雫月に同意する。

 しかし……


『騙されるなよ。こんなんでもダンジョンの中だからな』

『ほんとそれな、潜ったことあるけど何度もひどい目に合わされてるわ』

『ずっと上を警戒しないといけないってホントつらいのよ』


 このダンジョンの難易度を知っている人は口を揃えて忠告をする。

 景色に思わず気を緩めてしまった雫月だったが、そのコメントを見て気を引き締め直した。


「それじゃあ、行きます」


 周りを警戒しながら、道を進んでいく。

 見渡しの良い広い空間に思わず鼻唄でも歌いたく……


「なんか音がしますね」


 当然雫月の口から出たものではなく、上を見上げると。


「モンスターです!」


 そこには鳥の形をしたモンスターが雫月のことを狙っていた。


フラワ~『ウチワスズメ。団扇のような翼を持つ雀のようなモンスター。その翼で風を発生させて攻撃してくる、ダメージは低いので一体だけなら弱いが、複数体で出てくると動きを阻害されている間に別のモンスターに攻撃されるのでかなり大変』


『出たな! 初見殺し筆頭!』

『なんかかわいいけど、フラワ~さんの解説でやばさがわかるわww』

『見た目が可愛いだけあって油断する人が多いのよな』

『降りてこいこの糞鳥がっ!!!』

『コメント欄のモンスターに対するヘイトがやばいww』


 そう、見た目こそ弱そうなウチワスズメだが、やっかいなモンスターのうちの一体なのだ。


「うわっ」


 ウチワスズメが翼をはためかせると風が渦のようになって雫月を攻撃する。

 ダメージという意味ではほとんどないのだが、雫月は思わず目を閉じてしまった。


 ウチワスズメは飛んだままで降りてくることはない。

 これがやっかいなところで、降りてこないで安全圏からひたすら攻撃をしかけてくるのだ。

 さらに、


「ピエエエエエッ!」


 ウチワスズメが鳴き声をあげる。

 そうすると、どこからともなく、もう一匹のウチワスズメが現れた。


『ウチワスズメは仲間を呼んだ』

『ちくちく削られて、こっちからは攻撃しかけずらい』

『遠距離攻撃ないと逃げるしかないけど、逃げてたらまた仲間を呼んでくるんだよなぁ』

『なんかの動画で逃げまくってめっちゃ後ろにモンスター引き連れてたの見たことあるわ』

『ウチワスズメだけならまだ対処できるんだけど、逃げてたら他のモンスターも出てくるのよな』


 2体目から飛んできた風の渦をギリギリのところで躱す雫月。


「あれはレアじゃないので反撃ですよ!」


 このためにわざわざツキヨウではないモンスターをウェアしているのだ。


「いきなさい! ストーンバレット!」


 雫月はウチワスズメに向かって手を構え、そこからこぶし大ほどの大きさの石を射出する。

 ものすごい速度で石はウチワスズメに飛んでいく。


「ピッ!」


 石の塊はそのままウチワスズメの翼を貫通した。

 当然、浮力を失ったウチワスズメは落下し、地面に叩きつけられることになった。


「次!」


 地面に叩きつけられたウチワスズメが光となって消えたのを確認すると、すぐさま雫月は二体目にも石を発射する。

 二体目は不幸なことに顔を貫通し、空を飛んだまま光となって消えた。


『よっしゃざまぁあああああ!』

『やったぜ!』

『一撃貫通! 一撃貫通!』

『ぶちぬいたああああああああ!』

『胸がスカッとしたわwwww』


 ヘイトを稼いでいたウチワスズメの最後に視聴者もにっこり。


「やっぱり遠距離攻撃があると楽ですねぇ」


 実際に攻撃した雫月としてはそんな感想だった。


『流石シンクロ状態だなぁ、同じように石飛ばす攻撃したことあるけど、あんな簡単には倒せなかったよ』

『貫通したからな』

『実際、翼を攻撃して部位破壊するのが一番楽ではあるんだよね』

『とりあえず、ルナちゃんがこのダンジョンでも安定してそうなのがわかったわ』

『うむ、あの強いホシイヌじゃなくて大丈夫? と思ってたけど、これはいける』

『そういえば、風攻撃もあんまり効いてなかった?』


「あ、そうですね、ちょっと押される感じはしましたが……あんまり? この岩のおかげですかね?」


 雫月の身体は今岩で覆われているため、風の影響もあまり受けない。

 そのまま体重計にでも乗ったら凄い数字を叩き出しそうである。


「とりあえず、飛んでる敵は今みたいな感じで倒していけば良さそうですね、あ、ストーンバレット」


 遠くに見えたウチワスズメに向かって石を射出しつつ、雫月は探索を進めた。

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