第25話 レベルを上げる

「そっちじゃないよ~」


 マッドプリンの強化を決めてから数日。

 陽花は、毎日のようにマッドプリンと遊んでいた。


 当初はすぐにヘタれてしまっていたマッドプリンだったが、今では陽花の動きを読み始め、的確に攻撃をするなどの成長も見える。

 しかし、当然陽花はその攻撃すらも避ける。


「ふふっ、残念だったね」


 陽花が手に持っていた棒でペチンとマッドプリンを叩く。


「これで3回目だね」


 ソウルウェアしていない陽花の攻撃はマッドプリンには効かない。しかし、マッドプリンは動きを止めた。

 これは戦闘ではなく、遊び。

 陽花が3回攻撃を与えたらその時点で仕切り直しというルールなのだ。


「少し休憩したらまた始めようね」


「~~~」


 陽花の言葉に、マッドプリンは自身の身体から手のように一部を伸ばし、◯の形を作る。

 言葉を話すことのできないマッドプリンはこのように自身の形を変えることで意思疎通をしているのだ。

 以外と器用であり、あらゆるジェスチャーができるので意外と意思疎通はしやすい。


「うん? なに? あ、先輩? 今日は学校の予定があるとかで遅れるって」


 マッドプリンが小さい雫月のミニチュアのようなものを作る。

 どうやら雫月がいないことが気になったらしい。


 このマッドプリンは雫月とも毎日触れ合いをしている。

 当初は自分を捕まえた相手として警戒をしていたが、根気よく接することで雫月ともかなり打ち解けている。

 いまだシンクロまでは至っていないが、可能性は十分感じられる状態にはなってきている。

 このままいけば配信までに間に合うんじゃないか? そんな気がしていた。


「さて、再開しようか」


 いざシンクロできた時に、弱いままでは話にならない。

 そのため、陽花は気合を入れてマッドプリンを育成していた。


 そんな時だった。


「えっ!? まさか!?」


 陽花は驚きの光景を目にした。

 そうして、急いで雫月に連絡を取った。



「先輩!? 今どこ!? 急いでうちに来て! マッドプリンが大変なの!」


 焦りのあまり早口でまくしたてる陽花。

 連絡を受けた雫月は何かまずい大変なことが起きたのではないかと考えた。


「すみません! 先生! 続きは明日でお願いします!」


 雫月は予定を早めに切り上げて、急いで陽花の家に向かう。

 陽花の家までできる限り全力で走る。


「はぁ……はぁ……陽花さん! 来ましたよ!」


 息を切らしながら家に着くと、陽花が出迎えてくれた。


「待ってたよ! 先輩! こっち!」


「はい! でも、一体何が起きたんです!?」


「いいから見ればわかるよ!」


 陽花に手を掴まれて、ダンジョン空間まで走る。

 そうして、雫月が目にしたのは……


「……光ってる!?」


 何故かピカピカと光っているマッドプリンだった。

 一体何が起きているのか、こんな状態のマッドプリンを見るのは初めてだった。

 見ればわかると言われていたが、さっぱりわからない。


「陽花さん!? 一体何が!」


 改めて陽花に尋ねる。


「間に合った! 先輩これはね! 進化の兆候だよ!」


「進化!?」


 進化という言葉に、思わず雫月は驚く。


「進化ってあの進化ですか!?」


「そう! どのかはわからないけど多分それ!」


 進化とはモンスターの姿や形が大きくかわり、強くなる現象のことだ。

 しかし、その現象はあるだろうとされているだけで、実際にはまだ確認されていない。

 それが今目の前で起こっている!?

 雫月は軽くパニック状態だった。


「本当に進化なんですか!? 間違いではなく!?」


「本当だよ! マッドプリンじゃないけど、別のプリン系のモンスターが同じように進化したところ見たことあるし」


「見たことあるんですか!?」


 確認されていないはずの現象なのに目にしたことがあるという陽花は流石だ。


「前の感じだと、この状態になってから1時間以内くらいで進化したんだけど」


 陽花が前に目にしたのは、普通のプリンであり、マッドプリンが進化するところを見るのは初めてのことになる。


「一体なんのモンスターに進化するのかな?」


 楽しみで思わず顔がにやける陽花。


「頑張って!」


 雫月もようやく落ち着き、真剣な目をしてマッドプリンを応援する。

 応援してもあまり意味はないわけだが、気持ちだけは伝わったのか、マッドプリンは◯を作った。


 その後も、マッドプリンを見守る二人。

 次第に、マッドプリンの点滅の感覚が短くなってくる。


「もうそろそろだよ!」


「ええ!」


 そしてその瞬間は来た。

 マッドプリンが、一際大きな光を発する。


「「まぶしっ!」」


 近くで見ていた二人は思わず、目をつぶる。

 実は陽花は以前も同じことをしていたりするのだが、興奮のあまり忘れてしまっていた。


 まぶたの裏に達する光が収まり、二人は目を開ける。


「なるほど!」


「これはっ!」


 二人は姿が変わったマッドプリンの姿を目にする。


「凄い硬そうだね!」


 マッドプリンは元々泥のような身体をしたモンスターだったのだが、今は泥の上に石のような破片が張り付いている。


「見てください! 身体の中からも石が出てきましたよ!」


 石の内側に泥のような身体は健在であるが、中からも石を出すことができるようだ。


「そうだ! レベルを確認しないと!」


 急いで陽花はレベル測定装置を取り出し、マッドプリンに向ける。

 レベル測定装置で測れるのはレベルだけではなく、その種族名も確認することができるのだ。


「レベルは16…‥種族名は……ロックプリン!」


「ロックプリン!」


 こうして、マッドプリンははロックプリンへと進化をしたのだった。

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