第24話 モンスターのレベル

「封印しているモンスターのレベルが5ならそりゃ、ウェアしている状態でもレベルは5でしょ?」


「そう……なんですか?」


「うん、ママとパパで確認したから間違いないと思うよ? だって人間にはレベルなんて存在しないし」


 陽花は当たり前のように言ったが、実はこれは殆ど知られていない事実である。

 ウェアしている状態で戦闘をしていくとレベルが上っていく、それはつまり人間のレベルが上がっているというのが一般的な考えだ。

 しかし、それを陽花は真っ向から否定する。


「この間の放送で先輩がツキヨウをウェアしている時に22って言ってたでしょ? ツキヨウのレベルも22だから同じだよ?」


「そうなんですか!?」


 この事実が知られていないのは、封印を解いてまでモンスターのレベルを確認するということをしないという理由からだ。

 しかし、考えてみれば当然だ。

 人間のレベルが上がっているのであればウェアしていない時も、身体能力等が上がっているはずなのだから。

 しかし、そんなことは当然なく、ウェアしていない一般人はただの一般人だ。


「そういえば、私ツキヨウを落とす前は16だったんですよ」


「そうだったね、でも遊んでいるうちに22になってたよ?」


 その差6。1週間で上がるにはかなりの速さだ。


「もしかして、陽花さんと遊ぶとレベルが上がる?」


 雫月は陽花の言う、遊びを思い出した。

 あれはもはや戦闘だ。

 戦闘をすることで、いわゆる経験値が手に入ったのだろう。


「しかし、それでもレベル上がるの早くないですか?」


「う~ん、これはママが言ってたんだけど、ウェアしている時は、経験値を人間とモンスターとで分け合ってるんじゃないかって」


「人間にはレベルがないのにですか?」


「そう。そこが不思議なんだけどね。ひょっとしたソウルストーンに封印されると経験値が入りづらいってのもあるかもだね。ともかく、人間にウェアされている時は、モンスターにあんまり経験値入らないんだよ」


「そうなんですか……」


 陽花がモンスターと遊ぶ時は当然封印を解いて、ウェアもしていない状態だ。

 そうなると、その遊び、戦闘で手に入る経験値はそのままモンスターに行くことになる。

 それが、ツキヨウのレベルが急激に上がった真相だった。


「あれ? ひょっとして……」


 ここではたと雫月は思いつく。


「あのマッドプリンも陽花さんと遊ぶとレベルが上がる……」


 レベルの低い弱小モンスターでも陽花と遊ぶことでレベルが上がる。

 足りなかったレベルを補える可能性に思いついたのだ。


「う~ん、多分? 本気で遊べばツキヨウと同じくらいには行くんじゃないかな?」


「ははは……」


 あまりにも簡単なことのように言うけれど、雫月は自分が16まで上げるのにどれだけ大変だったかを思い出して乾いた笑いが出てしまった。


 しかし、ともかくレベルに関しては陽花に任せればどうにかなりそうということがわかった。

 これで、改めて風の高原に挑める……というのにはまだ早い。


「例え、ツキヨウと同じレベル22まで上がっても厳しそうです」


 風の高原を攻略するのに必要なレベルは25と言われている。


「しかも、土の洞窟をあれほど簡単に攻略できたのはツキヨウとシンクロできていたというのが大きいです」


 シンクロをすると、急激に能力が上がる。

 それはレベルでは測れない強さだ。

 だから、仮にマッドプリンがツキヨウと同じレベルになったとしても、同じくらい簡単に攻略することはできないのだ。


「だったら、マッドプリンの子とシンクロできるようになればいいんじゃない?」


「えっ?」


「ツキヨウだけじゃなくて、マッドプリンともシンクロして無双すれば放送的にも美味しいですよね?」


「えー、いや、確かに……盛り上がりそうですけど」


 ツキヨウとシンクロした時は、耳と尻尾が生えた。

 マッドプリンとシンクロをするとどんな変化が出るのか、それは確かに放送的にも盛り上がりそうだ。

 ただし、問題は……


「でも、光蓮さんがすべてのモンスターがシンクロできるわけじゃないって言ってませんでしたっけ?」


「うん、でも思えば伝わればきっとどんなモンスターともできると陽花は思うんだよね」


 シンクロはモンスターとの絆によって起こる現象だ。


「だから、先輩がマッドプリンを可愛がればきっとシンクロできるんじゃないかな?」


「可愛がるって……」


 モンスターとコミュニケーションを積極的に取るようにすればきっとシンクロできる可能性は上がっていく……はずというのが陽花の考えだ。


「ほら、電話の声だけよりも直接のほうが思いは伝わるよね? きっとモンスターも同じはずだよ」


「ひょっとして、ウェアしているだけよりも、封印を解いた状態で接したほうがいいんじゃないかってことですか?」


「そういうこと」


 言わんとすることはわからないではないけれど、そもそも、危険だから誰もやっていなかったわけで……


「大丈夫、何かあったら私がモンスターに怒っちゃうから。メ! って」


 確かに、陽花が近くにいればモンスターの脅威も安らぐだろう。


「だから、ね、先輩。陽花のお願いに付き合ってよ」


 マッドプリンとシンクロできればいいという実利的な理由。

 しかし、何よりも協力してくれている陽花のお願いとなっては断るわけにはいかななかった。


 そうして、雫月は次の配信を一週間後と定め、それに向けて準備をするのだった。


-----

明日の投稿は9時、19時を予定しております。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る