第23話 次の放送について

「次の放送で行くエリアを決めようと思います」


 風凛の研究室を後にした二人は陽花の家で話をしていた。

 相変わらず、陽花の両親とメイド長の千晴は留守にしていて、今日は由香里もいないからここにいるのは二人だけだ。

 一応屋敷の中には、他のメイドもいるが、千晴とは違って各々の仕事をしている。


 風凛から渡されたソウルストーンは、風凛からのお願いで放送内で使うことになった。

 なんでも動画としての資料を残したいらしい。

 そんなわけで、それを使いに行くエリアを検討しているのだが……


「行く場所って、流れ的には最後のCランクエリアじゃないの?」


 ダンジョン島にあるダンジョンのCランクエリアは3つ。

 1つは雫月の放送がバズったきっかけであるエリア、無属性の迷宮。

 2つ目は、前回放送で入った土の洞窟。

 そして最後の一つは、風の高原だ。


 流れ的も攻略的にもちょうどいい感じなのでてっきり風の高原だと陽花は思っていたのだが。


「確かにそれが綺麗かもしれません。しかし、風の高原は私と相性が悪くて……」


 風の高原はその名の通り、風属性のモンスターがよく出るエリアだ。

 その何が問題かと言うと……


「飛んでるモンスターが多いんですよ……」


 陽花の協力もあり、強くなった雫月とツキヨウであるが、明確な弱点が存在する。


「私、遠距離攻撃できなくて」


「あー、なるほど」


 そう言われて陽花は思い出す。

 今までも、雫月の放送では攻撃は物理攻撃一辺倒だったなぁと。


「言われてみればホシイヌには遠距離攻撃がなかったっけ」


 ホシイヌの性能的にも遠距離攻撃はない。

 ジャンプしての攻撃はできるが、空中での移動ができないため避けられてしまえば終わりだ。


「だったら他のCランク……いっそBランクのエリアにでも行けないの?」


 Cランクが無理となると候補として上がるのはBランクエリアだが。


「他のCランクはともかく、Bランクは無理ですよ。Bランクのエリアに入るにはCランクをすべて攻略していて、それでいて複数人ということが決まりですから」


「そうなの!?」


 陽花は知らなかったが、Bランク以上のエリアは一人で入ることが禁じられている。

 どれだけ強かろうと、例え、陽花の両親であろうと、一人で入ることはできないのだ。

 ちなみに、これはそういう制限で入れないというわけではなく、ダンジョンを攻略する上でのルールとなっている。

 なので、無理やり入ろうとすれば入れなくないのだが、雫月の放送は学校の宣伝目的のもの、当然ルールは破れない。


「なので、他のCランクダンジョンになるわけですが……」


「う~ん……」


「そうなりますよね……」


 雫月と陽花は一致している。

 その心は。


「一度放送で潜ったエリアで、魅せる放送って難しいんですよ」


 そもそも、Cランクのエリアは雫月の他にも放送している人もいる。

 その上で、一度雫月自身も入っているエリア。

 しかも一度目の攻略がとてもうまくいっているため、もう一度入ったところで撮れ高は見込めない。


「ルートを外れてレアモンスターを探すとか?」


「流石にそこまでは……そもそもルート外は危険ですし、レアモンスターは運の問題です」


「だよね~」


 入り口からボスゾーンまでの確立されているルートを逸れれば今まで見せられなかった部分を見せることが可能だが、当然その分危険性が増す。

 ルート外探索など雫月のような学生がやる仕事ではないのだ。


 もしもここに放送を見ている人がいれば、雫月がダンジョン無双していく姿だけで十分だと言ったかもしれない。

 しかし、生憎と陽花はダンジョン配信にはさほど詳しくもない。

 そのため、雫月の懸念をそのまま受け取ってしまうのだ。


「それじゃあ、他の子で風の高原に入るのは?」


「他の子? ツキヨウ以外ってことですよね?」


「うん、例えばこの間封印したマッドプリンの子とかで」


 前回の放送で封印したマッドプリンのレア色。


「風属性には土属性が弱点だしちょうど良くない?」


 属性的にも弱点取れるしちょうど良い。

 ただし……


「流石にマッドプリンでは……攻略は厳しくないですか?」


 マッドプリンは弱い。圧倒的に弱い。

 Cランクエリアのモンスターの中でも、最下位を争うくらいの強さだ。

 雫月としては、マッドプリンのソウルストーンを身に宿しても風の高原を攻略できるように思えなかった。


「レベルの問題かぁ」


 ソウルウェアには強さを測るものとしてレベルというものが存在する。

 ウェアしている時に戦闘をするとレベルが上がっていく。

 そのレベルは、ウェアしているソウルストーンによって変わるものとなっている。


「私がツキヨウをウェアしている時のレベルは22でした」


 これがマッドプリンであればレベルはもっと低くなる。


「確かあのマッドプリンの子はレベル5だったかな?」


「そうなんですか? いえ、確かにCランクダンジョンのモンスターと考えればそのくらいですか」


 ダンジョンの中に出てくるモンスターにもレベルというものは存在する。

 レベルを測るための装置は貴重なものなので、実際にダンジョンに持っていくことができないが、マッドプリンのレベルが5と言われて雫月は納得をした。


「……うん? あのマッドプリンの子?」


 納得したが、聞き逃しそうになった言葉に気がついた。


「もしかして、陽花さん、封印した子を開放してレベル測ったんですか?」


「え、うん。そうだけど」


 陽花の家には、当然のようにレベルを測る装置がある。

 陽花は雫月から受け取ったソウルストーンの子を開放しすでにレベルを測っていたのだ。

 もちろん、ソウルストーンに封印したままではモンスターのレベルを測ることができない。


「そうですよね……陽花さんにとってはモンスターの封印を解くなんて当たり前なんですもんね……」


 未だに、モンスターの封印を解くという行為に違和感を覚える雫月だったが、陽花のことを考えたら苦笑いするしかない。


「しかし、レベル5ですか……私がウェアしたらいくつになるでしょう」


 ウェアした際に測るレベルはウェアするモンスターによって違う。

 なので、雫月がそのマッドプリンをウェアした時にいくつになるかと考えたのだが……


「うん? 5でしょ?」


 雫月の疑問に陽花は当然のように答えた。


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本日2話目は18時頃投稿予定です。

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