第22話 特別製のソウルストーン
「なるほど、それでソウルストーンについて聞きに来たわけか」
おおよその話を聞いた風凛は腕を組んで頷く。
「そもそも、陽花たちはソウルストーンのことモンスターを封印する不思議な石ってことしか知らないからね」
「……ですね。私も陽花さんと同様です」
「ふむ」
風凛は何やら考えると、机の引き出しからソウルストーンを取り出した。
「それでは簡単にだが、ソウルストーンの成り立ちから話そうか」
「えー、別にそこまでは……」
「まぁまぁ、できるだけ簡単に話すから聞いてくれたまえよ」
難しい話になりそうだと嫌がった陽花だったが、風凛の言葉で黙った。
「まず、前提だが。ソウルストーンが何からできているか知っているか?」
「……確か、モンスターの落とす魔石から作られていると聞いたことがあります」
「正解」
風凛の質問に雫月が答えた。
「理論上はどれだけ弱いモンスターの魔石であろうとソウルストーンを作ることは可能だ。しかし、市販されている一般的なソウルストーンは一定以上の強さのモンスターの魔石と限定されている。その理由はわかるかな?」
「えっと……品質の問題……とかでしょうか?」
「正解、優秀だな。品質が良い魔石と悪い魔石から作ったソウルストーンは何が違うか。色々とあるが、一番の違いは封印できるモンスターの違いだと言える」
「モンスターの違い?」
「そう、例えば最弱のDランクエリアのモンスターである、レベルが1プリンの魔石を使用したソウルストーンを作ったとする、それで安定して捕まえられるのは同じレベルのモンスターまでだ」
「同じレベル……というとレベル1のモンスターですか?」
「そう、それ以上レベルが上のモンスターはほとんど封印することができない。その原因は魔石の容量が足りないからだと言われている」
「容量が足りない?」
「モンスターにはそれぞれ容量があり、それをオーバーするとモンスターは封印できないということだな」
ちなみにこの魔石の容量というのは、実際のモンスターの大きさとはまた違ったものである。
「逆に言うと、容量が大きければ……例えばAランクエリアでレベル50のモンスターの魔石であればそれより下のレベルのモンスターは捕まえることができると……?」
「まぁ、実際にはモンスター自体にも差があるがな。ボスモンスターなどの例外もある。しかし、概ねその通りと言って良いだろう」
「なるほど……」
初めて聞く内容に、雫月は思わず唸る。
「ねぇふうちゃん? それってもしかして捕まえられる確率とかも変わるの?」
黙って話を聞いていた陽花も質問をする。
「ふむ、流石陽花嬢だ。いいところに気がついたな」
陽花の質問に、雫月はニヤリと笑う。
「初めの質問に戻ろう。なぜ一般的にモンスターを弱らせる必要があるのか。それは、モンスターの容量を減らすためだ」
「弱らせることでモンスターの容量が減るんですか?」
「そう言われているな、そして容量が少なければ少ないほど捕まえることが簡単になるのだ」
「……ということは、レベルが5の魔石でレベルが10のモンスターを捕まえることができる?」
「そういうことだ。まぁ、その例えで言うとかなり弱らせる必要があるがな」
「狭い部屋に、無理やり押し込めるみたいな感じ?」
「そういうことだ」
「それって……なんか窮屈そう」
陽花は封印されるモンスターのことを気持ちを考えて少し可哀想に思った。
「そう、誰だって暗く狭い部屋に無理やり押し込められるのは嫌だ。では、広く快適な部屋だったら?」
「……部屋に入っても辛くない」
雫月の言葉に、風凛が頷く。
「先程の陽花嬢の質問に応えると、答えはイエスだ。魔石のレベルが高ければ高いほど、低いモンスターは捕まえやすくなる」
「つまり、レベルの高いモンスターの魔石を用意して、それでソウルストーンを作れば弱らせる必要がなくモンスターを封印できる?」
「そういうことだ、例えば捕まえるモンスターのレベルが10であればレベル40程度のモンスターの魔石があれば一撃も攻撃せずに捕まえられるだろう」
やっと話がまとまってきた。
つまり、レベルが高い魔石を用意すれば雫月がモンスターを弱らせることなく、高い確率でモンスターを捕まえることができる。
これで解決……とはならない。
「……いや、そんな高いランクの魔石なんて用意できないんですが?」
なぜそもそも、市販されているソウルストーンの作成に元々高いランクの魔石が使われていないのか。
それは当然、それを入手することが難しいからである。
レベル40のモンスターの魔石なんてなかなか買えるものではない。
「そもそもその例えでいくと、レベルが20のモンスターだったらレベルが80必要ってことに……?」
レベル40だったらギリギリで手に入らなくもない……いや、それでも難しいが。そもそも、レベル80のモンスターなど聞いたことすら無い。
さらに言うと、モンスターのレベルは設置してある特殊な機械で測る必要があり、ダンジョンで実際に戦う時はわからない。
どのくらいのレベルの魔石が必要だかわからないのだ。
「さすがに、ママとパパに頼むのは気が引けるなぁ」
陽花がねだればきっともらえるとは思うが、価値を考えるとそうそうねだれるものではない。
「ふむ、私の研究室もどこかから圧力でもかけられたのか予算が減らされてな、研究のためにも高いレベルの魔石は必要なんだが……というわけで研究の一環としてとあるものを作成した」
雫月と陽花の反応を想定してのか、風凛は引き出しを探る。
「どこだったかな……おっとこれだ」
風凛が取り出したのは、どこにでもありそうなソウルストーンだった。
それを雫月に渡す。
「これは少し特殊なソウルストーンでな、レベルが5のプリンから作られている」
「さっきの話で言うと、弱い魔石からってことですか?」
特殊? と首をかしげて尋ねる雫月。
「プリン一体であればな。これはプリンの魔石100体の魔石から組み合わせて作ったのだ」
「100体!?」
「そう、実験的に作ったもので、どの程度効果があるかはわからない。しかし、私の理論上ではレベル50程度の魔石と同等程度のはず」
「そんなことが……」
風凛はなんでもないことのように言っているが、実際のところ、魔石を組み合わせて一つのソウルストーンを作るというのは並大抵のことではない。
「ここに同じものが5個ある。どうだい? こいつを使って感想を聞かせてもらえないか?」
「えっ? いいんですか?」
「もちろん、こちらとしても、実験を試すのにいい機会だ」
実を言うと、作ったものの、実験をしにダンジョンに行くのがめんどくさかっただけであった。
しかし、そんなことを知らない雫月は、感激したようにソウルストーンを受け取る。
「ちゃんとレポート出します!」
「ああ、よろしく頼むよ」
そんな雫月を見て、風凛はニヤリと笑うのだった。
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星100突破しました! ありがとうございます! 引き続き頑張ります!
上記とは関係ないですが、ちょっと投稿時間を模索しています。8時、17時を中心として日替わりで変えます。1日2話は変えませんのでよろしくお願いします。
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