第21話 アカデミーの研究者

 次の日の放課後、陽花と雫月は以前と同じように学校の校門で待ち合わせをしていた。

 陽花の言う、ソウルストーンに詳しい人に聞きに行こうというわけだ。


「よし、それじゃあ行こうか」


「えっ? 陽花さん? そっちは学校の中ですけど」


 校門から再び学校の中へ入っていく陽花に雫月は驚く。


「大丈夫だよ~、こっちの研究棟の方だから」


 ソウルウェア・アカデミーには教育施設だけでなく、研究施設も併設している。

 目的の人物は研究施設にいるらしい。

 納得した雫月は陽花の後をついていくことにした。


「そういえば、私、研究棟の方は初めて入る気がします」


「あ、そうなの? たまに来ると面白いよ?」


 研究棟は校舎と同じかそれ以上の広さの建物だ。

 支援科や研究科などの生徒は授業でこちらに来ることもあるが、戦闘科の人間にとっては馴染みのない施設となっている。


 物珍しげに辺りを眺める雫月。

 窓の中から部屋の中を眺めることができるが、ちらっと見ただけでは何をしているのかさっぱりわからない。


 その後もちらちらと部屋の中を覗きつつ陽花の後をついていくと。


「ここだよ~」


 部屋の前で陽花が止まった。

 部屋の名前を表すプレートを見ると、ソウルストーン研究室と書かれている。

 目的のそのまんまの研究室だ。


「ふうちゃんいる~」


「ちょっ、陽花さんノックは!?」


 ガラガラとノックもせずに入っていく陽花。

 慌てて雫月もその後に続いた。


「うわっ!」


 部屋の中に入って驚いた。


「汚っ!?」


 部屋の中は書類がそこら中に落ちていたり、服がそこら中に落ちていたり、さらにはソウルストーンが落ちていたりと。

 めちゃくちゃ汚かった。


「ふうちゃ~ん?」


 陽花は全く気にする事なく部屋の中に我が物顔で入っていく。

 書類を踏んでるんだけど……

 いいのかな? なんて思いつつ結局雫月も後をついていくことにした。


「あっ! いた!」


 部屋の中央を区切る棚の奥に行ったところで陽花が目的の人物を見つけた。


「いるなら返事してよ~」


 そこには机に向かい、何かを書いている様子の白衣の女性がいた。

 しかし、陽花の呼びかけにも全然反応しない。


「ふうちゃん?」


 不思議に思った陽花が近づき肩に手を置くと。


ガタッ! ドサッ!


「えっ!?」


 椅子に座っていた人物がそのまま横に倒れた。

 幸いにも積まれた服で怪我はしていなそうだけど。


「だ、大丈夫ですか!?」


「はぁ……」


 慌てて確認する雫月だったが、対象的に陽花はため息をつく。


「ふうちゃん、またご飯食べずに研究してたんでしょ」


 研究?


ぐー


 気の抜ける音が響いた。


「えっ? ひょっとしてお腹すいてただけ……」


 思わず呆然としてしまう雫月だった。



「いやぁ、すまないなぁ。ついつい面白い反応が出て気になってしまったのだよ」


「どうせこうなると思ってパンを持ってきておいて正解だったよ」


「はは、陽花嬢には世話をかけるね」


 悪びれもなく陽花が持ってきたパンを食べる女性。

 改めて見てみると、ボロボロの白衣に寝癖、度のきつそうな黒縁のメガネ。

 高い身長だが猫背なので余計に曲がって見える。


 ……お腹が空いて倒れたところまで含めてまるで漫画のキャラみたいだ。


「それで今日はなんの用なんだい? そっちの子にも関係あるのかな?」


 ジロリと見られて思わず一歩引いてしまった雫月。


「あ、そうそう、今日はソウルストーンについてちょっと聞きたくて来たんだよ」


「おお! そうか!」


 陽花の言葉に笑みを浮かべる女性、椅子から立ち上がって雫月に詰め寄った。


「ソウルストーンの何が聞きたい? 歴史か作り方か!? それとも仕組みについてか!? いやしかし、残念だなぁ、仕組みについてはまだ研究中でまだ完全には解明されていないのだよ。しかし、推測で良ければ話すことができるぞ。そもそも私の研究はだなぁ……」


「あ、あの」


 詰め寄りながらマシンガントークをする雫月は徐々に壁に追いやられてしまう。


「ふうちゃん! 先輩困ってるよ!」


「お、おっと私としたことが」


 陽花に注意されて、落ち着いて再び椅子に戻る。


「とりあえず、お互いに挨拶からかな? 二人共初めてでしょ?」


「そうだな。私の名前は、遥風風凛(はるかぜ ふうり)だ。ここソウルウェア・アカデミーでソウルストーンの研究をしている」


「私は、月桜雫月と言います。アカデミーの戦闘科の2年生です」


 ようやくお互いの自己紹介ができた二人。


「なるほど、2年生ということは先輩だな」


「えっ?」


「あ、ふうちゃんはね、研究員だけど、アカデミーの生徒でもあるの」


「そういうことだ。支援科の1年。陽花嬢とは同じクラスになるな」


「後輩……だったんですね」


 てっきり歳上だと思っていたので驚いた。


「授業を免除されているからほとんど授業には出ていないがね。ははは」


 風凛はいわゆる特待生でそ研究者としての実力を買われて入学した生徒だ。

 その能力がどの程度のものかは、研究棟の1室を渡されていることからもわかる通り。

 ちなみに、授業は免除されいていると本人は言っているが実際は全部ではないし、ホームルームなどは免除されていなかったりする。


「まぁ、よろしくな雫月嬢」


「……雫月嬢」


 その独特な呼び方に思わず苦笑いになる雫月だった。

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