第16話 放送の協力者

「どうも、ルナルナチャンネルです! 今日もダンジョン配信をしていきます」


 学校終わりの放課後、雫月はいつもよりも少し遅れてCランク前のセーフゾーンで配信を開始した。


『おつー』

『待ってた!』

『初見です! 前回の配信から来ました!』

『今日も犬耳つけるんですか!?』

『今日はどこのエリアに行くんですか?』


 配信を開始して間もないのに、見に来てくれる人が多い。

 そんな事実に、雫月は少しだけにやけてしまう。


「今日は、Cランクの土の洞窟に行こうと思います」


 前回潜ったのと同じCランクのエリアとなる。

 前回と同じように、そのエリアは迷宮という感じで、小部屋と小部屋が繋がっていて複数の道から正しい道を選んでいく必要なエリアであるが、一番の違いはその材質にある。

 前回の無属性の迷宮が得体のしれない材質の壁で囲われていたのに対して、今回の土の迷宮は土で囲われている。


『土属性かぁ、氷属性が弱点だっけ?』

『氷属性のモンスターなんて持ってる人そうそういないでしょ』

『氷属性メインのモンスターが出るのはAランクのエリアだからね』

『一応Aランクの入り口付近くらいは潜ってる人がいるけど、学生には流石に無理よ』


 視聴者の言う通り、エリアによってメインで出てくる敵の属性があるのである

 先日雫月が潜っていた無属性の迷宮は少し特殊で無属性のモンスターがメインだが、今回の土の洞窟はその名の通り土属性がメインだ。

 属性相性も存在するが、正直Cランク程度のエリアでは相性有利を取る必要はほとんどない。


『土の迷宮は、推奨レベル的には5-20くらいだっけ』

『ちなみに、ルナちゃんは今レベルいくつなの?』


「私は、先日見たときは22でしたね」


 準備運動をしながら雫月は視聴者の質問に答える。

 本当は準備運動などする必要がないのだが、とある事情でまだダンジョンには入れないのだ。


『22!?』

『低くはないけど普通だな』

『22でなんであんな動きできたの!?』

『いや、流石に嘘でしょ、22でマッスルゴブリン一撃討伐とか』

『いつくらいの話なの? 流石に今は違うんじゃない?』


 視聴者に色々と言われているが、ツキヨウをウェアしている時の雫月のレベルは間違いなくレベル22である。

 ちなみに、ソウルストーンを落とす前は16だったのが急激に上がっていた。


「理由はわかりませんが、どうもシンクロすると強化されるみたいなんですよね。あ、シンクロっていうのは、この状態のことです」


 言うや否や、雫月は、自身のソウルストーンをウェアする。

 以前と同じように、雫月には犬耳と尻尾が生えた。


『来た! 犬耳ルナちゃん!』

『かわぇえええええええええ』

『シンクロって名前にしたの? なんでそんな状態になったかわかったの?』

『コウレンが言ってたソウルストーンとシンクロ状態ってやつから取ったのかな?』


「あ、そういうことです、この犬耳はどうもソウルストーンに封印されているモンスターのものっぽいので、シンクロって名前がふさわしいかなと」


 実際のところは、コウレン、光蓮に聞いた名前をそのまま聞いているだけである。


「なんでこの状態になったかは……すみません。わかってないです」


 雫月はここは嘘をついた。

 これに関しては光蓮と相談した上、決めたことで、少なくとも今は公表しないと決めている。


『それは残念』

『レベル22のルナちゃんが一撃でマッスルゴブリンを倒せるだけの力があるからな』

『皆できるようになったらいいのに』

『条件わかったら教えてください!』


 視聴者のコメントを見ながら、雫月は準備運動を終えた。

 終えてしまった。

 しかし、雫月はダンジョンにまだ入らない。


『うん? どうしたの?』

『なんかあったん?』

『早く入ろうよ』


 そんな雫月の様子に視聴者も不思議がっている。


「あー、えっとですね……ちょっと待ってる人が……あっ」


 どう説明したらいいか悩んでいたら。


フラワ~『これで見えてる』


 そんなコメントを見つけた。


「もう! ひ……フラワ~さん! 遅いです!」


 思わず、雫月は怒ってしまった。


『えっ? 誰?』

『モデレーター? 今までルナちゃんって一人でやってたよね?』

『人増やしたの?』

『フラワ~さん?』


 突然現れた色付きのコメントに今までの視聴者は不思議に思う。


「えっとフラワ~さんはですね、私のダンジョン攻略をサポートしてくれる方です。配信のサポートというよりは協力者ですね、私が戦闘中では解説もしてくれます。ちなみに女性です」


 雫月が突然現れたフラワ~という人間について説明していく。


フラワ~『よろしくね~! モンスターについては任せて!』


『なるほど、確かに急に人増えたもんね』

『ルナちゃんの同級生か何かかな?』

『女の子か!』

『てぇてぇの波動はまだ感じないが……香りがするな』


 突然現れたフラワ~だったが、女性ということがわかると、すぐに受け入れられた。

 単純なものである。


 ちなみに、このフラワ~というサポーター、中身は当然のように陽花である。

 花宮陽花の花をとってフラワ~という単純な名前である。

 月桜雫月が月をとってルナとしているのと同レベルだ。


「さて、それじゃあ紹介もすんだことだし、土の洞窟に潜っていきましょうか」


 待ち人も来たため、改めて雫月はそう宣言をして土の洞窟へ続く扉の中へ入っていった。

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