第15話 協力の条件
「陽花が先輩の配信に協力しようか?」
そんな陽花の言葉に、雫月は一瞬呆然とした後。
「いや、でも陽花さん、ダンジョンには潜れないんじゃないですか……?」
陽花の境遇を思い返して首を振った。
陽花は確かに強い。
ウェアしていないのに、モンスターと単独で戦える能力がある。
しかし、ウェアしていないということはすなわち。
「陽花さんの攻撃ってモンスターには届かないんですよね?」
ウェアしていないとモンスターにダメージを与えることができない。
その上、モンスターをウェアしていれば、攻撃をされても自身はダメージを受けなくて済むところをもろに受けてしまうのだ。
「ウェアしていない状態でのダンジョン探索は法律で禁止されていますし」
危ない、その一点でソウルウェア以外のダンジョン探索は原則禁じられている。
つまり、陽花はダンジョンに入ることができないのだ。
「うん、だからダンジョンに入る以外の方法で」
「ダンジョンに入る以外?」
しかし、陽花は自身の意見を覆すことなく続ける。
「例えば、戦闘の訓練を手伝うとか。たまにママともやってるし」
出てきた言葉に思わず、雫月は光蓮の方を見る。
「ええ、私もたまに陽花と訓練してるわ。夫も一緒ね」
光蓮は日本でも有数の冒険者だ。
その光蓮が陽花と訓練をしているなんて。
実際、雫月は知らないが、光蓮がコウレンとして冒険者としてここまで成功した理由も陽花の協力によるものが大きい。
「それに、モンスター自身のケアもできると思うし」
「なるほど……」
つまり、それは陽花が光蓮たちに対して行っていることである。
それはすなわち、日本のトップ冒険者と同じ環境を提供しようかと言っていることに等しい。
「ママ、いいよね?」
「ええ、好きになさい」
光蓮からも許可が出た。
「いや、でもしかし……」
雫月としては、ありがたいことではあるが、同時に受け入れがたい提案である。
「私に返せるものなんて何もないですし……」
そもそも、お礼をどうしようかという話をしていたのに、さらに協力を貰えるという流れになっている。
そこまでされても、雫月には返せるものがない。
確かに、何か力になってくれるかもとはおもってはいたけど、実際に提案されて雫月はひよってしまっていた。
「それに関しては、ちょっと気になってることがあってね」
そう言うと、陽花は自分のスマホをいじり始める。
「あ、これこれ」
陽花が雫月にスマホを差し出す。
そこに映っていたのは昨日の雫月の配信だ。
「私の配信が何か……」
「あのね、先輩の配信をざっと見たんだけど、他より珍しいモンスターが多いの!」
陽花は興奮したように声を大きく言う。
「昨日の最後に戦った赤色のマッスルゴブリンはもちろんなんだけど、それ以外も」
陽花は説明するように、動画の時間をいじる。
「昨日の1時間30分くらいの配信で出た色違いの数は4匹。これって多いよね!」
中にはロールプリンと言ったような弱いモンスターももちろんいる。
しかし、色違いは色違いだ。
「ねぇ、ママ、これ陽花の勘違いじゃないよね?」
「ええ、よく気がついたわね。そうよ、ルナちゃんの配信では他よりもレアなモンスターが多いわ」
聞かれた光蓮はそう断言をする。
しかし、雫月は首をかしげた。
「確かに、他よりは多いかもしれません……でも、それは私の運がないから……」
基本的に色違いのモンスターは嫌われている。
その能力が通常のモンスターよりも強く、さらに通常では使ってこない技を使ったりするため油断していると痛い目を見るのだ。
イレギュラーと呼ばれ、基本的に出会わないほうがいい存在である。
「そんなことないよ! 逆に運がいいくらいだよ!」
しかし、そんな嫌われもののモンスターに対して、陽花は目を輝かせている。
「ほら! ここの行動とか通常じゃ見たことない!」
いかに普通と違うかを説明していく。
確かに違うけど、雫月はそれが何か? としか思えない。
むしろ、違うから嫌われているんだけど。
「陽花は珍しいモンスターが好きなのよ」
そんな陽花を見て光蓮は苦笑いをしている。
どうやら光蓮も陽花のそんな嗜好を知っているようだ。
そして……
「ああ、なるほどね。それは確かにルナちゃんにはぴったりかも」
光蓮は陽花が言いたいことを理解したようだ。
「ねぇ、先輩。陽花が先輩の配信を手伝う代わりに、レアモンスターと引き換えっていうのはどう?」
「レアモンスターと引き換え‥…ですか?」
「そう、レアモンスターを見つけて捕まえてくるの!」
ここに来てようやく、雫月は陽花の言いたいことを理解した。
「ソウルストーンを使えば確かに、色違いのモンスターも捕まえることができますが」
実際、雫月のツキヨウも色違いのモンスターだ。
「色違いモンスターは強いから捕まえるのは大変って聞いたことがありますが」
もちろん、捕まえられれば他よりも強いから捕まえようとする人はいる。
けれど、少なくとも学生にはそんなことは推奨されていない。
雫月がツキヨウを捕まえられたのは運が良かっただけにすぎない。
「ツキヨウがいれば余裕でしょ? 実際昨日だって余裕で倒してたじゃない」
そう言われてしまえばそうなのだが、どうも雫月は自分が強くなったということにまだ思考が追いついていないのだ。
「陽花は珍しいモンスターと仲良くしたいだけだから、先輩が気に入ったらダンジョンに連れて行ってもいいし」
雫月は改めて考える。
考えた結果。
「あれ? メリットしかないですか?」
ということに気がついた。
強いモンスターを捕まえるのは確かにリスクが高い。
しかし、それは圧倒的な力があればいいだけの話だ。
昨日のように、出てきても瞬殺できるだけの力があれば捕まえるのはさほど難しいことではない。
さらに、その捕まえてきたモンスターと陽花が接し、その子を雫月が借りることでさらに戦力が上がっていく可能性すらある。
「えっと、私にメリットしかないんだけどいいの?」
「もちろん! だって珍しいモンスターって珍しいから珍しいんだよ!」
若干日本語がおかしいが、雫月は陽花の言いたいことを理解した。
「……よろしくお願いします」
そんな感じで二人の協力が決定した。
これがこの街の、いや、この世界のソウルウェアの未来を大きく変えることになるとは、まだ誰も知らなかった。
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