第13話 シンクロの理由

「ルナちゃんは今までソウルストーンに封印したモンスターとコミュニケーションを取ったことはあるかしら?」


 光蓮は雫月に訪ねた。


「いえ、今日、陽花さんに勧められて初めてでした」


「そう。それでどうだったかしら?」


「そうですね……」


 思い返してみる。


「初めはやはり怖かったです。でも、あの子は私に懐いてくれました」


「うん、そうよね。でも、それはあなたがその子を大切に扱っていたからなのよ」


「大切に扱っていたから?」


「ええ、ルナちゃん。陽花と接触したすべてのモンスターがシンクロに目覚めると思っていたんじゃない?」


「えっ? 違うんですか?」


 てっきりそういうことだと思っていたのに、光蓮は首を振って否定をした。


「私の子の中でも陽花と遊んだりする子がいるんだけど、それで私とシンクロできるようになった子はほんの一部でしかないのよ」


「そうなんですか?」


「ええ、その理由はすぐにわかったわ」


「理由……先ほど言っていた大切に扱っていたからということですか?」


「そうね、陽花の話だと、封印されている子たちはウェアしている時に思いが伝わっているらしいのよ」


「そういえば、そんなこと聞きました」


「つまり、知らず知らずのうちにコミュニケーションをとっていると言えない?」


「考えようによってはそうですね……」


「例えば、ウェアしている時のありがとうとか、そういう些細な気持ちが伝わると当然モンスターからの印象も良くなるわよね」


 ツキヨウのことを思い返してみる。

 確かに、あの子とは実際に会うのは封印した時以来のはずなのになぜかそんな気がしなかった。


「そうして、モンスターとの絆があると初めてシンクロできるようになるのよ」


 なるほど……しかし、それだと話が違うことになると雫月は気がついた。


「それだと陽花さんは関係ないのではないですか?」


 モンスターとの絆というのは理解した。

 今考えたらシンクロという言葉から考えて納得のいく理由だ。

 でも、それはあくまでもモンスターとその人同士の問題で、陽花の入る余地はないと思うのだが。


「そうね、でも……あなたから見て陽花とモンスターの接し方はどうだったかしら?」


 言われてみて思い出してみる。


「……今日の昼間、陽花さんがモンスターと戦っているところを見ました」


「ああ、アレを見たのね」


 光蓮は苦笑いを浮かべる。


「正直、封印を解くという考え方すらなかった私には狂気の沙汰に思えました」


「酷い!?」


 感想を聞いた陽花が何か言っているが雫月は無視して話し続ける。


「そもそも、モンスターは恐ろしいモノだという考えでしたので……」


 一般的な感性だ。

 それからすると陽花の行動はおかしいとしか言いようがない。


「そう、でもそれはモンスターからも同じことが言えるのよ」


「えっ?」


「モンスターだって人間が怖いのよ。だって自分を倒しにくる相手なのよ? それによくわからないものに封印されて、その恐怖や不信感はなかなか消えるものじゃないわ」


 その発想はなかった。

 でも考えればわかる、もしも自分が逆の立場だったとしたら……

 雫月は考えただけで、思わず身震いをした。


「そうなるわよね。そしてそれは簡単に拭い切れるものではないわ」


 それはそうだろう、どれだけ大切に扱われているとわかっても、結局直接的なコミュニケーションを取れていないのだ。

 雫月はここに来て、光蓮の言いたいことがなんとなくわかってきた。


「……陽花さんと接しているモンスターはとても楽しそうでした」


 そう、撫でられている時も、戦っている時もいつだってモンスターは楽しそうだった。


「それが陽花の影響によるものよ」


 つまり……


「陽花はモンスターを恐れない、だからこそモンスターも陽花を恐れなくなる」


 陽花と接することにより、モンスターは学ぶのだ。

 人間は自分が思っているような怖い存在ではないということに。

 そして今まで自分を大切にしてきた存在を思い出す。


「陽花があなたとモンスターとの間を取り持ったのよ」


 その結果がシンクロという現象なわけだ。


「なるほど、それは確かに陽花さんの影響ですね」


 そうして雫月は理解した。

 このシンクロという現象がなかなか起きない理由。

 陽花というモンスターを恐れない、むしろ好意的に接するような特異な人間がいて初めて起こる現象なのだ。


「まぁ、もっとも実証はできていないんだけどね。私には陽花みたいにモンスターの気持ちまでわかるわけじゃないし」


 そんな人間たくさんいるほうがおかしい。

 むしろ、どうして陽花がそういう人間になったか気になるところだ。


「あ、一応なるべくこの話は広めないでちょうだいね」


 最後に光蓮は雫月に言う。


「これが広まると確かに強い冒険者が増えるけど、その過程で無茶なことをする人とか出てくるかもしれないし」


「はい。わかってます」


 雫月としても、おいそれと広める気になれない。

 そもそも、モンスターとコミュニケーションをとったから強くなりました、なんて信じる人がどのくらいいるだろう。

 実際、雫月だって自身の身に起こったことじゃなかったら信じられなかったと思う。


 そして何よりも。


「もしこれが広まったら、陽花さんの価値がとんでもないことになってしまいます」


 それはきっと本人の願うところではないだろうことはもうわかっている。

 陽花はきっとモンスターと楽しく遊びたいだけなのだ。

 それを邪魔することなんて雫月にはできなかった。


---

お詫び(2023年12月07日)

近況ノートに書きましたが、8話の後に突然42話が投稿されるという暴挙(投稿ミス)をしてしまいました。

現在は非公開になっております。


大分先の話を公開してしまい、なるべく早く追いつきたいという思いまして、しばらくは少し投稿ペースを上げましてなるべく早めにそこに追いつくように投稿頻度増やします。

(私自身、別の作者さんが似たようなやらかしをして、そこまで出来てるなら早く上げて欲しいということを思ったことがありますので……)

具体的には10日程度一日2話にします。そこで42話まではいきませんが区切りまではいける予定です(2章どうするかは今は考えない方向でいきます)

読者様を混乱させてしまし申し訳ありませんでした。

語り失礼いたしました、引き続き拙作の方をよろしくお願いいたします。

ついでにお詫び受け取るぜというお方、星、フォロー、ハートの方を是非ともよろしくお願いいたします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る