第11話 初めての交流
結果的に、陽花は一度の攻撃も受けることがなかった。
最後には、ホシイヌが悲しそうに「わぅん」と泣いたところで終了となった。
「いやぁ、いい運動になったよ~」
汗を拭いながら雫月の元へと戻ってくる陽花。
本当にちょっとした運動でしかなかったんだと雫月は苦笑いをした。
「えっと、陽花さん? お、お疲れ様です」
「あ、先輩。ごめんごめん、ちょっと遊んじゃった」
「あれが、陽花さんにとっての遊びなですね……」
陽花は嬉しそうだ。
対する、ホシイヌの方はというと、疲れ切っていて未だに立てていない。
戦いとしては完全に陽花の圧勝だった。いや、遊びだったか。
「陽花さんはいつもあんなことをしているんですね……」
千早が言っていたことを改めて確認をする。
「私のソウルストーンに封印されていた子ともあんなふうに過ごしていたんですか?」
「うん! 先輩の子は元気が良くて遊びがいがあったよ」
自分のソウルストーンに封印されていたホシイヌを見る。
ホシイヌの方も、視線に気がついたのか雫月の方を見る。
「うっ……」
流石にちょっと怖くて引いてしまった。
「先輩はあの子と遊んだことないの?」
「遊びって……陽花さんがやっていたようなことはしたことないですよ」
それどころか。
「私は、ソウルストーンの封印を解いた後の姿を見たのも封印した時以来です」
改めて見てみる。
青色と白のしましまのホシイヌが封印されているということは、当然自分で封印したから知っていたけれど、それ以降封印を解いたことなどない。
「そうなの? それにしては、あの子随分先輩に懐いていたみたいだけど」
「えっ?」
予想外の言葉に、思わず、陽花の方を見てしまった。
「ここで初めて封印を解いた時も、あの子、不安そうにしてたよ」
「そんなこと……」
陽花がなぜそんなことがわかるかわからない。
けれど、陽花が嘘を言っているようには見えない。
「ウェアしている時ってモンスターにも気持ちが伝わってるんだけど、それで先輩の想いが伝わったんじゃないかな?」
「えっ! そんなことあるんですか!?」
モンスターに気持ちが伝わるなんて聞いたことがない。
「うん、なんでか皆知らないんだけど」
そりゃ、そんなこと全く聞いたことがない。
他の人だって一緒だろう。
自分がウェアしている時に一体何を考えていただろうか……
「そっか、それじゃあ、あの子は私と一緒にいてくれたんですね」
辛い思い、楽しかったこと分かち合った子なのか。
そう思ったら、ホシイヌに対する怖さが安らいできた。
「陽花さん、私が近寄ったら危険ですか……?」
「うん? 大丈夫だよ。もしも、なにかあっても陽花があの子叱っちゃうから」
そんな子とコミュニケーションをとってみたいと思ったのはなにも不自然なことじゃないだろう。
雫月は、恐る恐るホシイヌに近寄っていく。
対するホシイヌの方も、雫月を見ている。
「こんにちは、初めましてというのもおかしいですね。知っていると思うけど、月桜雫月です」
眼の前にしてもホシイヌは飛びかかってこなかった。
それどころか優しい目をして雫月の方を見ている。
「……撫でてもいいですか?」
陽花に確認をとったつもりだった。
しかし、応えたのはホシイヌだった。
「わぅ」
雫月の言葉に、小さくだがしっかりと頷いて返した。
言葉が伝わっている。
そう思うと、嬉しくなった。
「それじゃあ、撫でさせてもらいます」
ホシイヌに向かって手を伸ばし触れる。
毛並みは柔らかく、まるで毛布を触っているかのようだ。
「もふもふだよね!」
「そう……ね。もふもふ……ですね」
ゆっくりとホシイヌを撫でる雫月は自然と笑みが浮かんでくる。
ホシイヌの方も、気持ちよさそうにしていた。
「そういえば、その子名前がないみたいなんだけど」
「そう……ですね」
名前なんて今まで考えたことがなかった。
でも、今、それが必要なことがわかる。
この子には呼び名が必要だ。
「名前……」
何がいいか考えてみる。
「あ、そもそもこの子、性別はどっちかしら?」
「うーん、どっちだろ? 多分女の子かな?」
そもそもモンスターの性別を意識したのはこれが初めてだ。
「女の子だったんだ……だったら、ツキヨウはどうかしら?」
「いいね! でも、どういう由来?」
「この子の模様がなんとなく月に見えて、それに私にも月の文字が入っているし」
自分のパートナーとしてわかりやすい名前だと考えたのだが。
ちなみに、ヨウの方には触れなかったが、陽花の名前から取っていることは秘密だ。
「どうかしら?」
改めてホシイヌに確認を取る。
「わぉん!」
ホシイヌは一鳴きする。
「これはOKということかしらね」
「ええ、ツキヨウちゃん! いい名前だね!」
「わふっ!」
ホシイヌあらため、ツキヨウも嬉しそうだ。
「わっ、くすぐっったいわ」
ツキヨウは自分の身体を撫でる雫月の手を舐める。
雫月はくすぐったかったが、特に止めることはせず、身を任せている。
「ふふっ、すっかり仲良しさんだね」
「ええ、そうですね」
陽花はそんな一人と一匹から少し離れて千早と話し始めた。
陽花としても、自分以外の人間があんなふうにコミュニケーションをとっている姿を見るのは久しぶりのことだ。
「それにしても案外早かったですね。うちの子はもうちょっと慣れるのに時間がかかっていたのに」
「由香里ちゃんの時は初対面だったからね、やっぱり過ごしてきた時間じゃないかな?」
千早は自分の娘の姿を思い出す。
あの時はかなりの時間を要した分、雫月があっさりと仲良くなったことに驚く。
「あ、そういえばママって今日帰ってくるんだっけ?」
「ええ、そう聞いております」
「そっか、じゃあ、先輩のことも紹介しようかな」
「そうですか、では一人分の夕食が増えることを依頼しておきます」
「お願い~」
もふもふと戯れている雫月は勝手に予定が決められていることなど知る良しもなかった。
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