第10話 お嬢様の日常
ソウルストーンにはモンスターが封印されている。
それは学校でソウルストーンを扱う際に始めに習うことだし、当然雫月も習っている。
その上、雫月はソウルストーンを使ったモンスターの封印もやったことがある。
しかし、
「モンスターの封印を解くなんて!」
封印を解いたことなんて一度もない。
なんだったら、封印を解くという発想自体がなかったのだ。
どうして……? いや、そんなことよりも。
「危ない!」
陽花は丸腰だ。
他のソウルストーンからモンスターの力を取り込んでいるようには見えない。
そうなると、もう陽花は単なる一般人だ。
しかも、モンスターからの攻撃を受けてしまえばひとたまりもない。
思わず駆け寄ろうとしたけれど、またしても千晴がその身を制した。
「危険です」
「危険って! 陽花さんが危ないんですよ!」
どうしてこの人は、自分の大事な人が危ない目にあおうとしているのに平然としているのか。
そうこうしている間にも、モンスターはゆっくりと陽花に近づいていく。
その距離はもう飛びかかって攻撃をできるくらいだ。
「がぁっ」
モンスターが一鳴きして……陽花に飛びかかった!
「っ!」
凄惨な光景を見たくないと思って思わず雫月は目をつぶった。
しかし、予想に反して陽花の悲鳴は聞こえない。
それどころか……
「あはは、くすぐったいよ~」
「へっ?」
まるで子猫とじゃれているかのような笑い声に思わず目を見開いた。
そこで見た光景は、青色と白の縞々ホシイヌが陽花の手を舐めている姿だった。
「へっ? えっ? あれ……?」
全く予想していなかった展開に理解が追いつかない。
ホシイヌがじゃれている姿はまるで、普通の犬のそれのようだ。
陽花もただ手を舐められているだけではなく、反対の手でホシイヌを撫でている。
まるで単なるペットに接するかのようだ。
雫月はそんな姿をただ呆然と眺めることしかできない。
「落ち着きましたでしょうか?」
「……島村さん? いったいどういう……」
「あれがお嬢様の日常です。お嬢様は毎日あのようにモンスターと戯れていらっしゃるのです」
「モンスターと戯れる……?」
戦うではなく、戯れる……
「雫月様のソウルストーンのモンスターとも毎日戯れていらっしゃいました」
そういえば、あれは私の持っているソウルストーンに封印されているモンスターなんだっけ?
雫月はそんなことを今更思い出した。
言ってしまえば、自分の相棒のような存在である。
大事に扱ってきたつもりではあったけど、それはあくまでも道具としてだった。
あんなふうに接するなんて考えたこともなかった。
なんだか複雑な感情になってきた雫月は、そのまま陽花を見つめる。
「さて、そろそろ遊ぼうか」
じゃれていた陽花は、そう言うと、立ち上がりホシイヌから距離を取った。
「陽花さんは……いったい何を……」
雫月は戸惑う。
遊び? じゃれるではなく遊び?
「雫月様、よくご覧になってください」
戸惑う雫月に千晴はそんな言葉を投げかけた。
「これこそが陽花お嬢様の日常です」
ある程度距離を離した陽花は振り返り、ホシイヌに向き直った。
「さぁ、かかっておいで。今日こそ陽花に当てられるといいね」
ホシイヌに向かって手招きをする。
「ガァアアアア!!!」
手招きに釣られるように、ホシイヌが咆哮をして飛びかかった。
先程のようにじゃれるではない、本気の咆哮、そして本気の攻撃だった。
ホシイヌはそのスピードを活かして、陽花に向かって腕を振るった。
「そんな一直線じゃ当たらないよ~」
陽花はそれをなんなく避ける。
しかし、すぐさま反対の手が逃げた先の陽花を襲う。
「おっとっと、そうきたかぁ」
陽花はそれすらも、避ける。
それどころか。
「えりゃっ!」
攻撃してきた腕を掴み、投げた。
ホシイヌの攻撃の勢いを利用しての投げはホシイヌを転ばせるのには十分だった。
「グゥ!」
転ばされたホシイヌは悔しそうに立ち上がり、陽花を睨む。
「さぁ、まだまだできるよね」
それを見て陽花は嬉しそうに笑った
「これが陽花さんの日常?」
攻撃を躱し、投げる。
ただそれだけを何度も何度も繰り返す。
ちょっとでも当たってしまえば、致命傷になるかもしれないのに、それでも陽花は笑みを崩さない。
「陽花さん……強すぎません?」
自分もモンスターと戦う者としてわかった。
少なくとも、ソウルストーンを落とす前の自分が陽花に敵うとは到底思えない。
それどころか、今の自分だって、陽花に攻撃を当てられる気がしない……
「陽花さん、ウェアもしていないのに……」
そう陽花はソウルストーンを使ったモンスターの力を使っていない。
つまり、彼女は素の状態であれだけ戦っているのだ。
モンスターとはウェアしている状態でしか戦えない。
そんな常識が自分の中で今崩れていくのを感じる。
「お嬢様はウェアしないのではなく、できないのです」
「えっ?」
千早は雫月の言葉を訂正をする。
「お嬢様にはソウルウェアとしての適正が全くありません。なので、ソウルストーンから力を引き出すことができないのです」
千早のその言葉に、雫月は愕然とした。
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