第8話 お家にご招待

「ごめ~ん、待たせちゃった?」


「いえ、大丈夫ですよ」


 雫月が陽花を訪ねた日の放課後、二人は学校の校門で待ち合わせをしていた。


「それじゃあ、行こうか」


「ええ、お願いします」


 これから二人で陽花の日常を見に行くのだ。



 心当たりがないか、そう聞かれた陽花はこう答えた。


「う~ん、陽花はいつも通りに過ごしただけだからな~」


 つまり、心当たりはないということだ。


「そうですか……」


 当てが外れてしまった雫月としては残念だ。

 結局なぜあんな現象が起こったのかは不明のまま……


「あー、陽花のいつも通りだから……」


 ではなかった。


「島村さん? なにかあるんですか?」


 意味深な由香里のつぶやきに雫月が即座に反応した。


「うーん、口で説明するのは……」


 尋ねられた由香里は腕を組んで悩む。


「うん、直接見てもらう方がいいんじゃないかな? というわけで陽花、雫月先輩を連れて牧場に行きなさい」


「えっ?」


「牧場?」


 唐突に湧いた牧場という単語に、雫月は首をかしげた。


「どうせ今日も行くつもりだったんでしょ? ついでに連れていきなさい」


「あ、うん。今日も行くつもりだったけど……でも雫月先輩はいいの?」


「えっと、よくわからないんですけど、その牧場? に行けばなにかわかるんですか?」


「ええ、間違いなく」


 雫月のそんな疑問に、由香里は大きく頷いて返したのだった。



 そんなわけで陽花と共に学校を出た二人だったが。

 雫月は由香里が最後に言った言葉を思い返していた。


「陽花、雫月先輩にあなたの日常を見せてあげなさい。雫月先輩はどうか心を強く持ってくださいね」


 心を強く持つ必要がある日常とはなんだろうか?

 もしかして危険なことでもしているんだろうか?

 というか、今、私はどこに向かっているのか。


「えっと、陽花さん? 今どこに向かっているんですか?」


 ちょっと怖くなってきたので陽花に訪ねてみる。

 振り返って陽花は答えた。


「ひとまず、お家に行くよ。その後は牧場に向かうの」


 出た。またしても牧場という単語。

 牧場というと、あの牛とかを飼っている牧場だろうか。

 そんなところに、なにか秘密があるのか。


 そんな疑問をいだきながらも陽花についていく雫月。


「ここが陽花のお家だよ~」


「えっ!?」


 陽花が自分の家だと指差した家を見て驚いた。


「でっかい!?」


 ソウルウェア・アカデミーの理事長の姪である雫月は比較的お金持ちである。

 しかし、そんな雫月を持ってしても、陽花の家は大きく立派だった。


「ただいま~」


 唖然としている間に、陽花は家の中に入っていく。


「ほら、先輩も入ってきてよ」


「あ、お、お邪魔します」


 陽花の後に続いて家の中に入った。


「おかえりなさいませお嬢様」


「うん、ただいま~」


 家の中に入った陽花を迎えたのは一人の女性だった。

 特出すべき点としてはその格好だ。


「メイドさん……」


 女性が着ていたのはメイド服だった。しかも、古き良きクラシカルなメイド服だ。

 ロングの丈の古めかしいメイド服にメガネとポニーテイルがよく似合っている。


「おや、そちらは」


 そんな女性が雫月に気がついた。


「あ、お、お邪魔します。月桜雫月と申します……」


 すぐさま挨拶をする雫月。


「どうも、ご丁寧に。私は花宮家のメイド長兼従者をしております。島村千晴(しまむら ちはる)と申します」


 どうぞよろしくと頭を下げられてしまった。


「千晴さんは由香里ちゃんのお母さんなんだよ」


 島村という名字、それに由香里ちゃんとは……


「あの島村さんのお母様ですか!?」


「おや、娘をご存知でしたか。それはそれは、娘共々よろしくお願いいたします」


 急に出てきたつながりに驚愕する雫月。

 なんだか、驚いてばっかりだ。


「あ、それで千晴さん。ちょっと雫月先輩を牧場に案内したいんだけど」


「了解いたしました。ではお茶の準備をして向かいますので」


「うん、よろしく~」


 千晴は控えている別のメイドに指示を出すと、自分もお辞儀をしてどこかへ向かっていった。


「それじゃあ、案内するね。迷子にならないようにちゃんと着いてきてね」


「あ、はい……」


 家の中で迷子も……とは思うものの外見から見たこの家の広さからして迷子になりかねない。

 大人しく雫月は陽花についていくことにした。



「ここが牧場だよ」


 陽花に着いていった先にあったのは、まさに牧場という空間だった。

 芝生が敷き詰められた広い空間。上にあるのは、太陽……?

 あれ太陽ってまだあんなに高かったっけ?


 しかし、牧場とは言ったものの、動物の姿はなく。部屋に入ってすぐドアの脇に見たこともない青い水晶が置いてある。


「えっと、気づいたかもしれないけど、ここは実は普通の空間ではないんだよ~」


 あれと陽花が指さした先にはこの時間にはもう沈み始めているはずの太陽が真上に燦々と輝いている。


「……ちょっと眩しすぎるね」


 そう言うと、陽花は水晶を触る。


「えっ!?」


 すると急に太陽が沈み始めた。

 驚く雫月に、光は振り返って何事もなかったかのように言った。


「ここは擬似的なダンジョンの中なんです」

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