第7話 先輩の訪問
「おはよ~」
雫月の配信がバズったことなどつゆ知らず、陽花はいつもの日常を過ごしていた。
「おはよう陽花、昨日の雫月先輩の配信見た?」
「雫月先輩?」
朝登校して自分の席に着くやいなや別のクラスからわざわざやってきた由香里が声をかけてきた。
「……もしかして陽花、雫月先輩のこと忘れてる?」
雫月先輩って誰だっけ? 最近聞いた気がするんだけど……
「ほんとに忘れてる!? 昨日届けに行ったでしょ! 陽花が拾ったソウルストーンの持ち主だよ!」
「あ、あー。あの激レアのやつ!」
ソウルストーンと言われて思い出した。
そういえば、そんな名前だったような気がする。
「色違い激レアホシイヌの持ち主さんだったよね」
「さすが陽花……ソウルストーンの中身のモンスターのことはばっちりなのに」
もうちょっと人のことも覚えておきなさいと由香里から小言をもらってしまった陽花。
えへへとごまかす。
「えっと、それでその雫月先輩? が、どうしたの?」
「あ! そうそう! 雫月先輩の昨日の配信! 凄かったんだから!」
見て見てと言われて由香里にスマホの画面を見せられる。
そこには以前見せられたのと同じ小柄な先輩が……
「あれ?」
否、そこに映っていたのは以前とは明らかに違っていた。
「凄いでしょ! 光蓮(みつは)さんと一緒よ!」
雫月の頭には明らかにホシイヌのものと思われる耳と尻尾が生えている。
陽花はその現象に覚えがあった。
「これってシンクロ?」
「うん。だと思う」
そのまま動画を進めていくと、雫月が戦闘するシーンになる。
「うわぁ、プリン潰れた」
「入口付近のロールプリンとはいえ、一撃は凄いよね! 配信もめっちゃ盛り上がったよ!」
由香里はなぜか自分のことのように嬉しそうだ。
さらに、最後のボスとの戦闘の場面では……
「色違いのマッスルゴブリン!?」
「そう! まさかの強個体が出ちゃったの! でも……」
「うわぁ、ボスの色違いなんて初めて見た。この人運がいいんだなぁ。あっ、倒しちゃった……もうちょっと見てたかったのに」
「いやいや、その倒し方に驚きなさいよ!」
動画の誰もが驚いたボスとの戦闘。
しかし、陽花の心はそれどころじゃない。
「う~ん、もったいないなぁ。捕まえちゃえばよかったのに」
陽花は巻き戻してマッスルゴブリンの挙動を見ている。
「流石陽花……」
そんな友人を見て由香里は苦笑いしか出なかった。
そんな時だった。
「ごめんなさい、花宮陽花さんはいらっしゃるかしら?」
急に自分を呼ぶ声が聞こえたと思ってそちらを振り向くと、そこには今々動画に映っていた人物が教室のドアのところに立っていた。
「し、雫月先輩!? ひ、陽花ちゃん!?」
ちょうどドアに一番近いクラスメイトがすぐさま反応し、陽花の方を見る。
その視線を追って雫月が陽花を発見した。
「どうも、ありがとうございます」
お礼を言って陽花の元へと近寄ってくる。
そういえば昨日は逆だったなぁなんて考える陽花。
「陽花さん、昨日はありがとうございます」
教室中の注目を集めながら何事もなかったかのように陽花に話しかける雫月。
「いやいや、落とした子を拾っただけだから~」
陽花としては当たり前のことをしただけなので、そこに恩を着せるつもりはない。
むしろ、陽花としては珍しい子と触れ合えて逆にお礼を言いたいくらいだ。
「それでなにかあったの?」
陽花としては、返した時点で終わったことのはずなので、わざわざ雫月が訪ねてきた理由がわからない。
「えっと……実は陽花さんに聞きたいことがありまして……」
「聞きたいこと……?」
何故か言葉を濁す雫月を不思議に思う陽花。
「実は私は……配信をやっていまして……」
周りを確認した後に小声になってそんなことを言われた。
陽花は一瞬ぽかんとしてしまった。
なにせ……
「うん、知ってるよ。ちょうど見ていたところだから」
そう言って、見ていた由香里のスマホの画面を見せる。
そこではちょうどマッスルゴブリンを倒した雫月が喜び叫んでいるシーンでストップされていた。
「なっ!?」
まさか知られているなんてと驚く雫月。
「あー、教えたらまずかったですか?」
そのあまりの驚きように由香里が気まずそうに尋ねる。
「島村さん!? いつからいたんです?!」
「最初からいましたけど!?」
まさか気が付かれていないとは思わなかった由香里は思わず声をあげてしまった。
またしても教室中の視線がこちらに集まってきてしまった。
「あ、あー、申し訳ないです」
騒がせてしまったことにすぐさま詫びると、視線は去っていった。
「えっと、由香里は昨日のソウルストーンの落とし主を聞いた時に教えてくれて」
「そうだったんですか……すみません。まさか見られていると思わずにびっくりしてしまいました」
雫月としては配信という活動をしている以上見られていることは問題ない。
ただ、つい昨日までチャンネル登録者数が少なかったため、知らない人に見られているかもしれないという意識が欠けていただけである。
「こほん。えっと、知っていらっしゃるのであれば話は早いです」
気を取り直して改めて陽花を訪ねてきた理由を話す。
「昨日、私の配信で想定外のことが起こったのですが……陽花さん、なにかご存知ではないですか?」
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