第4話 エリアの攻略

 ダンジョンに入った雫月は一人で広い迷宮の中を歩いていく。


『初見です。一人ですか?』


「あっ、初見さん。どうも、ええ一人です。一応このエリアは一度クリアしたことがありますので、ご安心ください。流石に一人なので途中で引き返しますが」


 初見、初めて見に来てくれた人への質問に応える。


『へぇ、ここってCランクですよね?』


「ええ、そうですよ、Cランクの無属性の迷宮です」


 ダンジョン島にあるダンジョンは1つだけである。

 ダンジョンの中はエリアで区切られていて次のエリアに行くためにはエリアボスを倒し出口の扉をくぐる必要がある。

 エリアとエリアの間には、セーフエリアというものが存在し、ポータル扉を使ってワープも可能になっている。


 またエリアごとにランクも決められていて、ダンジョンの入り口に近い方から段々とランクが上がっていく。

 次のランクのエリアに行くためには、現在のランクのエリアをすべてクリアする必要がある。

 つまり、Bランクのエリアに行くためには、Cランクエリア3つをすべて攻略する必要があるのだ。


 ちなみに、このランクは単純に入り口の扉からエリアボスを倒して出口の扉を出るまでの難易度なので、先人が切り開いたルートを外れた時にはこの難易度は全く宛にならないものであるが……

 基本的に、エリアの入り口に近いと敵が弱くなり、そこから離れるごとに強くなっていく。

 入口付近はどのランクの敵も同じくらいの強さであるが、出口付近の強さは全く違うことになっている。


 ソウルウェア・アカデミー攻略科の卒業条件はCランクエリアを2つ攻略となっている。

 つまり、2年生の時点でCランクエリアを1つクリアしている雫月はなかなかに優秀というわけだ。


 今回雫月が潜っている無属性の迷宮は小部屋が幾重にも繋がっている迷宮で、道を知らないと迷うことで有名だ。

 もっとも、入り口から出口までの道順は完全に確立されておりただ攻略するだけなら迷うこともないが。


『へぇ、小さいのにもうCランクを攻略済みなのか。凄いね』


「小さいって……私これでも17歳なんですけど」


 小さいというコメントに、思わず顔をしかめながら返す。


『17歳!?』

『いやいや、そんな……えっ?』

『えっ? 小学生かと思ってたのに……』


「いやいや、そもそも小学生がダンジョンに入れないじゃないですか!」


 雫月の服装は、近所でも可愛いと評判のアカデミーの制服。

 実は雫月の身長のサイズのものがなく、特注だったりする。


『コスプレかと……』

『あー、いつもちょっとコスプレ感あるけど、今日は獣耳が生えてるから余計にそれっぽく見えるね』

『獣耳少女が可愛い! チャンネル登録しました!』


「チャンネル登録はありがたいけど、なんか複雑です!」


 そんな話をしながらもダンジョンを進んでいく雫月。


「あっ! ロールプリン!」


 発見したのは現在のエリアでも最弱のモンスターでもある、ロールプリンだ。

 見た目は筒型で透明なゼリー状のモンスターだ。


「よしっ!」


 高速で近づいてそのまま上から殴り倒す!

 通常、ロールプリンには打撃が効きづらく、魔法での攻撃が推奨されているのだが。


ドガン!!


 雫月の放った拳は、ロールプリンを押しつぶし、そのまま地面まで到達する。

 当然、ロールプリンはもはやその身を保っていなかった。

 まるで缶が潰れたようにペラッペラだ。


『ふぁぁあああああああwwwwww』

『潰れたwwww』

『まじかよwww』

『ザコとはいえ、粉砕しよったわ!!』

『地面にヒビ入ってるやんけ!!』

『どう考えても過剰攻撃ですどうもありがとうございます!』


 ロールプリンのあまりにもの末路に視聴者も盛り上がる。


「ははははは」


 しかし、反面、雫月は乾いた笑いしか出ない。

 試しにと思って軽く攻撃をしようと思ったんだけど、走り出した勢いがあまりすぎて、転んだところに拳が突き刺さった。

 その結果が地面にヒビが入るというとんでもない結果になったのだ。


『笑ってるぅううう』

『破壊神ですか?』

『破壊神少女はいいぞ!』

『ロールプリンが羨ましい! 小さい子に蹂躙されるのっていいよね!』

『えぇ……』


 その反応も視聴者から見れば、盛り上がりポイントになる。

 流石にこの流れで転んだだけとは言えない……


「さ、さすがに可哀想なので次はもうちょっと手加減しますね」


 次に出てくる敵にはもうちょっと手加減をしようと心に決めた。



 ロールプリン、マッシュラビット、ホネコウモリといったモンスターを次々と倒していく。

 それも全て一撃だ。


『Cランクエリアとはいえ一撃かぁ』

『まだまだ入り口付近だから弱いとは言ってもなぁ』

『やっぱり獣耳効果やばいね! いつもだったら5回くらいは攻撃してたよ!』


 視聴者の言う通り、いつもだったらもうちょっと苦戦……とは言わないまでも時間がかかっている。

 しかし、今の雫月は目の前に出てきた敵を殴るだけで倒している。


 しかも、その姿を見た視聴者が拡散しているらしく、視聴者の数も続々と増え始めている。


『合法獣耳ロリが敵を粉砕していると聞いて!』

『ふぁぁあああああwwww』

『かつてないほどのコメントの盛り上がり方に以前からの視聴者困惑中』

『これがバズるってやつか!』

『ルナちゃんアクティブ視聴者1万超えたよ! おめでとう!』


 1万!?

 知り合いらしきコメントに思わず見ると、視聴者の数は現在1万1000を超えたところ。

 いつもだったら、合計で10いけばいいほうなのに。


『むしろ、なんでこの子今まで埋もれてたんだ?』

『確かに、もっと話題になってもおかしくないと思うんだけど』

『埋もれてたというか……今日なんか覚醒したというか?』

『どういうこと?』

『なんかソウルストーン取り込んだら獣耳が生えてめっちゃ強化された』

『????』

『途中から見た人困惑だよなwww』


 コメントから察するに、拡散されたのを見てきた人も多いらしい。

 雫月としても今の状態は説明できないので、そのあたりは視聴者に任せることにした。

 というか、実は雫月、これだけバズってしまってどうしたらいいか困惑しているだけだったりする。


 実は人見知りもする雫月は、もはや淡々とダンジョンを攻略していくだけの機械になっている。


『そういえば、どこまで行くの?』

『このままボスまで行こうぜ!』

『エリアボスソロ討伐ワンチャン!?』

『いける? いや、いけるっしょ!』


 雫月はコメントを見て考えた。

 ここで、本当にボスを一人で討伐したら盛り上がるかもしれない。

 今の自分ならきっといける? いや絶対行ける!


「エリアボスを討伐しましょう!」


 そんな雫月の決断に視聴者はまたしても盛り上がるのだった。

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