第5話 ボスの討伐

 エリアボスを倒すと決めた雫月は急いでボスゾーンへ向かう。

 Cランクエリアはそこまで広いわけではないが、出てくるモンスターの相手をしている時間が無駄になる。


「邪魔っ!」


 走って向かっている最中に出てきたホネコウモリを片手で払うように吹き飛ばす。


『うわぁ、交通事故だわwww』

『邪魔っ!』

『こんなルナちゃん見るの初めてだわwww』

『いつもこんなんじゃないの?』

『いつもはもっと冷静だし、言葉も丁寧よ』

『急いでる時のモンスターが邪魔なのはよくわかる』

『Cランクとはいえ、入り口から離れてきたし弱くはないんだけどなぁ』


 雫月は急いでいるため、コメントに返している余裕はないが、走りながらモンスターを殴り飛ばしていく姿に視聴者は盛り上がっていた。

 そして、1時間ほどの時間でボスがいるボスゾーン付近まで来た。

 ボスゾーンは薄い透明な壁で覆われているのでわかりやすい。

 ボスゾーンの手前にはセーフゾーンがあり、基本的にモンスターは入ってこないため、ここで休憩することができる。


「ふぅ……疲れました」


『おつー』

『いや、早www』

『ワンチャンRTA記録なのでは?』

『あー、確かに余裕で勝てる人たちはわざわざCランクエリアに入ったりとかしないからその可能性はあるかも?』

『ここってのボスってなんだっけ?』


「ここのボスは、マッスルゴブリンですね」


 マッスルゴブリンはゴブリンとついているものの決して弱いモンスターではない。

 ボスに相応しい強さをもった一つの登竜門として扱われている。

 マッスルとついているだけあって筋肉自慢のゴブリンだ。


「前に倒した時は5人のパーティでしたけど」


 以前倒した時は、5人で戦いそれでもかなり苦戦をした記憶がある。

 しかし、今の自分であれば大丈夫だろう。

 自分の身体から溢れる力がそう教えてくれている。


「行きます!」


 覚悟を決めて、雫月はボスゾーンへと突入した。

 ボスゾーンの壁はボスとの戦闘中は内側から外に出ることはできない。

 つまり、戦って勝つか負けるかをする必要があるのだ。


 そんなボスゾーンの中心に、ボスであるマッスルゴブリンが立って……


「えっ!?」


 しかし、そこにいたのはただのマッスルゴブリンではなかった。


『えっ! あれ? マッスルゴブリンってあんな色だっけ?』

『いや、普通は緑色だけど、あれは赤色だ!』

『あかん! 色違いモンスターだ!』

『嘘だろ! ボスにも色違いとかいるのかよ!』

『やばいぞ! イレギュラーは強い!』

『ルナちゃん大丈夫!?』


 流石の雫月も突如現れたイレギュラーのマッスルゴブリンに呆然としていたが。


「グォオォオオオオオ!!!!」


 マッスルゴブリンの咆哮で我に返った。


 大丈夫! 負けない!

 それに覚悟はさっき決めた!


「やってやりますよ!」


 自分を奮い立たせてマッスルゴブリンへとダッシュをする。


「ガァァア!!」


 その突進に合わせて、マッスルゴブリンが自慢の筋肉を振るう。


 見える!


 叩きつけ攻撃をを横にジャンプをして躱す。

 なんだか敵の攻撃がゆっくりに見えた。


 勢いのまま、マッスルゴブリンに肉薄して、ジャンプして拳を振り上げる。


「りゃああああああ!!」


 手加減なんてしない全力だ!

 自分の全体重、全力を振り絞って拳を振り下ろす。

 それはまるでハンマーのように、マッスルゴブリンを打ちつけた。


「!?」


 硬い! まるで鉄を殴ったみたいに思える。

 でも、今の雫月の拳は鉄をも破壊する。


「潰れろっ!!」


 雫月が吠える。

 それに合わせて、マッスルゴブリンの地面にヒビが入った!


 力を振り絞って、雫月は腕を伸ばす。


ドガンッ!!


 体重を込めた力はそのままマッスルゴブリンを地面へとめり込ませていく。

 最終的には……


「はぁ……はぁ……」


 雫月が地面へと着地をする。

 眼の前にあるのは、マッスルゴブリンの顔である。


『やばぁあああああああ!!!』

『マッスルゴブリン首まで埋まっとるやんけ!』

『まじ!? 一撃!?』

『えっ? マッスルゴブリンこれ生きてるの!?』

『いやどう考えても死んでるやろ!』

『すげぇええええええ!!!』


 その戦闘時間、なんと脅威の15秒。

 まぎれもなく最速討伐記録だった。


 それをやり遂げた雫月は呆然と自分の成し遂げたことを見る。


「……倒した?」


 信じられなかった。

 まさか、自分ひとりでマッスルゴブリンを、しかもイレギュラーの個体を倒すことができたなんて。


 マッスルゴブリンが輝き、そのまま粒子になって消えていく。

 その後に残ったのは、マッスルゴブリンが埋まっていたと思われる穴だけだった。


「た、倒しました!!」


 喜びのあまり、カメラに駆け寄る!

 ドアップで雫月の顔が映る!


『おめでとう!!』

『ソロ討伐凄い!!』

『しかも色違いでこの時間は!』

『かっこよかったです!』

『俺も殴られたい!』

『かわいい!』


「やったやった!」


 喜びのあまりカメラをもったまま跳ね回る雫月。

 そんな雫月を見て、視聴者はほっこり。

 しかし、確実に伝説になるであろう回の切り抜きに勤しむのだった。


 雫月が今回の配信を始める前のチャンネル登録者数は34だった。

 しかし、現在雫月のチャンネルの登録者数は5万を超えている。

 今回の配信が驚異的な速度で拡散されていった結果だった。

 アクティブ視聴者の数は最大で10万。

 今後も登録者数は増えていくことは間違いなかった。


 驚異的な速度で成長した雫月のチャンネル。

 その発端となったのは、ソウルストーンが自分のもとに返ってきたことだった。


 もしかして、私が落としている間に何かがあった?

 拾ってくれた女の子、確か花宮さんと言ったかしら?

 明日、あの子に聞いてみるとしましょう。


 討伐を喜ぶ傍ら、雫月はそんなことを考えていたのだった。


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第6話は掲示板回になります。続けて投稿しております。

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