第2話 初めての出会い

 雫月がソウルストーンを落としてから1週間が経った。

 その間、雫月は自身のチャンネルに、しばらく放送できなくなることを記述、放課後になると宛もなくソウルストーンを探しに行く日々を過ごしていた。


「諦めて新しいソウルストーンで鍛え直した方がいいのかしら……いえ、でも……」


 落としたソウルストーンには思い入れがある。

 雫月がダンジョンに潜り始めてから苦楽をともにしてきた存在だ。

 その能力を前提に戦闘スタイルを組んでいたから、今更他のソウルストーンにして鍛え直すのも大変になる。


 しかし、一週間も探して見つからないとなるとそろそろ諦めがよぎってくるのも事実。

 このまま奇跡が起きるのを待つしかないと、後1日だけ、後1日だけと繰り返して……そして……


「雫月さん、後輩の方が訪ねてきましたよ」


 奇跡はやってきたのだった。



 ソウルストーンを拾った陽花は持ち主を探していた。

 周りの人に聞いたり、拾った場所に行ってみたりと、彼女のできる限りのことはしていた。

 しかし、それでも持ち主を特定することは難しく、一週間が過ぎてしまった。


「おはよー、陽花。久しぶり」


 その日、陽花は久しぶりの友人、島村由香里(しまむら ゆかり)に会っていた。


「久しぶり~、学園からのお仕事は終わったの?」


「うん、結構大変だったよ」


 由香里は陽花と同じ1年生ではあるが、優秀なソウルウェアとして、学園からの依頼をしていたのだ。

 なお、学園ではこれも授業の扱いとして単位になる。

 優秀な学生にだけ許された特権の一つだ。


 由香里と陽花は親同士が知り合いのいわゆる幼馴染の関係だった。

 今でもその親交は続いており、クラスが違う陽花のもとに由香里が遊びに来ることが多かった。


 久しぶりの再会に、花を咲かせる二人。


「あ、そういえば、最近ソウルストーンを拾ったんだよ」


 陽花は自分の鞄の中から拾ったソウルストーンを取り出す。

 いつ持ち主が見つかってもいいようにいつも持ち歩いていた。


「ふーん? 何が入っていたの?」


「ホシイヌの色違い、しかも、青色と白のしましま模様。激レアだったよ!」


「なにそれ!」


 モンスターには通常となる個体とレア個体がいる。

 例えば、ホシイヌの通常個体であれば、色は茶色がベースとなっている。

 しかし、極稀にイレギュラーと呼ばれる通常とは違う色の個体が出てくることもある。

 陽花が拾ったソウルストーンに封じられていたのは、まさにその中でも激レア中の激レアだった。


「それで、持ち主を探しているんだけど、ゆかちゃんはなにか気になることとかない?」


 由香里はダンジョンにも潜っていて知り合いも多い、もしかしたらと思ったのだが……


「うーん、覚えは……いえ、もしかして……」


 由香里は何かを思い出したように、自分のスマホをいじりだす。


「えっと、あっ、これこれ」


「うん? 何?」


 由香里が見せてきた画面に映っていたのは一つの動画だった。


『これからダンジョンに入っていきます』


 その動画に映っていたのは、一人の女の子の姿だった。


「ルナルナチャンネル……ダンジョン配信?」


「そうそう、先輩がやってるチャンネルがあるって聞いたから登録しておいたんだけど」


「先輩!? この人先輩なの!?」


 陽花が驚くのも無理はない、ダンジョンに入っていくその姿は明らかに自分より歳下の少女のもので、とてもだけど先輩には見えなかった。


「割と有名な先輩だと思ったんだけど、知らなかったんだ……陽花はもうちょっと周りのこと気にしたほうがいいかもね」


「ははは~」


 いつも通りのお小言を聞き流しつつ、動画を見続けると。


「あっ!」


「やっぱり」


 動画の中で少女、もとい先輩が取り出したソウルストーンには見覚えがあった。

 特徴的な柄があって間違いない。


「これだよ! これこれ!」


 まさに陽花が拾ったソウルストーンだった。

 見比べてみても間違いない。


「やっぱり、月桜先輩のものだったかぁ」


「月桜先輩っていうの? この学校の先輩?」


「そうそう、ダンジョン探索科の2年生。月桜雫月先輩だね」


「へぇ……」


 動画をよく見ると、見覚えのある制服。

 学年を示すネクタイの色は上級生を示す緑色だった。


「あれ? 諸事情でしばらく配信を中止します?」


 気になってチャンネルを見ていると、そんな本人からのコメントを見つけた。


「もしかしてこの子を落として困ってるのかな?」


「……っぽいね。それだけの激レア個体だったら確かに能力も高そうだし、困ってるかも」


「だよね! それじゃあ返しに行かないと!」


「うん、その方がいいよ。あ、私一応面識あるから一緒に行こうか?」


「いいの? ありがと~」


 そうして、二人は先輩がいるはずのクラスを訪ねたのだった。



「えっと、島村さんだったからしら? 一年の」


「お世話になっております。月桜先輩」


「お久しぶりね、以前の学内交流の時以来かしら?」


「はい、覚えていただけていたようで何よりです」


 雫月は訪ねてきた島村由香里のことを覚えていた。


「それで、なにかあったのかしら? 残念だけど、事情があって私はダンジョンには潜れないんですよ」


 ダンジョン攻略のお誘いだと思った雫月はそう返したが、由香里は頷いた。


「ええ、わかっています。先輩、ひょっとしてソウルストーンを落としませんでしたか?」


 少し声を小さくして由香里が聞いた。


「えっ! どうしてそれを!」


 雫月は驚いた。誰にも話していないのに、どうしてそれがわかったのかと。


「やはり、そうでしたか……陽花」


 由香里の陰から一人の女の子が出てきた。


「もしかして、落としたソウルストーンってこれ?」


「これは!」


 陽花の差し出したソウルストーンは自分が探し求めていた。


「間違いなく私のです!」


 自分が苦楽をともにしてきたソウルストーンを見間違うはずもない。

 こうしてようやく、ソウルストーンは本来の持ち主のところにもどったのだった。


「あなた? お名前はなんていうんですか?」


「花宮陽花! ダンジョン支援科の1年だよ」


「そう、陽花さんね。ありがとう、とても大切なものでした。このお礼は必ずさせてもらうわね」


「いやいや、持ち主が見つかってよかったよ~」


 雫月は自分のもとに戻ってきたソウルストーンを大切に撫でた。

 これで配信活動を再開することができる。


 しかし、雫月は気がついていなかった。

 自分のもとに返ってきたソウルストーンは確かに、自分のものであったが、落とした時と同じではないということに。

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