第二十話.虚空のソーセージ
「秘密って、なにか悪い事でもしてるんですか?」
「どろぼう?」
「そう泥棒……違うわ!」
マヤが言って、キツネがツッコんだ。なかなか息が合っている。
「まぁ、大したことはしてないな」
「だからお金がない」
「それはそうだけどさ」
キツネがソーセージをかじりながら続ける。自家製らしい黒い色の強いそれは、いわゆる血のソーセージだ。動物の血液と脂身で作られていて、お肉でできたそれよりも濃厚でしょっぱい。ルシアにはあまり馴染みがないが、キツネは好きらしい。
「格好良く言うと、トレジャーハンターだな。財宝や遺物なんかを探して旅してる。他人から頼まれることもあるし、自分でアタリをつけて探検に出る場合もある」
トレジャーハンター、そんなのもあるのか。お宝を探して旅をしている、聞こえは良いが安定した収入にはならなさそうだ。
「宝探しがメインで、他の仕事はしないんですか?日雇いとか」
「マヤが人間嫌いだしな」
「きらい」
そういえばそうだった。ルシアと話す時はあまり気にならないが、マヤは人間が嫌いだった。
「人間が嫌いな理由ってあるんですか」
「べつに」
「あー」
と言いながらキツネが割って入った。
「まずハーフエルフってどんな種族か知ってるか?」
「え、エルフと人間の混血で」
「特徴は?」
「エルフのような魔法に対する適性があって、人間と同様に生命力があり科学に対する親和性が高い。人間より寿命も長い」
「すごいだろ?」
「確かに。良いとこどりみたいな」
「だからだよ。エルフからも人間からも妬まれる。羨ましい!ってな」
「なるほど」
確かにそれはそうだ。いろんな人種のるつぼみたいな帝都にいると忘れがちだが、そう言った妬みなんかも聞くことはある。
「苦労してるんですね」
「ねぎらって」
そう言いながらマヤが頭を突き出してきた。ルシアはそれを胸に抱えて頭を撫でてやった。ヨシヨシ。それを眺めるキツネ。
「キツネはだめ、ソーセージでもくってろ」
マヤに言われてしぶしぶソーセージを口に運ぶキツネ。大きく口を開けて、パクッと口を閉じた瞬間、ソーセージが消えた。
「!?」
目を丸くして驚いた表情。それを見てマヤは大笑いし始めた。
「あっはっはっは!」
指を指して笑う。どうやら複製の魔法でソーセージを増やしていて、それが食べる直前に消えたらしい。
「なんか多くなった気がしたんだよ……」
「ぷはははは!」
笑い続ける彼女をみて、二人もつられて笑ったのだった。
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