第十九話.冒険者の収入って?
名もなき集落。地名はあるのだろうから、実際は何か名前があるのかも知れない、でも誰も知らない。そんな小さな村に到着した。
「やっと久しぶりに野宿から解放されるな!」
「ごはん」
キツネが大きく伸びをする。マヤはすでに空腹を訴えている。今日は宿をとって、温かい物を食べるのだ。一同は一直線に酒場に向かう。木製の扉を開けると、これまた古い木の匂いが鼻先を通っていった。小さなテーブルがいくつか並んだこじんまりとした店だ。何かいう間も無く、三人は席に着き思い思いの食事をオーダーする。
「お待ちどう!」
そう言って初老のおじさんがビールを持ってきた。伝統的なエールタイプのビールだ。すこし赤色がかっている。ついでに来たばかりのそれらをテーブルに無造作に置いていく。
「今日も無事で、酒にありつけたことに乾杯!」
「かんぱい」
「乾杯!」
帝都では設備が揃っているので低温発酵のラガービールのシェアが大きいが、この村のような小さな集落では伝統的な製法で醸造されるエールが主流である。常温のそれをぐっと喉に通すと、ほのかにりんごにも似たフルーツのような香りがする。ビール特有の苦味は少なく酸味が強め、まるでワインのような深い味わいだ。泡もきめ細やかで心地よい。
「おいしい」
「最高だな!」
ビールと温かい食事を楽しんでいると、一つ気になった事があったのを思い出した。
「そういえば冒険者の人たちって、どうやって生計を立てているんですか?」
「どうしてると思う?」
ニヤっと口角を上げてキツネがそう言った。
「うーん、さっきのスライムみたいに魔物から収入を得ているとかですか」
「ないない。さっきみたいなラッキーは滅多にないぞ」
「うーん」
わからない。何か仕事をしているのか。
「ヒントをあげよう。まず冒険者は住所不定で定職を持っていない。特技は暴力だ。そして街から街へ旅をする」
「そう聞くとなんか怖いですね」
「まぁな。実際冒険者の収入としては、まずは恐喝、そして賭博とか?」
「金を借りて飛ぶ」
「それもあったな」
「ろくなもんじゃないですね……」
はっはっはとキツネが笑う。どこまで本気なのだろうか。
「まぁ冒険者っていうのは生き方であって職業じゃないからな。みんなそれぞれだよ。日雇いの仕事をするやつもいるし、用心棒なんかをするやつもいれば、実家が金持ちで働かないやつもいる。商売をしてるやつもいるな」
「なるほど、みんなそれぞれって事ですね」
「結論から言えば、な」
「じゃあキツネさんとマヤさんは何をやっているんですか?」
「……」
「え?」
「それは秘密だ」
なんだこいつ。
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