第十八話.恐怖!地獄のスライム
「なにかいますね」
「何?」
「あそこに……」
ルシアが指を指す。マヤとキツネが覗き込む。大きな木と木の間。根っこが絡み合った隙間の部分に、なにか光るものがあった。
「おっスライムだな」
「スライム」
慣れた手つきでスライムの情報を探す。
【スライム】
酸性の粘液を持ち、取り込んだものをゆっくりと消化して栄養とする魔物。厳密には一つの個体ではなく、ちいさな粘液状の生き物がより集まって見かけ上の一つの塊を構成している。移動する事は稀で、一箇所で蜘蛛の巣のように待ち構えていることが多い。水気のある湿った場所を好み、誤って触れてしまったモノを捕食する。
「触らなければ無害なんですね」
「うん、まぁ。雨が降ってたりすると厄介だけどな。見え難いから危ないよ」
「迂回しましょうか」
「そうだな」
触らぬ神に祟りなしだ。そう言いながら遠巻きにスライムを見ていると、マヤが急に二人の腕を引っ張った。
「まって」
「何?どうした」
「よく見て」
マヤに促されてスライムをみる。半透明なゲル状の体内に、なにか光る物があった。金色に輝くそれは、帝国でも使われている金貨だ。このスライムに捕食された人間の所持品だったのだろうか。
「金貨だ」
「ほんとだ。金貨はスライムの酸で溶けないから、それだけ体内に残ったんだろうな」
「取りに行って」
マヤの指示が飛んだ。取りに行くのではなく、行ってというのが彼女らしい。
「スライムの消化液は骨まで溶かすぞ」
「うん」
「すごく嫌なんだけど」
切ったり叩いたりしても広がるだけでスライムは死なない。よしんば死んだとしても、粘液の酸が消えるわけでもない。
「お金は必要」
「まぁ……」
そういえば冒険者の懐事情、というか収入はどうなっているのだろうか。何をしなくともお腹はすくわけで、何かしらお金を得る手段は必要だ。差し当たっては酸性のスライムの体内から安全に金貨を取り出す方法が。
「剣で斬って、取ってきたら?」
「剣が痛むしなぁ、それに攻撃したら液が飛び散って怪我するし……」
ちらりとルシアの方に視線が集まった。何か案を出せということだろう。スライムの粘液が酸性だから重曹で中和するとか?無い無い。あっ、ちょうどお掃除しようと思ってたんだとか言ってカバンから重曹が出てくるはずもない。
「あっ、そうだ。スライムは別に金属を食べたいわけじゃないんだから。剣を使うのは良いかもしれませんね」
「剣を?」
「はい、スライムに剣を食べさせましょう。斬ったり叩いたりしないで優しく」
「わかった」
そういうと、マヤはキツネの剣を取ろうとする。待て待てとその手を押さえるキツネ。
「まって、まって、剣が痛むから!」
「いい。複製する」
マヤがそういうと、あっという間にキツネの短剣は二つに増えた。
「食べさせてきて」
「俺が?スライムに近づいて、わざわざ剣のコピーを食べさせるの?」
マヤとルシアは同時に頷いた。
「やだなぁ……」
嫌がりながらも、キツネは慎重にスライムに近づいて、自らの剣をスライムの上にそっと置いた。スライムは反射的にそれを食べた。
「食べたよ」
「はい」
「何も起こらないぞ?」
そう言ってキツネは足元のスライムをみる。しばらくすると、それはもぞもぞと左右に蠢いて、金貨と剣を両方吐き出してしまった。
「うわ、ほんとに出てきた!」
「やった」
キツネとマヤが喜びの声を上げる。そして、金貨をつまんでキツネが戻ってきた。
「なんで?」
マヤは嬉しそうに、そうルシアに問うた。
「えっと。ほら銀歯で、アルミ箔噛んだら気持ち悪いじゃないですか」
「んー?」
「まぁわからないなら……」
「ガルバニー電流?」
「やけに詳しいですね。それです、二種類の金属を食べさせたら気持ち悪くて吐き出すんじゃないかって思って。アイデアが上手くいって良かったですね」
なるほど。と合点が入ったような顔をするマヤと、一つも話を聞いていないキツネ。とにもかくにも金貨を一枚儲けたのだった。
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