第八話.マヤの大魔法

「ところで、マヤさんって魔法使いですよね?」

「うん」


ぼそっとした声で返事が返ってきた。聞かなければならないのは、さきほどのゾンビ襲撃事件のことだ。


「ゾンビが出てきた時、私の後ろに隠れて……盾にしましたよね?」

「うん」

「人のこと盾にするのはやめてください」


マヤは、はてなが頭に浮かんだような表情でルシアの言葉を聞いている。


「後衛だし?」

「私は民間人ですよ」

「あー」


そっか、と声を出して頷いた。何か理解してくれたようだ。さすがに毎回、肉の盾にされるわけにはいかない。ルシアにはエルドラアドに関する情報を、帝都の皆に届けると言う使命がある。志半ばにして死ぬわけにはいかないのだ。


「ところで、マヤさんって何の魔法が専門なんですか?」

「んー」


んーっと言いながら袋の中から何か取り出して見せた。帝都で使われているコインだ。銅貨が一枚。それをこちらに見えるようにした後、手のひらの中に隠してしまった。


「えい」


掛け声一つ。再びマヤが手のひらを開けると、何とそこには銅貨が二枚。


「うわっ増えた!」

「ふふん」


マヤは自慢げな顔をする。これはすごい魔法だ。


「コインを二枚に増やす魔法!?」

「ちょっとちがう」

「でもこれができればお金を増やしたい放題じゃないですか」

「制限時間がある。それに……」


そう言いながら、コインを二枚ルシアの手のひらに握らせる。見た目には同じように見えた二枚のコインだが、触ってみると何か違う。


「なんか違う?」

「うん。完全な複製じゃない」

「そうなんですね」


貨幣の偽造は重罪だし、それを流通させると死罪もありえる。ルシアは二枚の銅貨をマヤに返しながら続けた。


「他には何か得意な魔法ってあるんですか?」

「ないよ」

「ない?」

「うん。複製の魔法だけしか使えない。それを極めてる最中だからね」

「なるほど……」


なんか他で聞いたことある魔法使いと違うぞ。火を出したりできるんじゃなかったっけ。


「火を出したりは……?」

「初歩の魔法だね、使えない」

「えっ」

「他の魔法に使うリソースを全部一つの魔法に注いでるから。そんな雑魚魔法に割ける余力はないよ」

「なるほど」


なるほど、わからん。魔法使いには魔法使いの事情があるんだろう。記者はただ取材をして、情報を正しく皆に伝えるだけなのだ。

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