第九話.野宿はご安全に
「このままもう少し南に進んでいくと、小さな村があるみたいです。このペースだと三時間くらいでしょうか」
地図を見ながらルシアはそう言った。長い歴史の中で、人々は未開の地を開拓し地図に落とし込んでいった。未だ前人未到の地が多いとはいえ、樹海の中には少数民族や森に暮らすものの集落が点在している。
「ルシアが地図を持っていて助かったな」
「確かに」
キツネとマヤがルシアを褒める。地図もなしに、今までどうやって冒険者してきたんだろうか。
「もう日も沈むから、移動は明日の朝にしよう。今日はここで野営だな」
「はい」
野宿だ、ワクワクする。これぞ冒険っていう感じだ。この時のために帝都で一番人気の寝袋も買ってきたのだ。どこで眠ろうかと思って辺りを見回していると、キツネが近くの木々の間にロープを通してハンモックらしき物をこしらえているらしい。
「地面に直接寝ると底から冷えるよ。身体はなるべく地面から離した方が良い。あとこの辺は……」
キツネが短剣で地面に積もった枯葉をめくると、その中からムカデみたいな虫が出てきた。咬まれると痛いヤツだ。さっと逃げようとするそれを短剣で串刺しにしてしまう。
「このとおり」
そう言いながら、ムカデの牙の生えた頭を落として見せる。樹海に入ってからというもの、大きな虫が出るのは茶飯事なのでルシアもそれを見慣れてしまったらしい。帝都にいた時は親指ほどの虫にも驚いていたものだが。邪魔な枝を払い、虫を退けてバランス良くロープを張る。手際良く作業をしていって、作り終わった頃に声がかけられた。
「終わった?」
そうこうしているうちに、座って休んでいたマヤがのそのそと起き上がってきた。この人は今から寝床の準備をするのだろうか。
「うん」
マヤはキツネが作ったハンモックを見て何か一言二言唱えると、片手で揺れるロープを掴んだ。すると一瞬でそれと同じハンモックが、横の木と木の間に出現した。それに置いてあった私の寝袋も、気がつくともう一つ。
「複製の魔法……」
「うん」
ぼそっと面倒そうに返事をすると、マヤはハンモックの上に登って寝袋に包まってしまった。頑張って一ヶ月の給料分を叩いた高級寝袋と、キツネが汗水垂らして作った寝床の恩恵を一瞬でコピーするなんて。
「魔法使いって……なんだかずるい?」
「便利って言って」
そう言うと、マヤはルシアの分のハンモックも複製の魔法で増やしたのだった。魔法って便利だね!
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