第七話.樹海に入る
「樹海って暗いんですね」
「あー、そうでも無いけど。この辺はな」
緑の傘が空一面に広がり、地表にはまばらな光が落ちている。道なき道をしばらく歩いていると、藪の中から突然数体の人影が飛び出してきた。随分と見窄らしい人間だ、落ち窪んだ目玉からは生気は感じられない。ゾンビだ!
何事を言うよりも早く、さっとルシアとマヤの前にキツネが立つ。いつのまにか剣を抜いて、片手で構えている。
「下がってろ」
キツネは振り向く事なくそう言った。ルシアが慌てていると、彼女の後ろにマヤが隠れた。
「ちょ……ええ!?」
「危ない」
「危ないのはこっちだよ!マヤさんも戦うんじゃないんですか?」
「魔法使いは一番後列」
「後列って、私は記者で、戦闘員じゃ無いんですけど!?」
そう言い合っていると、キツネが剣を一振り。一番正面にいたゾンビの首を刎ねた。ぱっと黒いものが飛んで、その胴体は後ろに倒れた。後二体。じわりじわりとゾンビがにじり寄ってくる。
「えーっと、ゾンビは……」
魔物についての資料を持っていることを思い出し、該当の項を調べる。
【ゾンビ】
徘徊する死者。死骸がなんらかの力によって動いているモンスター。魔法的な力によって外から動かしているものと、屍蟲などの虫型魔物が取り付いて内部から物理的に動かしているものがある。魔物としてのゾンビは後者である。屍蟲はゾンビを動かして獲物に襲いかかり、幼虫を産みつけて新しいゾンビを作り繁殖する。樹海の中だけで生活環が確立していると言える。
「きも」
横から覗きこんできたマヤがそう一言。そうこうしているうちに、残りの二体もキツネが斬り捨てていた。地面に転がるゾンビの死体。ゾンビの死体とは変な感じだが。
「結構沸くんだよな、ゾンビ」
「中に屍蟲っていう魔物がいるかも知れないです。気をつけてください」
「へぇ」
しばらく動かなくなったゾンビを見ていると、ゾンビの口から赤い芋虫のようなものが顔を覗かせた。キツネは器用に剣の先で突いて、それを取り出した。ニッと笑ってルシアにそれを向ける。
「要る?」
「いりません」
屍蟲は、なんかキシャーって声を出して牙を剥き出しにしている。やめて欲しい。
「ゾンビの中にこんなヤツが潜んでいたんだな。今まで知らなかったよ」
「そのまま放置しておくと次来た人が危ないので、ちゃんと処分した方が良いと思いますよ」
「はいはい」
キツネは屍蟲を両断すると、軽く地面に穴を掘って死骸を埋めた。牙や針がある魔物は、誤って踏んづけてしまうかもしれないので地面に埋めるのがマナーだ。足の裏に刺さるかもしれないからね。
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