第六話.出発前に装備を整えましょう
「ところでキツネさん。キツネさんは戦士なんですよね?」
「そうだよ」
ルシアの唐突な質問に、キツネは短く応えた。今日はショッピングだそうだ。冒険に出かける前に、必要な物資を買い込む。次の補給場所を決めて、そこまで辿り着くためにいろいろなものを準備するのだ。補給できる村や街に到着できれば、またそこで補給して、そうやって長距離を移動する。
「その割には鎧とか、盾とか。そんなものを持っていないし、それっぽくなくないですか?」
「あー」
そう、すごく軽装なのだ。キツネは剣は持っているが、それだけ。まるで魔法使いのように軽装である。マヤに至っては魔法の杖とか魔導書みたいなものもない。手ぶらである。紙とペン、カメラは常に欠かさずに持っているルシアの方がまだ用意が良いくらいだ。
「本当は盗賊?」
「いや、戦士だよ」
「魔法使い?」
「戦士だって」
ふぅん、と声が漏れる。上から下まで眺めてみるも、やっぱり戦士というイメージはわかない。昨日の酒場での身のこなしを見ると、すごい強いんだろうなという実感はあるが、すごい戦士かと言われると。
「戦士って、ムキムキで、斧とか持って鎧着てるイメージ」
「そう言われてもな、装備はこれだけだよ」
そう言いながら大小二振りの剣を抜いて見せた。そんなに高価なものでは無さそうだが、しっかりと手入れがされていて新品のような輝きだ。
「今日は何を買うんですか?」
ルシアがそう尋ねると、キツネはマヤの方を見る。だるそうにマヤが短く応えた。
「食料と水」
なるほど、とメモを書く。戦士の武器は剣。食料と水を買い込みいよいよ樹海に挑む……。そんなことを書きながら昨日のことを思い出す。
「マヤさん、今日はおとなしいですね」
「……」
話を降るも、マヤはフードを被ったまま返事を返さない。人見知りって言ったって、昨日あんなに呑んでは喋ってたのに。
「マヤさんとも仲良くなりたいです。いろいろ教えて貰いたいこともあるし」
「……」
マヤは黙ったまま、不機嫌な表情を崩さない。せっかく同行取材ができるようになったんだ、なるべくなら打ち解けて、話がしたい。どうしたものかとキツネの方を見ると、何が面白いのかニヤっと笑った。
「今日は話かけてもダメだよ、なぁマヤ」
「……」
しばらくの沈黙のあと、マヤは口を開いた。
「頭いたい」
完全に二日酔いである。
そういうことかと理解して、今日は必要なものを買った後に解散することになったのだった。
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